Paul Heaton
('02/07/25-26@University of London Union - London, England)


The Beautiful Southのリーダーでメインシンガー/ソングライターでもあるPaul Heatonの初のソロツアーを見て来ました。今回のツアーは、昨年秋に一旦"Biscuit Boy aka Crackerman"という名義でリリースされた初のソロアルバムが7/22に本人名義で再リリースされるのに伴って行われたもので、アルバムリリースの日にグラスゴーからスタートした5日間のミニツアーの3、4日目のロンドン公演を見ました。

Paul Heatonをライブで見るのは私にとっては2年前のCambridge Folk FestivalでThe Beautiful Southのバンド仲間(でソングライティング・パートナー)のDavid Rotherayとデュオ(途中からはJacquelene Abottも加わってトリオ)形式でのライブを見て以来ですが、バンド形式でのライブとなると'92年7月のThe Beautiful Southの唯一の来日公演(東京公演は2日とも見に行った)以来と実に10年ぶり。今回のツアーはもともとMark Knopflerのライブがあるということでマークしていた(洒落ではない、、)日程の近辺だったため、発表されたその日のうちにチケットをオンラインで予約したのでした。

今回のロンドン公演の行われた会場はロンドン大学の構内にあるULU (University of London Union)というところで、日本でいう生協会館みたいなビル(らしい)の中のライブハウス形式となっている一室で行われました。ここでは過去に有名・無名とりまぜ結構いろいろなアーティストがライブをやっているらしいです(Suzanne Vega, Echo & the Bunnymen, Starsailor, Evan Dando etc.)。

コンサートはチケットを買う時に7時開演と発表されていたので、1日目は6時20分頃に行ってみたのだけど、入り口にはスタッフと思しき人がいて、開場が7時半からで、チケットの引き換え(アメリカ風にいうとWill Callってやつです)も中で開場後だと言われたので、しばし周囲をお散歩(ここらへんは泊まったことのある地域なのでちょっと懐かしい)。7時を回った頃にもう一度行ってみたところ、スタッフの人が増えていたので今度は別の人に聞いたらまた同じことを言われたので目の前にある本屋で時間を潰し、あと10分となったところでまた行ってみたら今度は入場を待つ列が出来てました(20〜30人くらい)。。。さらにチケット引き換えで出遅れたものの、やっとのことで中央よりやや左(Paul Heatonの目の前!)の3列目を確保しました。2日目はこの反省を活かして7時過ぎに着くように行ってみたらスタッフがいなかったので、建物に入って受付でチケット引き換えできるか聞いてみたところ、「あと20分」と言われたので忠実に20分後に行ってみたものの、まだ、まだ、と言われ続けてるうちに、外から中に入って来た人達に先を越されてしまいました(涙)。やっとのことで中に入ったら、前日と同じような場所でやっぱり3列目、、、だけど前にいた人達が2階の椅子席に座るため移動したので2列目に行くことが出来ました。で、結局Paul Heatonのステージは、8時から前座が30分演奏した後の9時からという予定となっていました。

前座はDeparture Loungeというデビューしてまだ4ヶ月の4人編成のバンドで、ボーカル兼アコギ、キーボード、ダブルベース、ドラムというのが基本構成。でも曲によってはフルート、サックス、トランペット、ハーモニカ(ドラム&ハーモニカというのが結構信じられなかったりする)なんかも演奏してて、結構多才な人達でした。ボーカルの人は、見た瞬間年の割にやけに疲れた顔(名前思い出せないけど背が小さいイギリス人俳優に似てる、、)だなぁと思ったのだけど、声もだみ声で歌もあんまりうまくなかった。。。で、最初のうちは曲の方もキーボードの音がやたらスペーシーな響かせ方で、1曲目がインストだったこともあって、苦手な音だ、、とか思ってたのだけど、3、4曲目からはキーボードの代わりにサックスとかハーモニカが入ったりして結構ルーツ・ロック的となり、さらになぜだかDestiny's ChildのSurvivorのダークなカバー(歌にはまるでトーン無し、、)とかやったりして、後半はわりと面白かったです。観客の反応は概ね良かったようで(The Beautiful Southのメーリングリストでも好評だった)、立派にウォームアップの役割は果たしてました。

その後30分休憩が入った後、9時をやや回ったところで暗闇の中をPaul Heatonがバンドを引き連れて静かに登場、コンサートが始まりました。以下がセットリストです:

1. If
2. Perfect Couple
3. Last Day Blues
4. Man's World
5. Poems
6. Sailing Solo (新曲)
7. Real Sad Blues
8. 10 Lessons in Love
9. Just A Few Things... (新曲)
10. Bar Stool
11. Proceed with Care
12. Mitch
(Encore)
13. You're the One That I Want ~ ラップ調の詩
 ※セットリストは2日間とも同じです

バンドは6人編成で、エレキギター、アコギ、ベース、キーボード、ドラム、そしてバックボーカルという構成。曲によってはアコギの人がトランペットやタンパリン、キーボードの人はピアニカを弾いたりして、またBrian Kennedy似のベースの人は後半はダブルベースを弾いてました。バックボーカルは小柄で色の黒い、Swept AwayのジャケットでのDiana Rossを思わせるLauraine Macintoshという女性(※Deacon Blueのメンバーのロレインとは違います)で、アルバムでもバックボーカルとして3曲に参加してる人なのだけど、The Beautiful Southの女性ボーカルだったJacquiをハスキーにしたような声の持ち主で、パンチのある歌声を聞かせてくれました(張り切り過ぎてときどき強く声を出し過ぎることもあったけれど)。

