控訴審判決記事
【朝日新聞 2008年2月1日】
  エタノール誤注入、17歳死亡
  
二審も京大に賠償命令
  
大阪高裁 事故隠しは認めず

 京都大医学部付属病院(京都市左京区)で00年3月、人工呼吸器の加湿器に蒸留水と間違って消毒用アルコール(エタノール)を注入され、入院中の藤井沙織さん(当時17)が死亡した事故で、両親が京大と担当医2人、看護師7人に約1億1400万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が31日、大阪高裁であった。小田耕治裁判長は、京大と看護師4人の過失を認めた06年11月の一審・京都地裁判決を支持して約2800万円の賠償を命じたが、医師の責任も認めるよう求めた両親の控訴は棄却した。

 判決によると、女性看護師(31)=業務上過失致死罪で有罪確定=が00年2月28日、脳神経の病気で入院中の沙織さんの病室に、蒸留水と容器が似ていたエタノールを持ち込み、人工呼吸器の加湿器に注入。

 ほかの看護師3人も気づかず、沙織さんは3日後、急性エタノール中毒で死亡した。

 判決は、看護師4人の過失と京大の使用者責任を一審と同様に認め、担当医については「呼吸器の異常まで疑うべき注意義務はない」と判断。病院がミスを知った直後に両親に報告しなかったことも「事故隠しの意図はうかがえない」とした。


  
遺族「体験訴え続ける」

 沙織さんの父省二さん(51)と母香さん(51)=京都市左京区=はいまも、亡き娘が成長する姿をとらえた写真を自宅居間の壁一面に張り、「風雨にさらすのが忍びない」と納骨もできないでいる。

 2人は昨年5月に始まった控訴審にも、満面の笑みをみせる娘の写真を手に毎回足を運んできた。この日も、大阪高裁の法定で判決を聞いた。「控訴を棄却する」。その瞬間、ともに硬い表情のまま動かなかった。

 判決は「事故隠しがあった」とする主張も、一審に続いて認めなかった。判決後、省二さんは「正義が通らなかった」と肩を落としたが、香さんは「体験を伝え、医療事故が繰り返されないよう訴えたい」と力を込めた。

 京大病院は事故後、ともに白色で酷似していた蒸留水とエタノールの容器の取り違えを防ぐため、蒸留水の容器を4gから500tの透明色に変え、エタノール容器の表示ラベルを側面の1枚から両側面と上部の3枚に増やした。院内の「医療安全管理室」が、ミスやトラブルの情報をただちに伝える態勢も整備したという。担当者は「二度と事故のないよう注意したい」と話した。 (並木昌廣、阪本輝昭)



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