10 年 目 の 思 い

                              藤井 香



 2009年3月2日、10年目の法要を執り行いました。この日は、沙織のお姉さん的存在だったボランティアのNちゃんが生後11ヶ月のお子さんを抱いてお参りに来てくれました。沙織のおもちゃを手に取り、何もかもに興味津々で、こぼれ落ちそうな大きな瞳をクリクリさせていました。その姿は幼い日の沙織と重なり、Nちゃんを通じた不思議な命のつながりを感じずにはいられませんでした。

 ちょうど9年前の今日、司法解剖を終え対面した時、沙織は語りかけるように薄目を開けて私たちを見ていました。「なぜ、あんなに苦しんで死ななくてはならなかったの?」と訴えるように、何度閉じようとしても閉じなかった目…、思えば、あの時の沙織の目に突き動かされて今日まで来たような気がします。

 刑事・民事裁判では、私たちが求めてきた「事故隠ぺい」は認められませんでした。

 しかし、医療の原点である信頼は、決して法律で測られるものではないでしょう。法廷で、主治医は私と一度も視線を合わせませんでした。看護師の多くもそうでした。しかも、病院の責任と看護師らの過失が司法で認定されたというのに、病院からも、主治医と一部の看護師からも未だに謝罪がありません。このような対応が医療不信を招き、訴訟の増加につながっていることに医療者は目をそらさないでいただきたいです。

 医療者と患者が、正面から向き合い言葉を尽くすことで解決できることは沢山あるはずです。悲しみや苦しみを乗り越え、信頼回復に力をあわすこともできるのではないでしょうか。

 沙織が残した宿題は大きく、押しつぶされそうになりそうですが、逃げずに、諦めずに、しっかりと相手の目を見て、私たちの思いを自分たちなりに伝えていきたいと思います。

 事故から9年、長きにわたり私たち家族を見守り支えてくださった皆さまがたには、心からお礼を申し上げます。言い様のない恐怖や悲しみ、苦しみに向き合って来れましたのも、多くの方々のご支援があってこそ、言葉にならない感謝の思いでいっぱいです。本当にありがとうございました。どうぞこれからも、温かく、そして厳しくご支援のほど宜しくお願い申し上げます。
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