【 京都新聞 2004年6月4日記事 】


  検察審査会制度 議決の迅速化など改善を


「私たちの申立権が意味をなしていない。民意を反映する審査機関に裏切られた思いだ」。医療過誤で愛娘を失った両親が先月下旬、検察審査会制度が抱えている不備を訴えた。国民が検察の不起訴処分の適否を審査する同制度は現在、一般市民が刑事司法に参加できる唯一の制度だ。「実態に合っていない」と言う被害者の切実な声は、国民の司法参加に向けた課題を投げかけている。

 京都大医学部付属病院で4年前に起こった医療過誤事故。人工呼吸器に誤ってエタノールが注入され、京都市左京区の藤井沙織さん=当時(17)=が死亡した。


 
  納得できぬ処分理由

 両親の省二さん(48)と香さん(47)は事故隠しを疑い、関係者を告訴した。京都地検はタンクを取り違えた看護師を起訴したが、死亡診断書にうその死因を書いた容疑で書類送検された担当医師らは不起訴とした。両親は、検事の処分理由の説明に納得できなかった。「検察は常識から離れている。一般人の良識に諮るしかない」。2002年10月、京都検察審査会に審査を申し立てた。

 申請から約1年半。審査は始まる気配さえなかった。両親は4月末、審査会の事務局に進行状況を尋ねた。「01年度分の申し立ての処理が終わった段階。時効が迫った事件があれば、さらにずれ込む」と言われた。担当医師らの時効は来年3月に迫っている。

 両親はいま、審査の遅れが議決や再捜査に影響を及ばさないか、と不安を感じている。省二さんは「医療過誤は専門性が高く、検事でも処分までに2年近くかかった。時効直前に審査を始めて議論を尽くせるのか。再捜査に必要な時間は残っているのか」と唇をかむ。

 
  申し立て件数大幅増

 1948年に始まった検察審査会制度では、有権者の中からくじで選ばれた審査員が、起訴を求める度合いが強い順に「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」の議決をする。最高裁の調査では、全国の申し立ては98年の約1200件から一昨年は約2300件に増加した。それに伴い、議決をしていない未済も562件から1130件に倍増した。

 審査開始や会議日程の具体的な情報が申立人にさえ伝えられないことも、両親が不信感を強める原因になっている。両親は最高裁を通じて、京都検察審査会の審査状況を問い合わせた。申し立てから議決までに要した平均期間は昨年、439日だったと分かった。香さんは「平均でも1年2カ月かかっている。同じ悩みを抱える被害者は多いはず」と訴える。

 
  会議回数増やしたが

 同審査会は昨年末、時効が迫った未済の増加に対応するために審査会議の開催を増やした。しかし、審査員は仕事や育児を抱える生活を縫って出頭している。職場などの理解も十分とはいえず、未済を処理するためとはいえ、無理に会議を増やすことはできない。

 両親の代理人の坂田均弁護士は「時間がたてば証拠が失われる。検察審査会は不起訴処分に対する唯一の不服申立機関で、再捜査できる間に議決を出すのが本来の在り方。東京や大阪のような第二検察審査会を設置するといった抜本的な改善を図るべきだ」と言う。

 一般の市民が刑事事件を審理する裁判員制度が導入される。検察審査会制度も、起訴相当の議決に法的拘束力を与え、公訴権に民意を反映させる改革が進む。しかし、国民の司法参加を支えるには、一般市民が十分に議論を重ねた上で判断し、当事者が納得できる環境をつくることが不可欠だ。人を裁き、罪を問う重さを考えれば、理念が揺らぐような制度は絶対に許されない。


                         「取材ノートから」
                          社会報道部 吉永 周平


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