Daryl Hall John Oates: Live in Japan '05
('05/3/4, 11, 12, 19, 20, 21@横浜、広島、福岡、東京)


Hall & Oatesの2年ぶりとなる待望の来日公演。今回は新作Our Kind of Soulを引っさげてのツアーとなる訳ですが、このアルバムはいたるところで彼らの魅力の様々な要素を発見することができ、またライブでのDarylの歌いっぷりを想像させてくれるので、今回のツアーは本当に楽しみにしていました。結局横浜、広島、福岡、そして東京3公演の6回を見た訳ですが、実際に体験してみて、やはり素晴らしいツアーだったと思います。彼らが心底音楽を愛し、ライブで演奏することを楽しんでいることがわかったし、そしてファンを大事に思ってくれていることをもその演奏で雄弁に表現してくれていたと思います。

今回私にとっての初日の横浜公演は今回のツアーの初日でもあったわけですが、個人的にはちょっとつまづいてしまいました。Maneaterで始まるという驚きのオープニングからしばらくのうちはひたすら彼らのライブをまた見ることが出来たという嬉しさがあったのですが、徐々に悲しい思いへと変わっていきました。もちろん、演奏に悲しくなった訳ではありません。会場の音響が史上最悪といえるくらいひどかったのです。私の席は右のスピーカーのさらに右(端から3番目)という位置で、けっこう前の方ではあったのですが(6列目)、この位置でこの距離は明らかに逆効果で、スピーカーからは信じ難いほど情報量の少ない音しか聞くことは出来ませんでした。まさかステージ右側にいるメンバーの演奏だけを右のスピーカに集めている訳ではないでしょうが、Darylの歌声ははっきりいってあまり聞こえず、特にJohnやほかのメンバーとの掛け合いで進行していく歌(一番楽しみにしていたSoul Violinsとか)ではほとんど聞こえず、とても寂しい思いをしました。T-Boneのコーラスなどは、この日まったく聞いた覚えがありません。そんな状況だったので演奏を楽しむことは残念ながらできなくて、いつものように盛り上がっている会場内でひとりかやの外に置かれた気持ちでした。あの素晴らしいYou've Lost That Lovin' Feelingだけはそれでも鳥肌が立つ思いを味わうことが出来たのですが。この日唯一救われたのは、Johnの歌声だけは良く聞こえたことでした。Johnのボーカルは、今回ただのバックボーカルにとどまらないハーモニーを聞かせてくれているということがわかり、曲によってはDarylとの仮想デュエット状態で聞けたのが思わぬ収穫で、これ以降Johnのボーカルに注目するきっかけとなりました。

3/4@横浜・神奈川県民ホール セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Do It for Love
4. Say It Isn't So
5. Soul Violins
6. Used to Be My Girl
7. She's Gone
8. You Are Everything
9. One on One
10. Love TKO
11. Sara Smile
12. I Can't Go for That (No Can Do)
13. You've Lost That Lovin' Feeling
(Encore 1)
14. Kiss on My List
15. Private Eyes
(Encore 2)
16. Out of Touch
17. Rich Girl
18. You Make My Dreams

そんな悔しい思いを晴らすべく参戦した広島公演は、横浜とは対照的に音響的に最高でした。12列目でDarylの正面という席で聞こえる音は、横浜とは雲泥の差といえるほどバランスの取れた素晴らしい音で、バンドとしてのアンサンブルを堪能することが出来ました。セットリスト的にもI'll Be Around(とてもライブ映えする歌です)が加わり、Darylの気の効いたアクションを楽しむ余裕もあったことで、全編目にも耳にも刺激的な演奏でした。この日はDarylの歌声もちゃんと聞こえ、全体的には熱くなり過ぎないようによくコントロールしつつも、ときどきシャウトを聞かせたり、曲によっては思い入れたっぷりに歌うDarylの歌にしびれました。横浜では大変残念な思いをしたSoul Violinsや、You Are Everything, Love TKOといったバラード曲でのDaryl, John, バンドメンバーたちのハーモニーも存分に楽しむことが出来ました。会場の盛り上がりもたいしたもので、終始とても熱い反応が返っていたのには感心しました。前半3公演の中でのベストライブと言えます。この日ようやく理解できたのは、今回のツアーでは(特に新作の曲で)Darylの独演状態となる曲は少なく、ボーカルパートがDarylとJohn & バンドメンバーでわけあって歌われているということで、シンガー+バックボーカルという形態ではなく、バンド全体がソウルのコ−ラスグループとして機能していると思いました。いかにもDarylが一人で歌いきってしまいそうなイメージのあるYou Are Everythingでも、JohnやT-BoneのコーラスがDarylと交互に掛け合うように入るのです。これが理解できたのは大きく、この日以降はバンド全体から奏でられる「音」を聞こうと心がけました。

