許しがたい不当判決 !!

                                   代表世話人  大 坂 紀 子



 複合ミス、事故隠蔽を認めず

 11月1日、京大病院エタノール中毒死事件の判決言い渡しが京都地裁の大法廷で行われました。傍聴席にはやさいの会やバクバクの会、医療過誤被害者の仲間など、たくさんの方が応援に来て下さいました。マスコミや病院関係者も多く、入りきれない人もあったようです。この日は『勝訴』『事故隠し認める』と書いた紙2枚を準備し、支援者の皆さんと「事故隠蔽が認められたら、マスコミを通して全国に向かって勝利宣言をしましょう。」と約束し判決に臨みました。

 1時10分、裁判長は早口でぼそぼそと判決文を読み始めました。傍聴の人達は一斉に体を前傾し耳を澄ましましたが、始めは何を言っているのかよくわかりませんでした。しばらくして「看護師長、副看護師長らの薬剤管理に関係無く、滅菌精製水の補充時に看護師達がラベル確認していたら事故は避けられた…」という予想もしなかった内容が読み上げられると、傍聴席に驚きと落胆の空気が広がっていきました。さらに事故隠蔽についても病院の主張通り「急変の原因を敗血症性ショックと考えていた。… 家族を気遣って言えなかったが、事故発見の2日後には報告をしており、一般社会常識に照らして隠蔽とは言えない。」という私達には理解しがたい判断が示されました。

 結局ぼそぼその部分は、タンクのラベル確認をしないでエタノールを誤注入した看護師5人のうち4人だけにさおちゃんを死亡させた責任があるとして、慰謝料の支払い(実際の支払いは看護師個人ではなく、使用者責任により国が支払います。)を命じた内容だったようです。同様にラベル確認せずに誤注入したW看護師については、タンクの取り違えに気付き10分から15分後には加湿器を交換したのでさおちゃんに与えた影響は少ないとして責任を問いませんでした。


 
怒りの表明

 判決言い渡しが終了し「起立」の声がかかっても、仲間の多くは着席したまま判決への怒りを示しました。当然、勝利宣言はなくなりましたが、多くの仲間がロビーで弁護士さんからの説明を待っておられました。皆さん判決への不満を抑えきれず、口々に司法への怒りや失望を語っておられました。


「看護協会も杜撰な薬剤管理だと認めたのに…。一般の病院では薬剤の持ち出し時に在庫チェックもしないなんて考えられない。」

「薬剤管理の手抜きが重なって末端の人間をミスに追いこんだ。こんなトカゲのシッポ切りのような判決で事故はなくならない。」

「なぜ裁判官はさおちゃんが退院準備中だったことを無視するのか? 人工呼吸器を着けた者は重篤、いつ何があってもおかしくないと信じ込まされている。バクバクの子ども達にとっても無視出来ない判決。」

「加筆を認めながらカルテ改ざんを認めない。同じように医療裁判を闘う者にとっては医療裁判は勝てないからするなと言われたようなもの。」

「会議で初七日まで事故を言わないと決め、死亡診断書も事故のことを知られないように書かなかったと医者が言った。この時点で証拠隠滅の意図はあった。なのに、親への気遣いだとか、2日後には報告したから公文書の嘘もチャラなんていいかげん過ぎる。裁判所の感覚は普通ではない。」

「同じことを民間病院がやったのなら許されなかっただろう。天下の京大病院なら、これだけ見え見えのカルテ改ざんや事故隠しをやっても処罰されないのか。他の病院が京大方式の事故対応を真似ても処罰できなくなる。」… 等々。


 判決文に目を通した両親もあまりに病院よりの内容に気持ちが抑えきれず、残っていた支援者で不当な判決を社会にアピールしようということになりました。余分な紙もなく、準備していた『勝訴』と書いた紙の裏に『不当判決』とマジックで書き、裁判所前でマスコミのカメラに向かって不当判決への怒りを表明しました。

 夜のテレビニュースを見ると、手書きの『不当判決』の文字の向こうに『勝訴』の文字が透けて見えました。少し格好悪かったのですが、あの場に参加した友人達は、本来は勝訴だったはずだからあれで良かったと言っています。


 
見ぬふりは許されない

 さおちゃんの事件当時は、医療事故が多発し組織的な安全対策や第三者機関による多角度的な事故調査の取り組みが始まった時期です。しかし現在もまだ十分とは言えず、事故や事故隠しも繰り返され医療裁判も後を絶ちません。そのような時に複合ミスも事故隠蔽も見ぬふり同然の判決が確定すれば、せっかく動き始めた安全対策への取り組みも失速してしまいます。

 複合ミスを誘発した薬剤管理の責任者達がなんの責任も負わず、組織的な事故隠蔽も罪を問われない。これでは京都府看護協会の署名文やY看護師長の証言でも述べられたように、責任を一方的に押し付けられる看護師が、ミスしても知らんふりする可能性を否定することはできません。

 そうなってしまえば、京大病院の子ども達を守れるかどうかの問題だけですまなくなってしまいます。将来患者になりうる人も含めれば、全ての人に関わる問題です。だからこそ見て見ぬふりすることは許されないのです。これからもさおちゃんの両親と私達は諦める事なく、何度でも病院や司法、社会に訴え続けます。

 11月13日、両親は地裁判決を不服として大阪高裁に控訴しました。今後とも皆様の応援をよろしくお願いいたします。



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