ロジカルシンキングと県別魅力度 -- 中小企業診断士(休止中)勉強日誌(2010 年 11 月)

作成日: 2010-11-14
最終更新日:

借り物の本でロジカルシンキングを考える

「ロジカルシンキング」という本を借りて読んでいた。 すると気になることがあった。観光地に関する旅行者の意識、 という図と文 p.107 から引用する。

引用部分

<引用ここから>

次の図は、旅行者1万人に、国内の観光地について、「どれくらい行きたいか」と 「実際に行ってみてどうだったか」を調査し、 それぞれの平均値をとってプロットしたものだ。 横軸が来訪意向(どれくらい行きたいと思うか)指数、」 縦軸が評価(実際に行ってみてどうだったか)指数になっている。

この図から国内の観光地の評価について、観察の So What? をしてみよう。

データ処理方法 旅行者 10,000 人を対象に以下のように処理した

出所:(財)日本交通公社『旅行者動向 2000 』を筆者加工

<引用ここまで>

なお、上記引用中最終行の「筆者加工」の筆者とは「ロジカルシンキング」著者のことを指す。 また、So what? というのはマイルス・デイヴィスの曲ではなく、 「だから何?」という問い質しである。実際にはこの質問を受けての答 「だからこれこれ」つまり、これこれを答えることになる。

自分で考えることの放棄

以上の引用文から私が導いた結論はこうである。

前提は信用できない。ゆえに結論はない。

これは反則である。所与のデータが正しいと仮定して So What ? をしてみようといういっているのだから、 要は自分で考えることを放棄して責任をデータ作成側になすりつけているのである。 ではなぜ前提は信用できないと考えたのか。もし前提が信用できると仮定したら私はどう答えるのか。 そして、本に出ている模範解答をどう考えるのか、以上の順に披露していこう。

調査方法への疑義

まず、旅行者 10,000 人を対象に以下のように処理した、というところから私の疑いが始まる。 疑い始めるときりがないが、たとえば次の観点がある。

  1. 旅行者 10,000 人のうち、上記観光地のすべてに行った人はほとんどいないだろう。 すると、旅行者のうち特定群の影響を受けている可能性がある。 たとえば、<来訪意向指数と評価指数をがともに低い観光地は、 旅行経験の豊富な人によって記述されているため、ともに低い結果が出ている。 一方、来訪意向指数と評価指数がともに高い観光地は、 旅行経験の乏しい人によって記述されているため、ともに高い結果が出ている。> などが考えられる。
  2. 仮に上記の心配があるなら、サンプリングにあたって層別化がなされているかなど、 考えるべきだろう。
  3. 来訪意向指数、評価指数ともに順序尺度であるものをむりやり点数化し平均をとっているため、 点数の比較の価値が薄い。
  4. 上と類似の観点だが、個別観光地の点数化と平均にあたっての母数とばらつきが不明であり、 慎重な処理が必要である。ここで、個別観光地の指数を得るにあたっての母数は 10,000 ではないと予想していることに注意してほしい。私の予測では、 熱海や浅草、日光のように交通の便がよく修学旅行などでよく行かれている場所は母数が多く、 一方で、北山崎のように知名度が低い個所や西表島など交通の便がよくない場所は母数が少ないと思われる。

私の予想では、回答者の生データは次のようになっているのではないかと思う。

回答者 No. 白神山地
来訪意向
白神山地
評価指数
松江
来訪意向
松江
評価指数

来訪意向

評価指数
松島海岸
来訪意向
松島海岸
評価指数
00001 ぜひ行ってみたい期待を上回る 行ってみたい* あまり行きたくない期待を下回る
10000 ぜひ行ってみたい* 行ってみたい期待を上回る 行きたくない*

つまり、行っていないところは評価指標は書けない。従って欠損値があるだろう。 そのようなことが考慮されていなければ私は信用しない。

前提が信用できる場合の回答

次に、前提が信用できるとした場合、私の回答は次のようになる。 観光地を来訪意向指数と評価指数で分けると、主に4グループになる。

  1. 来訪意向指数が50未満であり、評価指数が0未満であるグループ
  2. 来訪意向指数が50以上であり、評価指数が5未満であるグループ
  3. 来訪意向指数が50未満であり、評価指数が0以上であるグループ
  4. 評価指数が 8 以上であるグループ