3/11@広島・郵便貯金ホール セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Do It for Love
4. I'll Be Around
5. Say It Isn't So
6. Soul Violins
7. Used to Be My Girl
8. She's Gone
9. You Are Everything
10. One on One
11. Wait for Me
12. Sara Smile
13. I Can't Go for That (No Can Do)
14. You've Lost That Lovin' Feeling
(Encore 1)
15. Kiss on My List
16. Private Eyes
(Encore 2)
17. Out of Touch
18. Rich Girl
19. You Make My Dreams

広島から陸路移動して参加した福岡公演は、6列目で右側ブロックだったので横浜の悪夢が脳裏によぎったのですが、それでも中央よりの席だったことが幸いして音響的に問題なく、楽しむことが出来ました。セットリスト的にも、I Can Dream About Youが演奏され、さらに2回目のアンコールでRock SteadyとCan't Get Enough of Your Loveが演奏され、とても満足できる内容となりました。福岡のファンの反応も良く、とくにおなじみのレパートリーではなく新曲2曲が演奏された2回目のアンコールでたいへん盛り上がったのが素晴らしかったです。最後の2曲は生で聞くことが出来たということにほんとに感激して、夢中で声援を送ったりしていたのですが、はっきりいってその時の状況は良く覚えていません(笑)。終わる直前に東京ではもしかして聞くことができないかもしれないとふと考え、もっとちゃんと「聞いて」おけば良かったと思いましたが、静かに「聞く」ことなんてできないくらい楽しい演奏でした。今回の広島、福岡への遠征は、2公演ともとても素晴らしい内容で、貴重な体験だったと思います。

3/12@福岡・メルパルクホール セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Do It for Love
4. I'll Be Around
5. Say It Isn't So
6. Soul Violins
7. I Can Dream About You
8. She's Gone
9. You Are Everything
10. One on One
11. Love TKO
12. Sara Smile
13. I Can't Go for That (No Can Do)
14. You've Lost That Lovin' Feeling
(Encore 1)
15. Kiss on My List
16. Private Eyes
(Encore 2)
17. Rock Steady
18. Can't Get Enough of Your Love

所変わって東京公演3日間。まず初日はあまり悪い席ではなかったのですが、この日も音響的には失望する状況でした。やや左寄りではありましたが、悪すぎるということはない席(25列目)なのにDarylの声がときどき聞こえない状態で、何回もハムが発生したし、残念ながら今回のPAはとてもレベルが低いと思いました。会場の盛り上がりもこの日は少し低調で(JohnとCharlieにしっかり反応していた最前やや右のブロックを除く)、演奏自体は良かったと思うのですが、ややセットリストが変わったとはいえそれほど特筆することのなかったコンサートとなりました。そんななかで、Neither One of Usが演奏されたのがこの日のハイライトで、「熱唱」とは違う、丁寧に感情を込めて歌うDarylの歌声は、説得力に溢れ良かったです。この日のWithout Youは、まだ演奏なれしていないのかややまとまりにかけているように感じ、特に何も思うことはなかったです。

3/19@東京国際フォーラム セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Do It for Love
4. I'll Be Around
5. Say It Isn't So
6. Soul Violins
7. Used to Be My Girl
8. She's Gone
9. You Are Everything
10. Neither One of Us
11. Wait for Me
12. Sara Smile
13. I Can't Go for That (No Can Do)
14. Without You
(Encore 1)
15. Kiss on My List
16. Private Eyes
(Encore 2)
17. Out of Touch
18. You've Lost That Lovin' Feeling

