Sings the Songs of Robert Burns
(アルバム, '03)
Rough Trade, RTRADECD097(英盤)
曲目
1. Jamie Come Try Me
2. My Love Is Like A Red Red Rose
3. Willie Stewart/Molly Rankin
4. Ae Fond Kiss
5. Brose and Butter
6. Ye Jacobites
7. Wild Mountainside
8. Charlie Is My Darling
9. John Anderson My Jo
10. Winter It Is Past
11. Auld Lang Syne
オフィシャル・サイトで試聴が出来ます。
クレジット
(ソングライティング)
1〜 6, 8 〜 11. Robert Burns
7. John Douglas
(プロデュース)
Boo Hewerdine
解説
Driftwoodに続くソロ7作目。ただDriftwoodは実際にはSimple Soulと同時期に録音されていたので、録音時期から見れば2年4ヶ月振りの新作と言うこともできる。
今回はあらかじめオフィシャル・サイトで予告されていたように、19世紀スコットランドの詩人Robert Burns作のトラディショナルソングを取り上げた作品。プロデューサーを務めたBoo Hewerdineに加え、Kate Rusbyの夫&プロデューサーで自身でも作品を発表しているJohn McKusker(Cambridge Folk Festivalで見て以来、この人とっても才能あると思ってます)が中心となってアレンジを施し、Eddiの地元グラスゴーを本拠とするRoyal Scottish National Orchestraがレコーディングに参加している。このアルバムのレコーディングに先立って今年の1月〜2月にわたってグラスゴーで行われたCeltic ConnectionsでEddiとRoyal Scottish National Orchestraは共演しており、その時の状態のまま、アルバムのレコーディングを行ったらしい。ほかにはJohn McCuskerが連れて来たミュージシャン達(Phil Cunningham, Ian Carr, Ewen Vernal)、Christine Hanson(Eddi本人によるコーナーであるReader's Digestによると、昨年のThe Burns An' A' That FestivalでEddiと出会ったらしい)、そしてColin Reid, Roy Doddsが参加している。
Robert Burnsはスコットランドを代表する詩人で、グラスゴーに行くと実感できるが、中心部にあるGeorge Squareには銅像が立ってるし、グラスゴーから少し南に下りたエリアはRobert Burns Countryと呼ばれ、スコットランドでは親しまれ、誇りとされている存在。日本では「螢の光」として知られている曲の作者でもある(このアルバムの最後を飾っているAuld Lang Syneがそうです)。ジャケット写真でEddiの後ろの塀に貼ってある肖像画で描かれているのがRobert Burnsです。
EddiはこれまでもFairground Attraction時代のAy Fond Kiss(今回タイトル表記を変えて再録)、またMedicineのシングル盤#2に収録されたGreen Grow the Rashes, John Anderson My Joe(この2曲も表記を変えて再録)と取り上げているが、なぜ今回Robert Burnsの曲ばかりを取り上げることになったか、不思議に思う人もいるかもしれない。だが、EddiはRobert Burns関連のイベント(The Burns An' A' That Festivalもその一つ)にこれまで何回も参加していて、オフィシャル・サイトのトップページに掲載されているコメントや、Reader's Digestを読むとわかるように、今回の試みはここ数年温めてきたプロジェクトであるらしい。
曲によっては最初取っ付きづらいものもあるかもしれないが、これまでのEddiのイメージに近い2, 4, 7, 10などのバラードを散りばめつつ、Eddi自身が最も敬愛する作詞家の曲をこれまでのアルバムでは聞くことのできなかったようなアプローチで歌ったこのアルバムは、Eddiのキャリアにおいて重要な転機となるものであることは間違いない。Simple Soulのリリース以来、Eddiを取り巻く環境はいろんな意味で変わったが、この2年間に起こった様々な出来事やEddi自身の”進化(深化)”の集大成と言えるようなアルバムとなっていると思う。
ブックレットには全ての曲に対するEddi自身による解説が付いているほか、Celtic Connections(久し振りに眼鏡をかけたEddiの姿が)やスタジオでのEddiの姿を捉えた写真も載っている。またBoo, John McCuskerによるコメントに加え、Eddiによる長文が載ってて、Robert Burnsも一時住んでいたIrvineに昔家族で移り住んだ話に始まり、Robert Burnsに惹かれるようになった理由や、今回のプロジェクトがどのように進んで行ったか、などが語られている(ちなみに、今回14曲レコーディングしたそうです、、)。
以下、アルバムの収録曲について触れる。
一曲目のJamie Come Try Meは、ギターの音に続いてバイオリン、ダブルベースが加わるという、アルバム全体の雰囲気を予告するようなイントロで始まる。途中オーケストラが加わり、曲の雰囲気をふくよかにするのに一役買っている。この曲でEddiは自己を解放するような歌唱を聞かせているが、一部かなりの高音を使って歌っている部分にやや違和感を感じる人がいるかもしれない。好みの別れる歌だろう。
