判決記事
【産経新聞 2006年11月2日】
 京大医療過誤 病院などに賠償命令
 
  京都地裁 事故隠蔽は認めず

 京都大病院(京都市左京区)で平成12年、人工呼吸器に誤って消毒用エタノールを注入され、中毒死した藤井沙織さん=当時(17)=の両親が、京大と医師、元看護師ら9人を相手取り、約1億1400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、京都地裁であった。中村哲裁判長は「医薬品のラベルを見るなど基本的注意義務を怠った」として、元看護師ら4人と病院に計約2800万円の支払いを命じた。

 中村裁判長は、9人のうち、エタノールと蒸留水を間違えた元看護師(30)と、ラベルを確認せず誤注入を続けた看護師3人について過失を認定。京大側の使用者責任も認めた。両親は、死亡診断書やカルテにエタノールの誤注入の記載がなかったことなどを挙げ「病院が事故の隠蔽(いんぺい)を図った」と主張していたが、中村裁判長は「事故を隠蔽する意図で記載しなかったとはいえない」とし両親の主張を退けた。

 判決後、会見した両親は「判決に言葉を失った。本当に審理された結果なのか」と述べ、隠蔽の意図が認められなかったことに憤りをあらわにし控訴の意向を示した。

 内山卓病院長は「今後の対応については判決文を見て検討したい」とコメントした。

 判決によると、藤井さんは平成11年から脳神経系の難病で入院。12年2月、人工呼吸器の加湿器に蒸留水と間違って消毒用エタノールを注入され同年3月に中毒死した。

 この事故で、元看護師と医師の計8人が業務上過失致死容疑などで書類送検され元看護師だけが起訴され、京都地裁で禁固10月、執行猶予3年の判決を受けた。



 
京大病院訴訟 「司法に失望」
        
隠蔽不認定で原告怒り

 京都地裁で1日、言い渡された京都大医学部付属病院の消毒用エタノール誤注入事故の判決。病院側の過失が認められ、約2800万円の損害賠償支払いが命じられたものの、死亡した藤井沙織さん=当時(17)=の両親は「司法には失望した。判決は真実ではないと思い知らされた」などと判決を批判し、悔しさをにじませた。

 裁判で両親は、カルテや死亡診断書にエタノール誤注入の記載がなく、死因を改竄(かいざん)したと思える記述や書き加えがあったとして、「病院側の事故隠蔽(いんぺい)」を一貫して主張。しかし、判決では「隠蔽はなかった」との判断が示された。

 沙織さんの父、省二さんは「言葉を失った。世間一般の常識では理解できない」と反発した。控訴の意向を示し、「決してあきらめない。この怒りをバネにがんばっていきたい」と話した。

 
医療過誤問題に詳しい宇都木伸・東海大学法科大学院教授の話

「エタノール誤注入が明らかとなっても死亡診断書にも当日の看護記録にも記載がないなど、判決からは意識的な隠蔽に対する不信感をぬぐえない。事故隠蔽の事実について刑事裁判で厳格に論じられるべきだった。民事では事実すべてを明確にしないで済む面があり、原告側の思いと隔たりがあった。控訴審でより詳細な事実認定を期待したい」



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