東京2日目は、一転して充実したコンサートとなりました。まず会場の雰囲気が前日とは比較にならないくらい良く、たいへん良好な反応でした。それに喚起されたのか、バンドの演奏はエネルギーに溢れていたし、Darylはソロ曲を2曲も歌うほどご機嫌で、MCもこれまで以上に多かったです。なかでも、You Are Everythingのあとに拍手がとめどなく続いたのに気を良くして、スタッフが渡そうとしたギターを受け取るのを断って歌い始めたSomebody Like YouでのDarylのボーカルは、絶妙に抑制を効かせた熟練の歌唱を聴かせていた今ツアーのなかでは異色と言えるほど感情がほとばしるような激しい歌い方で、この日のDarylが気分的にかなり昂揚していたことがわかりました。その分バンドとしてのまとまりはこの曲にはなかったのですが、まぁたまにはいいでしょう(笑)。I Can Dream about YouからDarylが一人歌い続けてつながっていったCan't Stop Dreamingへの流れもよかったし、Without Youもこの日はよくまとまった演奏でDarylの歌も良かったです(ただDarylの独演となってしまうのが、やはり彼らが選んだアルバム収録曲と違うところかなとは思いました)。Man on A Missionも聞けたし、セットリスト的にも貴重な内容となりました。個人的には、福岡から帰った次の日から風邪を引いてしまい、2日ほど寝込んだりもしていたのですが、この週末のために静養に努めた成果か、この日のライブ中にすっかり元気をもらって、良く声を出すこともできました。この時点ではこの日が今回のベストライブだと思っていましたが、次の日に圧倒的に上回る体験をすることになりました。

3/20@東京国際フォーラム セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Man on A Mission
4. I'll Be Around
5. Say It Isn't So
6. Soul Violins
7. I Can Dream about You
8. Can't Stop Dreaming
9. She's Gone
10. You Are Everything
11. Somebody Like You
12. Sara Smile
13. I Can't Go for That (No Can Do)
14. Without You
(Encore 1)
15. Kiss on My List
16. Private Eyes
(Encore 2)
17. Out of Touch
18. You've Lost That Lovin' Feeling

最終日@渋谷公会堂。今回は個人的にこれまで最多の6公演を見ましたが、この日のコンサートはこのツアーでのベストであることはもちろん、これまで見たすべてのコンサート体験の中でも、最も楽しく、最も感激したコンサートとなりました。バンドの演奏も観客の雰囲気も最高と言えるもので、アーティストとファンが相互に作用し合い、一体となって作り上げた、最高に幸せなコンサートでした。

土壇場で追加されて当日券の残っていた公演にも関わらず、前日の公演の効果か、開演前から入り具合は良好で、ほぼ満員の状態でした。この日はウドーによるとHall & Oatesとして日本で通算100回目の公演(これを上回るのはEric Claptonだけだそう)だったそうですが(ほんとはウドーが主催した100回目で、通算108回目?112回目?だったようですが、、)、1曲目のManeaterが終わった後にDarylが「今日は100回目だから違うショーになる」と言った言葉通り、これまで見たどの公演とも違う内容となりました。4曲目まではこれまでの基本形といえるセットでしたが、観客の反応は既に昨日のレベルをも超えていました。そしてビートの利いたイントロに導かれてFamily Manが演奏されてからは、すべてが変わりました。今回のツアーではここでいつもSay It Isn't Soが演奏されていましたが、1曲変わるだけでまったく違うコンサートに感じさせてしまうくらいの力強い演奏でした。そして驚きはこれで終わるどころか、加速していきました。いつもならSoul Violins(※念のため書いておきますが、この曲はアルバム中で一番好きで今回一番聴きたいと思っていたし、生で聞いてあらためて好きな曲であることを確認しました)が演奏されるところですが、なんと演奏されたのはDon't Turn Your Back on Me。この曲、今回とても聞きたいと思っていた曲の一つでしたが、アルバム中では地味な方なので、大阪で演奏されたとは聞いていたもののまさか本当に聞くことが出来るとは思っていませんでした。それだけに演奏してくれたこと自体に感激したのですが、聞いている間も抑揚の効いたDarylの歌(コーラス部とそれ以外での変化のつき方が好きなんです)にしびれっぱなしでした。この感動はShe's Goneが静かに静め、そしてまた高めてくれました。She's Goneに対する演奏後の拍手も、この日は特に大きかったです。続いて演奏されたSomebody Like Youも、Darylがこの日はギターを演奏しながら、(いい意味で)やや暴走気味だった昨日よりも落ち着いた歌を聞かせてくれ、バンドとしてもまとまった演奏でした。ここまでで既に最高のコンサートになることを確信していたのですが、この日のコンサートが本当に素晴らしかったのはここからでした。