続くMy Love Is Like A Red Red Roseはアルバム中でこれまでのEddiらしさを最も感じさせる曲。オーケストラによる繊細な演奏をバックに、Eddiが丁寧に歌い上げている。アルバムからのファーストシングルで、イギリスではテレビ等で生演奏したりしているようだが、日本ではすでに昨年InterFMの伊藤なつみの番組(残念ながら今年3月末で終了、、)で、Eddiが一人で弾き語り(フルバージョン)で歌ってくれていた。
Willie Stewartは一転して陽気なトラッドナンバー。その後の展開に期待を抱かせるようなイントロのギターから、スローダウンしてEddiがゆったりとした歌を聞かせる中盤、メドレーで演奏されるインストのMolly Rankinまで楽しく聞ける。男性陣によるバックコーラスも楽しいし、ストリングスの音色にも心が洗われるよう。
Ae Fond Kissは、タイトル表記が違うがFairground Attraction時代のレパートリーの再録。Eddiのコメントによると、「レコード会社がEddiへの相談なく勝手に出した」あのアルバムでは、歌詞も含めてつづりを間違えていたらしい(そういえばMary Blackが発表したバージョン(こちら参照)でもこのタイトル表記だった)。個人的にはFairground Attractionが発表した中でも一番好きな歌だが、聞いていてとても切ない気持ちにさせられるFA時代のバージョンと異なり、音数が増えてゆったりとした演奏に乗って歌うEddiの歌には、哀感だけでなく、聞く者を包み込むような包容力がある。どちらが好きかは人によって異なるだろうが、14年を経てここまで豊かな表現力をEddiが身に付けたことに感慨を覚える。
Brose and Butterは、Eddiが早い節回しで硬質なボーカルを聞かせる、アルバム中でもちょっと異色なナンバー。バウロンと、反復的に演奏される低いギターの音が印象的で、荘厳さをも感じさせる。続くYe JacobitesはColin Reidのギターと会話するようにEddiが情感豊かな歌を聞かせる。ほとんどの演奏を一人だけで受け持つ(レコーディング時はEddiと二人っきりだったらしい)Colin Reidのギターも味わい深い。
Wild Mountainsideは、アルバム中唯一の新曲で、Eddiの弟Frank Readerの在籍するTrash Can Sinatrasのメンバー(で、Eddiのパートナー)John Douglas作によるナンバー。Simple Soulのアメリカツアーあたりから海外ではたびたびライブでも演奏されており、レコーディングが待たれていた曲と言える。ギターで始まるイントロから、流麗なストリングスが響く中盤、そしてEddiの繊細な中にも情感を織り込めた歌唱と、どれをとってもこのアルバムのベストトラックの一つと言うにふさわしい。コーラス部ではKate Rusbyも参加しているが、良く聞かないとそれとは気づかないだろう。
Charlie is My Darlingは、パブで演奏しているかのような楽しい雰囲気を漂わせた曲で、シターン?と思われる楽器の音が、男達が足で床を踏みならしているようにも聞こえてユーモラス。2年前の来日公演でLa Vie En Roseを歌い上げていた時のように、Eddiが楽しんで歌っている様子が伝わってきて、くるくる回りながら歌うEddiの姿が見えるよう。
John Anderson My JoはMedicineシングル以来の再録となるが、その時はEddiがアカペラで歌っていた。ここではストリングスが入っていることもあってか、Eddiはもう少しゆっくりと歌っており、まるで物語を語って聞かせているかのような印象を受ける。
Winter It Is Pastは、日本ではSimple Soulのボーナストラック(イギリスではDriftwoodに収録)として発表されたThe Curragh of Kildareの再録版にあたるが、歌詞や言葉使いがRobert Burnsによるものに差し換えられている。Eddi自身によるコメントによると、もともとこの歌は古いアイリッシュソングらしく、Robert Burnsが新しい詩をつけたものがここで歌われているバージョンらしい。今回はオーケストラが加わってだいぶ音数が増えただけでなく、曲調もEddiの歌声もやや明るくなったことでより開放的な雰囲気があり、とてもリラックスして聞ける。最後の部分などはとても牧歌的な雰囲気。
最後のAuld Lang Syneは「螢の光」として知られる曲だが、このアルバムのバージョンを聞いて同じ曲だと気付く人はきっと少ないのでは。Eddiのアカペラから始まり、途中からオーケストラが加わって静かに盛り上がっていくが、必要以上に声量を高めることなく、しかししっかりと感情表現がされているEddiの歌が圧倒的に素晴らしいです。Eddiのこれまでのキャリアでも1、2を争う出来の、聞く者をとろけさせる名唱です。
Wild Mountainsideのように純アコースティックでも美しいだろうと思われる曲もあるけれど、オーケストラが入っているからこそ陽気な雰囲気の出てくるCharlie is My Darlingとか、Eddiの歌に寄り添うような演奏が効果的なAe Fond KissやJohn Anderson My Joe, Auld Lang Syneなどはやっぱり一度はストリングス付きで聞いてみたいと思わせる。
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