以上のグループ分けを模式的に示すと次のようになる。

+-+-+
| D |
+-+-+
|C| |
+-+B|
|A| |
+-+-+

A グループは、来訪意向指数と評価指数に正の相関が見られる。 この区分けに入っている観光地は、昔から有名であり、かつ交通の便が良い土地である。 B グループは、来訪意向指数と評価指数には相関が見られない。 この区分けに入っている観光地は、有名な地もあれば無名な地もある。 また、交通の便のよい土地もあれば、そうでない土地もある。 C グループは、評価指数がほぼ一定で、来訪意向指数が多岐にわたるグループである。 ここは、土地の名称としては知られているが観光地としては知られていないという特徴がある。 D グループは、評価指数が 8 以上という単一基準で区切った。 ここは、観光地として最近知られ始めた土地で、交通の便の整備が期待される土地である。

以上の見方は相関というよりグループ分け、専門的にいえばクラスタリングの観点に立つ。 性格が似ている観光地を分類しようとするものである。

模範解答への疑義

模範解答は p.115 に書かれている。私の回答と似ているが、 この模範解答で触れられていない点がある。それは なぜ来訪意向指数を 60 で引いたのか、 そしてなぜ評価指数を 5 で引いたのか、という説明がなされていない点である。

同書の p.177 のカラムの末尾の段落を引用する。

ビジネスでもこの本質は全く同じだ。 例えば、複数の戦略代替案から何を選択するか、あるいはこの事業に投資すべきか否か。 課題はいろいろだが、なぜこの判断基準を設定したのか、 その根拠が示されなければ、結論を納得することはできない。 ある企業で役員の方々を対象にロジカル・コミュニケーションの研修を実施したところ、 「いかに判断基準を設定するか、そのロジックこそが経営の意思決定だ」 と言った方がいた。まさにその通りだ。

私の指摘は、この p.177 で判断基準が重要だといっているにもかかわらず、 模範解答では来訪意向指数と評価指数を天下り式に決めている、ということだ。 軸があれば軸の平均や中央値や最頻値で切る、という考え方で判断基準を決めるというなら、 それはそれでよい。 判断基準の考え方が出されていないことが問題だ。 また、2軸の切り口があれば象限があれば切り口をすべて軸の見方で切ることにも問題がある。 着目すべきは、似ている観光地を取り出す、という観点からだと思う。 そこには象限の考え方を一度取り払うことが必要だろう。

なお、別の見方もあり、参考になった。 読書記録 ロジシン:診断士見習のnikkei読み を参照されたい。

県別魅力度を考える

北山崎とはどこか

今度は、対象となる県別の魅力度である。 上記の表の観光地を見ていたところ、一つだけ分からない観光地があった。 「北山崎」である。山崎という地名はどこにもあるが、 観光地としてあるだろうか。 まさか、サントリーの醸造工場がある山崎の北、という意味ではないだろうと思いつつ探してみた。 すると、三陸海岸にある観光地ということがわかった。 知らなかった。「リアス式海岸」ということだけが頭にはいっていて、 地名までは知らなかった。上の資料では潜在的な観光地に分類されているが、 まさにぴったりである。 ( 2010-11-14 )

広島はなぜ人気がないのか

「来訪意向指数」と「評価指数」が共に低い観光地に広島があったことは意外であった。 広島が観光地になったのは、ひとえに「軍都」だったからことにある。 そこで原爆が落ち、原爆ドームが残った。悲惨な歴史がある地だが、 人間は悲惨な現実から目を背けがちだ。 だから、あまり行きたくないと思うはずで、来訪意向指数は低い。 そして、行って楽しむところは少なく、 訪問場所としての原爆ドームや資料館や平和記念公園であり、 このあたりは楽しみよりは反省や怒りをもたらすところだ。 だから、評価指数も落ちるのだろう。

同じ原爆が落ちた長崎を見てみると、来訪意向指数が高い。 長崎には出島やグラバー邸などの歴史的財産が多くあり、 観光資産が広島より多いからだろう。

広島の危機意識は、中国地域の経済情報 (www.energia.co.jp) の「 観光振興が広島県経済に及ぼす影響(2005年3月)」を参照されたい。 ( 2010-11-15 )

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MARUYAMA Satosi