意表をつくように演奏されたYou Make My Dreamsでまた会場の雰囲気が熱くなったところで待望のRock Steadyが演奏され、会場の盛り上がりは最高潮に達しました。福岡でのアンコールでの演奏も良かったですが、最新作からの曲が本編で演奏されるというのはやっぱり格別です。福岡では演奏された事自体が嬉しくてステージをしっかり見る余裕がなかったのですが(汗)、今回は手拍子や体を動かしながらも、しっかりDaryl, John、そしてバンドメンバーの演奏と動きを見て、そしてしっかりと聞きました。アルバム以上に生で聞くこの曲はかっこよく、そしてDarylのアクションも面白かったです。続いてCan't Get Enough of Your Loveがちゃんと演奏されたのも嬉しかったです。この曲、彼らのアレンジが好きで、Darylの歌がとてもいい味だしていると思うのですが、Rock Steadyからのつながりもよく、この2曲はコンサートのハイライトというにふさわしい演奏だと思いました。この後はもう最後まで一気で、場内の盛り上がりはこれまでとは比べ物にならないくらいそれは凄いもので、Daryl & John、そしてバンドメンバーたちも力強くとても気合いの入った演奏を聞かせてくれました。私もできる限りの声援と手拍子、拍手を送りましたが、最後にそれは最高の形で報われました。2回目のアンコールでOut of Touchに続いて、今回のツアーで初めて、Ooh Childが演奏されたのです。最初何の曲か一瞬わからなかったのですが、それがOoh Childだと気づいたときの感激は言葉で言い表せないほどです。多くの人が待ち望んでいたこの「Johnの曲」が、記念となるコンサートで、最後に演奏されたというのは、考えうる中で最高の演出でした。

3/21@渋谷公会堂 セットリスト
1. Maneater
2. Let Love Take Control
3. Do It for Love
4. I'll Be Around
5. Family Man
6. Don't Turn Your Back on Me
7. She's Gone
8. Somebody Like You
9. You Make My Dreams
10. Rock Steady
11. Can't Get Enough of Your Love
12. Love TKO
13. Sara Smile
14. I Can't Go for That (No Can Do)
15. Without You
(Encore 1)
16. Rich Girl
17. Private Eyes
(Encore 2)
18. Out of Touch
19. Ooh Child

演奏終了後、Darylも気持ちが高ぶっていたのでしょう、「ここでもう100回ショーをやるぞ!」というようなことを言ってました。でも、私たちファンにはこれは冗談とは思えません。本当にあと100回くらい日本でコンサートを実現してくれるのではないかと信じることが出来るし、また本当にやってもらえるようにこれからもDaryl & Johnを応援しつづけていきたいと思うのです。

今回のツアーはこれまで以上に変化に富んだ、素晴らしいツアーでした。個人的には初日の横浜公演でつまづいた(いつもだったら初日からレポートを書くのだけど今回書けなかったのはこれが理由です)こともあってわりと観察的に見てきてしまい、さらに各地で演奏曲目が変わって、金沢で何やった、大阪で何やった、という情報が聞こえてくるので、この曲が聞きたいあの曲が聞きたいなんて思ってしまいましたが(インターネットなかった頃は行けただけで満足してたはずなのに)、Daryl & Johnとバンドはその期待に応えてくれたし、その充実度は大変なものだと思いました。私が見に行った公演で全く同じセットリストの日はありませんでしたし、今回のツアーで演奏された最新作からの曲は、(自分自身は聞けなかったStanding in the Shadows of Loveまで入れると)14曲にもなります。これは実に驚くべきことです。すべての曲を1回の公演で演奏した訳ではないとはいえ(それでも最終日だけで8曲演奏しました)、キャリア30年を超える大ベテランアーティストが、こんなに新曲をライブで演奏しますか?ふつうアルバムを3枚以上出せば定番の曲があるし、Hall & Oatesくらい多くのヒット曲を持っていれば(そういうアーティストは非常に稀ですが)、同じツアーで最新作からこれほど多く演奏することは稀です。ましてや、昔の栄光を利用してのお手軽な再結成ツアーが多い昨今、こんなことをするアーティストは私にはほかに考えつきません。現在も音楽的探究を続け、自身の現在の力に自信があり、ファンを喜ばせようと考えてくれるHall & Oatesだからこそ、このようなことが出来るのです。またファンが新しい曲を喜んで受け入れているというのも大きいです。Daryl & Johnが長いことコンスタントに活躍を続けてくれていることはファンにとって大変幸せなことですが、彼らを支持し続ける熱いファンがここ日本にたくさんいることはDaryl & Johnにとっても幸せなことに違いありません。そんな両者の思いが最終日は最高の形で表現されたのだと思います。

コンサートがこれほどまでに楽しい体験で、ファンであることをここまで誇りに思わせてくれるアーティストはほかにはいません。これからも可能な限り長くDaryl & Johnを見続け、聞き続けていきたいと思わせてくれた今回の来日公演でした。

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