刑事裁判報告

                          代表世話人  大坂 紀子 (03/09/07)


              第5回公判(5月20日)

* 他の人も責任負うべき ・・・ 京大看護部長の証言


 S看護部長は事件当時、日本看護協会常任理事として、医療事故の調査と対策に取り組まれていた専門家です。事故の2年後、京大病院看護部の最高責任者となり、この事件については第三者的に分析してこられたそうです。
以下はT看護師の弁護側証人として証言されたことの要旨です。


 S看護部長が着任する前の京大病院の事故に対する認識は、
「看護師1人の責任から、病院全体に迷惑がかかっている。」というものだった。
しかし、末端で事故が起きるのは組織全体の責任だと思う。

 T看護師1人だけが起訴されたことについては一人だけに責任を負わすのはおかしい。
T看護師にはタンクを取り違えて置き、エタノールを誤注入した責任と、他の人が間違えやすい状況を作った責任はあるが、他の4人の看護師も注入時の確認を怠った責任がある。一つの作業につき準備・実施・後片付けの3回チェックしなくてはいけない。
これは看護の基本。(確認の三原則)

 よく似た容器の採用にも問題があった。
取り違えられた2つのタンクは同じメーカーで、ラベルも良く似ていた。容器の形も横から
見るとまったく同じに見え、厚みだけが違っていた。
事故後もよく似た容器が採用され、現場の看護師に負担が大きい。
薬剤部のチェックができていない。

 T看護師は自発的に取り違えを告白し、事故対策に協力している。
もし禁固刑以上に処せられると、国家公務員を失職し、京大病院では働き続けることは
出来なくなり、その体験が生かされない。他の看護師も続けにくくなり、
その後の自発的告白も得られなくなる。事故対策も後退する。
看護協会から寛大な判決を求める嘆願書、10万4千人余を提出した。



 次に、検事とS看護部長との間で厳しいやりとりがありました。


  検 「Tさんは仕事を続けるべきというが、患者が看て欲しいと思うか?」

  S 「理解していただきたい。誰も間違うことはある。それを防止していくようがんばる。」

  検 「誰も間違うことはあると言うが、それが生身の患者に通用するのか?」

  S 「そうなると誰も医療従事者になる人はいなくなる。」

  検 「看護資格を持つ以上、一般以上の責任・倫理感が求められるはず。
       あなたがこのようなミスをしても仕事を続けられるのか?」

  S 「・・・・・。 今の私なら続けられるかどうかわからない。」

  検 「Tさんだけでなく、他の人にも責任があるといったが、
       民事では他の人達も訴えられているが、その責任を求めるのか?」

  検 「民事・刑事共に責任を負うべきか?」



 S看護部長はこの質問になかなか答えようとしませんでしたが、最後は


   『責任を負うべき』  と答えました。





              第6回公判(6月23日)

* 事故が繰り返される現場を離れることはできない ・・・ 被告人質問


 T看護師は弁護側の質問に対し、次のように答えました。


 容器を取り違えた当日、500ml 精製水を探しても病棟内になかった。E副看護師長に
報告すると、調乳室に4リットルタンクがあると言われた。

(実際には4リットルタンクもなかった。在庫管理はY看護師長の責任だったが、取り違え
事故の3日前の在庫チェック時は休暇中で、E副看護師長が代行。
この時既に精製水の4リットルタンクは在庫が切れていたにも関わらず、エタノール5リットルタンクを精製水と確認していた。)

 調乳室はY看護師長が整理していたが、忙しい時は整理が十分できず、2つのタンクが入口付近の床の上、ほぼ同じ場所に区切りもなく置かれていた。2つのタンクが似ているから注意しなさいという指導はなかった。
当時はまだ新人で、常に長時間の残業もあった。タンクを持ち出し時にラベルの確認をしたかどうか憶えていないが、精製水と思い込んでエタノールのタンクを取り違えたと思う。

 事故後は辛くて辞めたいと思ったこともあったが、みんなに支えてもらい、この体験を
生かそうと、組合の事故対策委員会に参加している。



 次に検事が 「なぜやめないのか?」「両親が続けてほしくないと言っても続けるのか?」などと厳しく尋ねると、

 「・・・わからない。」と言いながらも、

 「事故が繰り返される現場を離れることは出来ない。」「さおちゃんの死がムダになる。」
と仕事を続けたいと答えました。



* 全容明かして誠意を ・・・ 被害者の意見陳述


 これまでの裁判ではご両親の訴えや提出資料は無視され、T看護師を弁護する証言
ばかりが繰り返されてきました。
ようやくご両親の要望が認められ、被害者の意見陳述が実現しました。

 与えられた20分間ではとうてい言いつくせないさおちゃんへの思いと
それを奪われ苦しんだ3年間の思い、1ヶ月という期間でまとめきれるものではありませんが、前日の夕方までかかって悩み苦しみながら書き上げたそうです。

 しかし、それを声を上げて読もうとすると、涙があふれ一行も進めなかった為、夜通し
練習を繰り返したそうです。さおちゃんの死後体調不良が続いている上に、多勢の事故
関係者や病院組合の目の前でその人達を批難することのプレッシャーは大きく、
最後まで読み通せるかどうか危ぶまれました。
しかし、練習の成果か声はふるえていましたが、しっかりと最後まで読み通されました。

 さおちゃんへの愛と強い信念があればこそと感動しました。
その思いが被告のT看護師だけでなく京大関係者にも届き、事件全容解明に誠意を尽くしてくださることを願っています。

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