大きな歓声の中、ライブはまず割と地味目なIf(ソロアルバム収録の曲の方です)からスタート。続いて演奏されたのは再リリースされたアルバムからの”ファーストシングル”のThe Perfect Coupleで、Lauraineとときおり視線を交わしながら歌うPaulは声の調子も良く、一気に盛り上がりました(Jump around!というところでの展開はお分かりですね)。ここらへんからPaulの動きも多くなってきて、マイクスタンドを操りながらステージを前後左右し始めました。その後Last Day Blues, Man's World, Poemsと続いたとこまではPaulとLauraineのデュエット状態で歌われました(Man's WorldでのLauraineの歌声はかなり印象的でした)が、その次に演奏された新曲Sailing SoloあたりからはPaulがメインでLauraineがサポート、という感じになっていきました(Paulの声が好きな人にとっては望み通りの展開)。Sailing SoloはOne Last Love Songを彷佛とさせるメロディ(というか、かなりそっくり)のバラードで、キーボードとトランペットをバックにじっくりと歌い込んだPaulのボーカルは味わい深かったです。

ちょっとゴスペル調のReal Sad Bluesをはさんで演奏された10 Lessons in Loveは文句なしに今回のライブのベストトラックで、一番盛り上がったナンバーです。アルバムではMiaow収録のHold on to What?(名曲)のように後半徐々に盛り上がって余韻を残しながら終わる佳曲(個人的にはアルバムの中で一番好き)ですが、ライブではグッとノリの良いファンキーなアレンジとなっていました。Paulもこの曲でだけはマイクをマイクスタンドから外して、足を高く上げながら歩き回り、ときおり観客を煽るようにステージから身を乗り出しながら歌うという場面すらあり、まさに”熱唱”という言葉がふさわしい素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。バンドメンバーもPaulの動きにつられてか、この曲あたりから動きが大きくなったし、観客の反応も実際断然良かったです。

その余韻が残る中演奏されたもう一つの新曲Just A Few Things...は、ピアニカも加わったちょっとカントリー&ウェスタン調の軽快なナンバーで、曲に合わせて観客から起こったホイッスルとのマッチングも良かったです。この後、ゆったりとした曲調の中でPaulとLauraineの歌声が印象的に響くBarstool(この曲でのLauraineの歌声は評判良かったです)、Paulのボーカルが(特に後半で)アルバムバージョンよりも遥かにエモーショナルだったProceed with Careと続き、昨年アルバムからのファーストシングルとしてリリースされたMitchで大いに盛り上がりました。Mitchはやはりアルバムバージョンよりもだいぶファンキーなアレンジとなっており、ギターもワウワウ唸ってました。この曲は10 Lessons in Loveと同じくらい良かったです。

Mitchで一旦Paul達が退場したのですが、大きな歓声と拍手が続く中しばらくして、ビールを持ったPaulとバンドが再び登場してアンコールが始まりました。1日目は演奏が始まる前に盛んに"Sheep! Sheep! Sheep!"と連呼してる人達がいたのだけど、Paulは一言クールに"No."と返して演奏が始まりました。曲調はだいぶジャジーな感じで何だか最初わからなかったのだけど、Paulが歌い始めたところでOlivia Newton-John & John Travoltaで知られるYou're the One That I Wantだとわかりました(You Should Be Dancingとか昔レパートリーに入ってたくらいだし、結構この時代のディスコ調の曲が好きみたい)。落ち着いたアレンジに合わせてかPaulは低い声で歌ってて、とってもねじれた世界を演出してましたが、ひととおり歌詞を歌い終わった後におもむろに詩?の朗読を始めました。私はあまり聞き取れなかったのだけど(汗;;)、Paulが友人達とバーで飲んでて「誰が世界で最悪で、一番憎まれているか」という話をしたという設定で、エリザベス女王や保守党、サッチャー元首相、マラドーナ、ジョギングする人達、タバコを昔吸っていた人達(止めた人達、という意味)、などとどんどん名前を挙げていくのですが、徐々にPaulの口調が早く激しくなっていき、約5分ほど続いた後、「そのうち友人達はみんな帰っていた」と言ってPaulがステージを去って、コンサートが終わりました。

全部で70分弱とちょっと短かめのコンサートでしたが(バンドの練習期間が短くてこれしか覚えられなかった、と他の日にPaulは説明していたらしい)、Paul & バンドの出来は両日とも良く、聞きごたえ/見ごたえのある演奏でした。2日目の方が金曜日ということもあってかよりテンションの高い観客が多かったようで、より盛り上がったのですが、コンサートが終わってからも観客の多くが"We want more!"とかいいながらその場を動かずに歓声を送り続けていたのが印象的でした。ホールから出ても入り口にあるパブで多くの人が飲んでるし;-)

コンサートのあいだじゅう観客から終始"Heaton!"(トー、と後ろに抑揚をつけるのがイギリス流)とか"Go popstar!!"(こう言ってた人は特定の人だったのだけど、この叫び声はちょっとかなり強烈だった、、)といった歓声が盛んに上がり、ソロアルバムからの曲ばかりなのに一緒に歌っている人が周りに多かったのにも驚かされた、熱気に溢れるコンサートでした。The Beautiful Southは日本での知名度からは想像できないほどイギリスでは人気があるわけですが、やっぱり本国で見ると違う、とつくづく実感させられました。

The Beautiful Southのレパートリーは今回まったく演奏されず、時間的にもやや短かかったですが、内容的にはとっても充実していて、盛んに動き回りながらも一曲一曲を一生懸命全力で歌っているPaul Heatonの姿にはとても胸を打たれました。Eddi ReaderやDaryl Hallにも匹敵するPaulのヴォーカル・パフォーマンスを堪能出来た、とっても心に残るコンサートでした。やっぱり見に行って良かった。


関連リンク:
Paul Heatonのオフィシャル・サイトはこちら
The Beautiful Southのオフィシャル・サイトはこちら

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