事故隠蔽に怒りの声 … 報告会,交流会より

                  さおちゃんの会 代表世話人 大坂紀子



 6月14日(水)、京大病院エタノール中毒死事件の長すぎる民事裁判がようやく結審しました。

 約5年間の審理では、看護師達によって京大病院の杜撰な看護実態が次々と語られました。また、「今になって思えば…」という前置きが悔しいのですが、自分達の過ちや事故を両親に報告しないまま帰宅させた事も認め謝罪する証言もありました。しかし、京大病院(国)は最後までT看護師以外の過失を認めず、事故隠蔽に至っては、その正当性を主張する為にさらに嘘を重ね、隠蔽体質の根深さを見せつけたまま終りました。

 結審当日は最終書面の交換が行われてすべての審理が終了、判決言い渡しは11月1日と決められ閉廷しました。内容としては短時間の裁判手続きだけだったのですが、判決への期待を示そうとこの日もたくさんの方々が傍聴して下さいました。

 終了後は地裁に隣接する弁護士会館に場所を移し、御両親と弁護士さんたちを囲んで報告会と交流会を行いました。非公開だった進行協議や和解協議の内容についても報告があり、活発に意見が交わされ、予定していた時間があっという間に過ぎました。刑事、民事と5年間に渡る裁判傍聴でみなさんもこの事故の根にある京大病院の体質的な問題を実感されたようです。交流会では、京大病院に対する怒りとそれに対する判決について語り合われました。ここでは、ほんの一部しか紹介できませんが、以下にまとめました。


意見交換 -----------------------------------------------------------

N.Kさん
 ご両親の裁判の目的がはっきりしていてぶれがない、立派だと思う。医師のカルテの加筆は改ざん、証言は偽証にならないのか。組織的な事故隠しだと思う。

大 坂
 アメリカではカルテ改ざんがあったと認定されたと同時に医師側の負けになると聞いた。この裁判では医師本人が後からカルテに加筆したと証言した。また、カルテの記載内容が看護師達の証言と食い違っている。カルテ改ざんだと思う。

S.Yさん
 E副看護師長は、看護記録の種類や血圧測定の状況から、事故前のさおちゃんの状態が安定していたことを証言した。安定した状態から急変した時のチェックが十分でなかった。ミスに気付かなかったのは医師の怠慢。

S.Sさん
 証人尋問の印象は、何がなんでも敗血症性ショックでごり押しする医師の態度が裸の王様を見るようだった。こうした証言をそのまま伝えるだけでも事故隠しを社会にアピールできる。世論が高まれば判決へも影響を与えられるのでは? もし裁判で医師の主張が通ったら司法もおかしい。

大 坂
 Y看護師長が事故報告の時期を相談した会議でU弁護士に電話で相談したと証言した。U弁護士は病院の弁護士で医療事故の専門家、事故があれば院内での病理解剖はできないことや死亡診断書の記載方法、警察への届け出が必要なことなどよく知っているはず。そういう法的な手続きについてアドバイスしなければいけない。

 しかし、H医師はそういった事故後の手続きは知らなかった為にああした死亡診断書の書き方になってしまった、事故を隠す意図はなかったと証言。到底信じられない弁解。

Y.Aさん
 和解勧告時の印象を聞きたい。嘘をついてるのは明らかだけど、もがき苦しんで嘘をついてるのか? 書面には表れない医師達の思いは感じられたか?


 当事者は出ない、代理人だけ。それも裁判官を通して間接的にしか交渉できない。病院側から誠意ある回答がほしかった。自分たちが最も苦しんだのは隠されたこと。医療事故で亡くなったことを打ち消して片付けようとしたことは許せない。これを認めてきちんと謝罪することが和解の大前提。さらに今後事故が起きた時には、被害者にきちんと報告するという約束が得られなければ、さおちゃんの死は活かされない。

 H医師には世話になったこともあり、証人尋問で真実を話してくれるのではという期待も残っていた。しかし結局は応えてはくれなかった。私たちと目すら合わせようとはしなかった。これまでの書面は誰かに言わされているのではないかと思ったりもしたが、今となってはすべて本人の意思と認めざるをえない。かえって吹っ切れた。

I.Mさん
 医師たちは保険がある、訴えられても痛くも痒くもない。いくらか個人負担させればもっと気をつけるのではないか。人の死に慣れていて罪悪感がない。私達にとってはたった一つの命でも、医師は『だめだったね。』という感覚。

大 坂
 ニュース映像で『勝訴!』『不当判決!』などと書いた紙を持って出てくるのがある。多分私がそれをやる役かなと思うが、すぐに判決内容がわからないとどうしたらいいのかな?

