京大病院エタノール中毒死事件・両親手記 bU

                           2002(H14)年3月31日  藤井省二・香


第2回弁論より

 先の3月6日の民事裁判・第2回弁論において、被告国から提出された準備書面の概略は、以下の通りです。



◎ 被告国第1準備書面・被告国の主張の骨子

○ (取り違えた)看護婦について、沙織の人工呼吸器のワゴンに設置する加湿器モジュール注入用の滅菌精製水入り容器を取り替えるに当たり、容器のラベルを確認しないまま、消毒用エタノール5Lタンクを滅菌精製水4Lタンクと軽信して沙織の病室へ持ち込み、これを同人工呼吸器のワゴン下部に設置した過失があったことは認めるが、その他の相被告らに過失があったとの点は、いずれも争う。

○ 沙織の死因につき、血中エタノール濃度が一般に致死量とされている濃度を超えていたことは認めるが、エタノール中毒死であることは争う。
 しかしながら、エタノールの吸入が、敗血症性ショックによる死亡に何らかの影響を与えたことは認め、その限度においては、消毒用エタノールの誤注入と平成12年3月2日午後7時54分時点の沙織の死亡との間の因果関係を認める。

○ 原告ら主張の損害のうち、逸失利益は、その存在を争い、慰謝料は、エタノール誤注入と同時に敗血症性ショックが進行しており、これによって死亡したと認められること、原告らが前提事実として主張する「エタノール吸入による苦痛」及び「京大病院による事故隠し」は存在しないことから、その金額を争うものである。


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 エタノールタンクを取り違えた看護婦1名の過失についてのみ認める、というもので、俗に言う“トカゲのしっぽ切り”で全ての責任を逃れようとしているのです。
 書面内容は憤ることばかりですが、その中から2点を、以下に書き出してみました。



◎ 被告国第1準備書面・本文中より抜粋

@ 沙織の呼吸不全は、人工呼吸器(サーボ型)装着後も改善せず、これはリー脳症の進行によって脳幹の呼吸中枢が機能低下しているためと判断されたことから、沙織が退院できる見通しはなく、そのまま死亡に至るまで入院生活を継続する可能性が高かった。

 しかしながら、入院後約4か月にわたって懸命に沙織の介護を続ける原告らには、かなり疲れが見え始めていたため、医師は、原告らに将来への希望を与え、その介護意欲を高めようと、在宅用人工呼吸器への切替えにチャレンジしたものであって、「在宅治療が可能であると判断した」ものではなく、ましてや、「在宅治療へ向けて退院の準備をした」ものでもない。


A 沙織の死因につき、血中エタノール濃度が一般に致死量とされている濃度を超えていたことは認めるが、エタノール中毒死であることは争う。

 けだし、エタノール中毒死とは、血中エタノール濃度が致死量を超えると呼吸中枢が麻痺して呼吸が停止し、高度な酸素不足となって死亡に至るというものであるが、沙織の場合は、平成11年12月21日から人工呼吸器による呼吸管理を実施していたため、死亡直前でも酸素飽和度及び血液二酸化炭素は正常範囲内であって、呼吸不全の状態にはなっていない。したがって、これをもって、エタノール中毒死ということができるのかは疑問というべきである。

 さらには、沙織は2月29日午前4時30分ころから容態が急変し、敗血症性ショックに陥ったと認められるのであって、エタノールの吸入と致死的な疾患である敗血症性ショックが同時に進行していたこともまた明らかであって、この点においても、エタノール中毒死と断定することはできないというべきである。

 しかしながら、消毒用エタノールの誤注入と沙織の死亡との間の因果関係についての法律的な考察という意味においては、被告国は、一般には致死量とされる量のエタノールの吸入が、沙織の敗血症性ショックによる死亡の過程において、これに何らの影響をも与えなかったとすることもまた困難であると考えることから、その限度においては、消毒用エタノールの誤注入と平成12年3月2日午後7時54分時点の沙織の死亡との間の因果関係は争わない。


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 @の内容は、前回の「手記」で述べたものなのですが、退院に向けての在宅用人工呼吸器の練習に関して、「在宅治療が可能であると判断した」ものではなく、ましてや、「在宅治療へ向けて退院の準備をした」ものでもない。と、前回の被告国答弁書の「嘘」をフォローする形で、更なる「嘘」を重ねてきました。

 Aに関しては、裁判の中で、「被告国の主張は、エタノールと死亡との因果関係を認めているのか、否か? どちらなのか分からない。」といった質問が、裁判官から被告側に投げかけられたように、書面では、医学的評価と法律的評価の2通りの言いまわしをしており、非常に理解し難い内容となっています。

 書面全体の印象としては、一つひとつの事柄に対して、被告らの行為を正当化しようと取り繕った内容に終始している為、全体をつなげて考察すると、その論理に整合性がありません。上記2点についてだけでも、述べたいことは多々あるのですが、現在、次回裁判に向けて書面準備中のため、詳細については、今後の機会に述べることが出来ればと考えております。



〈追記〉

 第2回弁論には京都地裁101号大法廷に、「バクバクの会」「頚損連絡会」のみなさんを始め、初弁論にも増してたくさんの人達が傍聴参加して下さり、大変感謝しており力強く思っております。
 そして、事務局には、メール等で医療関係の方々からの貴重なご意見ご助言を頂いており、とても参考になり役立たせてもらっております。本当にありがとうございます。紙面をお借りして心からお礼申し上げます。今後もご協力のほど、どうぞ宜しくお願い致します。
 また、今回の内容に関してでも結構です、多くの方のご意見ご感想等、お寄せ頂ければ幸いです。
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