控訴審始まる … 事故隠蔽の解明に期待

                                      代表世話人  大 坂 紀 子


 京都地裁の5年

 一審では医学論争に長い時間が費やされましたが、5年を経て誤注入の複合ミスの経緯はほぼ解明されました。『事故隠し』についてもカルテの追記や医師証言の矛盾点が浮かび上がってきましたが、医師、看護師共に言い訳めいた証言に留まり、『事故隠し』を認めるまでには至りませんでした。裁判官も隠蔽の意図を感じたはずと判決に期待しましたが、京都地裁は京大病院エタノール中毒死事件の事故部分を表面的に裁いただけで、『事故隠し』の事件部分にまで踏み込むことはありませんでした。


 控訴審に賭ける

 両親は『事故隠し』を含む事件の全容解明をめざし控訴。控訴審では京大病院の事故対応に関わった人達の証人尋問により、当時の事故対応の経緯を明らかにし、事故隠しの真相に迫りたい考えです。

 5月8日、第1回口頭弁論が開かれ、さおちゃんの会、やさいの会、バクバクの会と医療事故被害者の方たちが傍聴して下さいました。予想していたことですが、刑事裁判で大阪高裁の大法廷に入りきれないほど並んでいた看護組合関係者はほとんど見られず、法廷内の傍聴席はやや寂しい感じがしました。

 一方、相変わらず病院の大弁護団は所定の弁護人席に座りきれず、被告人席にまで溢れていました。対する両親側の弁護士さんは3人、許されるなら「わたしたちもついているよ、がんばって!」と呼びかけたいところでした。

 この日は双方の提出書類の確認と次回までの証人申請の手続きが確認され終了。両親は第2回口頭弁論までに3人(事故対策会議の中心だったM教授、事故届けをしたN事務部長、H医師に病理解剖するようアドバイスしたという法医学のF教授)の証人申請を行いました。これに対して病院側は証人申請に反対する書面を提出しました。



 証人尋問決定!

 控訴審では新しい証拠などよほどの理由がない限り、一審判決の妥当性を高裁が審査し、判決を下して終了することも多いそうです。医療裁判をよく知る方たちもほとんどの控訴審は十分な審理のないまま、書類手続きだけであっという間に終わってしまうとおっしゃっていました。それだけに証人採用の成否は控訴審の行方を左右するものなのです。

 6月12日の第2回口頭弁論で、裁判所は3人の内2名(M教授・N事務部長)の証人採用を言い渡しました。この決定に病院側は慌てたのか、『N氏はすでに退職し現在は京大の職員ではない。現在東京に転居している。M教授もとても忙しい方だから、それぞれの都合はわからない。』と応えたものの、証人尋問の決定が変わるはずがありません。

 さらに病院側弁護団は裁判長が証人尋問の公判日を提案するたび、誰かが「差し障ります。」(すでに他の予定があり、出廷できないということらしい。)と言ってどんどん先延ばしになりそうでしたが、裁判長が『問題は事故隠しでしょ。それなら、看護師関係の代理人は出られない人があっても構わないでしょう。医師、病院も複数いるのだから、後日互いに内容を確認して下さい。』と切り捨て、8月27日(月)と決まりました。



 傍聴支援に感謝

 6月12日も初回とほぼ同数の方々が傍聴に来て下さいました。両親の弁護士さんによると、国賠訴訟などの集団訴訟以外では、民事裁判を傍聴する人はあまりいないそうです。今回控訴審で証人申請が認められた背景には、毎回応援に来てくださる皆様の存在が大きかったのではと、話しておられました。

 2名ですが証人申請を認めたことで、大阪高裁が事故隠しについても丁寧に審理していく姿勢を示したと考えることが出来ます。次回2名の証人が何を語るのか、裁判所はそこから何を読み取っていくのか、私たちもしっかり耳を傾け見守りたいと思います。より多くの皆様の傍聴とご支援をお願いいたします。



                   [2007年6月発行 おもちゃライブラリーやさいの会・おもちゃ通信より転載]



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 【追記】

 上記の通信発行後の7月11日、裁判所より思わぬ連絡がありました。元事務部長のN氏の証人採用取消し決定の通知です。

 取り消し理由は、『約5年前に患った病気のため現在自宅療養中であり、過度のストレスが増悪要因のため、高裁での証人尋問は負担が大きい』といった内容の京大病院側の上申書が、主治医の診断書と共に提出されたためです。

 H医師はじめ事故対策にあたった多くの関係者は、『当時、さおちゃんの死と事故は関係なしと判断し、警察への届けなど思いもしなかった。』と主張しています。しかし、事務部長だったN氏はさおちゃんの死を警察に異状死として届け出ました。事件を最初に公表した人と言えます。もしN氏がいなければ、さおちゃんの死が中毒死だったことは闇に葬られていたでしょう。

 なぜN氏は警察に届け出たのか、法廷で直接本人の口から聴きたかったです。正直に応えてくれるかどうかはわかりませんが、これまで書面で医学論を駆使して事故隠しを正当化していた医師達も、証人尋問では屁理屈に往き詰まり、うろたえる姿を見せてくれました。N氏の証言から見えてくるものがあったはずですが、残念です。
次回口頭弁論はM教授一人の証人尋問となりましたが、法廷での証言に注目したいと思います。



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