 判決は小法廷で複数の裁判に順次流れ作業的に言い渡されるのか? そうなると傍聴人は全員入れるのだろうか? 裁判所にできれば大法廷でやってもらえるよう頼めないだろうか?(その後、弁護士さんから申し入れしてもらい、101号大法廷にかえてもらえました。感謝。)

S.Sさん
 あまりに解りやすい事件だったのでとうに解決しているものとばかり思っていた。なのにホームページを見てまだ解決していないことを知った。京大病院の不正義は明らかなのにいまだに正されずに時間が経過している。この現状は社会に伝わっていない。会報や裁判資料をまとめて出版してはどうか?


 他からも本を出してはどうかという話はある。しかし、裁判はまだ流動的で先が見えない。裁判で精一杯というのが現状。今は傍聴が大きな支えになっている。みなさんには大変感謝している。

大 坂
 高裁、最高裁までもつれることになるかもしれない。それぞれの時期に合わせて効果的に情報発信していきたい。もっともっと全国的な関心を高めていきたい。この裁判の勝敗だけでなく、医療界に事故隠しの醜さを思い知らせ、医療裁判を闘う仲間の後押しになるようなことをできればと思う。


 京大病院とは長年の付合いがあり信頼関係もできていた。それだけにさおちゃんを失った悲しみに加えて信頼を裏切られた苦しみも大きかった。裁判が始まっても事故隠しを認めないが為にどんどん嘘を重ねられ、事故とは関係の無い事故以前のさおちゃんの頑張りまでも否定された。辛かったが、医師も看護師達も嘘をつくことに罪悪感をもっていて苦しんでるだろうと思っていた。いつか本当のことを話してくれるだろうと思っていたから、これまでは本を出してその人達をたたくようなことはしたくなかった。

 看護師達は証人尋問でようやく話してくれたが、なぜもっと早く話してくれなかったのかと思う。

 T看護師と話した。素直に謝ってくれ、言葉に嘘は無いと感じた。今は○○で事故防止の仕事で頑張っているそうだ。Tさんには「医療関係者は事故原因をシステムの問題にしか目を向けようとしない。事故隠しには触れようとしない。事故はあってはならないけれど、被害者は事故後の対応にもっと苦しんでいる。被害者の思いを伝えていって欲しい。」と話した。

 事故直後に話が出来ていたらと思うが、誤注入発見直後から病院の事故隠しが始まっていた。さおちゃんが亡くなる前から病院は弁護士も入って対策を進めた。当事者同士ではない所で事が進んでしまった。だからといってそれに流されてしまった人達を許すことはできない。

 小児神経の専門医なら発達に遅れがあろうと、言葉がない子でもその命にきちんと向き合える人でなくてはいけない。そういう人がさおちゃんの発達の遅れや病状の重さを強調して命を値切ったり、敗血症性ショックにたまたまエタノール誤注入が重なったとか、エタノールによる苦痛もないといった主張をすることは許されない。重い病気や障害をもつ子供の命の軽視が事故隠しに繋がっている。この裁判の本質はさおちゃんのように重い病気や障害をもつ子供たちの尊厳を守ること。

-----------------------------------------------------(報告会・交流会より)


平本さんに感謝

 バクバクの会(人工呼吸器をつけた子の親の会)の平本さんが5月にお亡くなりになりました。

 私達ボランティアが、京大病院という白い巨塔を相手に何が出来るのだろうと思い迷っていた時、平本さんが『事実をありのまま伝える』という簡単そうで最も大切な役割に気付かせてくださいました。こうしてこの「さおちゃんの会」が発足しました。

 公判の日には娘さんのAさんのストレチャ―を押して必ず顔を見せて下さっていました。近くに住む私よりも早くから来てくださっていることも多く、通勤ラッシュの中や台風の日まで尼崎から来られるので、「大丈夫ですか?」と声をかけると、「どうってことないよ。」と笑っておられました。その笑顔にいつも励まされました。

 裁判所が車椅子とストレッチャ―を使用する仲間に傍聴制限を加え、騒然となったことがありました。おろおろする私とは対照的に、穏やかだけど見事なまでに堂々と「傍聴の権利は全ての人に平等、裁判所はそれを保障する責任がある。」と述べて下さいました。

 3月1日、最後の証人尋問で両親が証言台に立った日、珍しく平本さんが遅れて来られました。その時は何も察することができませんでしたが、すでに食事が摂れない状態だったそうです。そんな状態でも両親や私達を励まして下さいました。今更ながら平本さんのこの裁判への思いの深さを感じさせられます。

 結審の日、ついいつもの場所に平本さんの姿を思い浮かべてしまい、寂しさと共に失った存在の大きさを感じました。しかしこの日は娘さんと奥様はじめバクバクの会の皆さんが大勢来て下さいました。きっと平本さんも法廷の後ろの壁あたりでタバコをふかしながら見守って下さっていたのではないでしょうか。

 平本さん、私達は大丈夫ですよ。決して疲れず、あきらめず、こつこつやって行きます。だってさおちゃんや平本さんやたくさんの人が支えてくれていますから。



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