第一回控訴審報告
    発見看護師の証言 ― 病院責任と発見後対応について証言

                           代表世話人  大坂 紀子 (04/04/16)



 3月24日、大阪高等裁判所の傍聴席は、大勢の看護組合員で埋められました。自らも事件に関わった人達の顔も見え、なんとしてもT看護師を守ろうという強い決意を感じました。組合を敵視するつもりはありませんが、さおちゃんの苦しみや今も続く両親の悲しみをどう救済するのかを忘れないで、と願わずにはいられませんでした。

 さおちゃんの会としては2人が中に入れず、外で待機となりましたが、16人が傍聴しました。中でも人工呼吸器を着けたR君とAさんは、京都地裁の傍聴制限で大変な目にあったにも関わらず、再度参加してくださいました。

 Aさんは裁判所職員に「どういう関係ですか?」と尋ねられ、介助のお父さんが、「被害者と同様、呼吸器を着けた仲間です。」と代弁してくださいました。呼吸器を着けた2人の姿は法廷内の人々に今は亡きさおちゃんという存在を思い出させてくれます。


1. 証拠調べ

* ラベルのないタンク

 弁護側は、T看護師が取り違えた滅菌製精水と消毒用エタノールのタンクが間違えやすい物だったことを示す為、両方のラベルをはがした物を並べて見せました。取り違えた時はその内のエタノールタンクだけが2個床に並んで置いてあり、2種類を見分けることは難しかったと述べました。確かに一見よく似ていましたが、裁判官は鋭く、容器と液、キャップのゴムパッキンの色、目盛りの数など細かな違いを指摘し、検察は実際にはラベルがあったことを確認しました。


2. 発見看護師の証言(要旨)

 Wさんは当時5年目で、新人だったT看護師の指導を担当。
証言の冒頭で『一審判決の軽重は分かりませんが、さおちゃんの死はTさんの誤注入だけの責任ではありません。病院の管理監督体制の責任を問わない事に怒りを感じます。』 と述べました。

* 53時間に及んだ誤注入の背景

 私が誤注入に気づいたのは、一度誤注入した後、もう一度追加しようとしてうまくいかず、タンクを動かした時、偶然にラベルが目に入ったからです。意識してラベルを確認したのではなく、私も確認の三原則を守っていませんでした。

 原則を守らなかった理由は、当時薬剤の種類によって注意喚起の度合いが異なり、製精水はその度合いが低かったからです。また、錠剤シートを切り離した後のように、薬剤名や容量表示がなくても、その形状で区別していました。T看護師がタンクを取り違えた後の
看護師達も、タンクの形だけで判断したと思います。
ラベルを見ていれば53時間の誤注入は防げたと思います。

 小児病棟は、複数の病気を持つなどの重度の子供が入院しています。1回ごとの看護に時間がかかる、小児のため薬の量が微妙で難しいなど緊張が続きます。付き添う母親のケアも必要ですが、命を守るのが精一杯でした。5年目の私で残業は1〜2時間位、新人はそれ以上です。当時の病棟に安全管理の視点はありませんでした。自分にもなく当然新人教育も不完全なものでした。

 事故後、北3病棟ではインシデントについて話し合い、ミスの共有とそれを防ぐ体制ができました。1人が間違ってもダブルチェックで被害が拡大しないようになっています。消毒薬と点滴薬を区別し、保管場所を指定するなど薬剤管理も改善されました。
事故当時はこのような体制はありませんでした。

 病院は事故直後、事故調査委員会を作りましたが、簡単な調査をしただけで結果も公表されていません。リスクマネージャー会議で、T看護師とY看護師長が調査結果の公表と
メモリアルデーを設けることを求めましたが、返答はありませんでした。

 今年1月、組合が外部委員を交えた調査委員会の設置を要求しましたが、
3月4日(8日?)、病院長は設置しないと回答してきました。その理由は民事・刑事裁判が継続中の為、終了後その結果を元に分析するという内容でした。刑事裁判で病院の責任に触れられないと、病院は調査に取り組もうとしません。再発防止も進みません。

* 発見後の対応

 事故発見後、私はエタノールを製精水に交換しましたが、御両親に報告はしませんでした。なぜかというと、知られてはいけないというとっさの本能的防御行為でした。
みんなで看護していたので、勝手に話すと両親を混乱させると思ったのです。他の看護師も同じ思いだったと思います。誤注入と話さなかったことで、今も御両親を苦しめつづけています。このことを話し続けるのが私の務めです。

 また、ミス発見を医師らに相談しましたが、H医師は『いつから注入が始まったか分からないので、しっかり調べて分かってから話す。』と言われました。

* よく似たタンク

 製精水の4Lタンクの採用時、Y看護師長が『よく似てるね。でもよく見たら分かる。』というのを偶然聞きました。この時T看護師はいませんでした。その後、4Lタンクの採用については説明がありましたが、似ていることへの注意は周知されませんでした。

 取り違えたタンクは呼吸器の台の下に置かれ、ラベルは意図的に見ないと見えませんでした。タンクはよく似ていましたが、危ないという視点がなく、ラベルを見ればいいと思い、
交換の要望は出しませんでした。事故後も同様の容器採用があり、私が危ないと言ってもラベルを見ればいいといわれました。事故の教訓が生かされていません。


 最後に裁判官が「ラベルに大きくはっきり名前は書いてありましたか?」と問うと、
Wさんは「はい。」とはっきり答え証言は終わりました。


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