中小企業対策への墓碑銘

作成日: 2000-09-10
最終更新日:

2000 年試験で終わりを迎える中小企業対策についての覚え書きです。

施策の読み方

この標題を見て、「いろいろな施策を分析するときに、どのような点に着目すれば覚えられるのだろうか」 と思った方はいないでしょうか。残念でした。これは文字どおり、「施策」はどのように発音すべきか、 という問いです。

実は、私も正答を知りません。独学ゆえ、そんなことは誰も教えてくれないからです。 しかし、おそらく正しいであろう読み方はわかります。「せさく」です。「しさく」ではありません。 「せさく」が正しいという証拠は、日本の中小企業情報ホームページのディレクトリ名にあります。 http://www.sme.ne.jp/sesaku/ というページに過去施策情報が提示されていたのでした。

2000年8月までは施策は中小企業庁のページ http://www.chusho.miti.go.jp/ に分散して配置されていたため、 施策の読み方を中小企業庁のページから確認することはできませんでしたが、 2000年9月下旬に更新され、http://www.chusho.miti.go.jp/sesaku_guide/というページが できました。

もちろん、現在のページは http://www.chusho.meti.go.jp/sesaku_guide/ になります。

2006.9.3 付記:今はまた別のページです。 http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/g_book/mokuji/ をどうぞ。

2010-06-07 付記:現在は次のページ http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/g_book/ にある PDF になっている目次から参照できます。

なぜ「しさく」と発音しないかというと、「試作」と紛らわしいことがあるからでしょう (類似例には「施行」があります。「せこう」が官庁読みです)。 しかし、本当は別の理由があるのではと疑っています。 官庁の人たちには「お布施」とか「施主」といったイメージがあるからだと私は思います。

ついに私も施策を「せさく」という読みで、フロントエンドプロセッサの辞書に登録してしまいました。

なお、NHK のアナウンサーは「しさく」と発音していました。

略称

施策には大きく分けて、法律、機関、事業の 3 種があります。基本は法律です。 法律の中には妙に長いものがあるので、公式に認められた略称でもかまわないようです。 独占禁止法はそのいい例です。 私が不思議に思っているのは、「小規模事業者支援促進法」です。この正式名称は、 「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」です。 「促進」ということばは法律には見当たりません。不思議に思います。 まあ、官の感覚では支援するだけは法として不体裁だ、ということなのでしょう (しかし、今は中小企業支援法もあるが)。

促進ということばは、この法律の第 1 条にあります。 「商工会及び商工会議所が(中略)支援することを促進するための措置を講ずることにより、(後略)」 なるほど、これで一件落着です。

もう一つ、正式名称と略称の因果関係がつかめない法律があります。 「特定産業集積の活性化に関する臨時措置法」の略称は「地域産業集積活性化法」です。 これを悪用したのが 1999 年の第2次試験で、200 字問題に「特定産業集積活性化対策事業」と出ました。 ふつう略称のほうで覚えていますからねえ。

なお、こちらは条文まで調べませんでした。今さら、という気がしたからです。

その他、正式な略語がわからないものがあります。

中小企業等投資事業有限責任事業組合

この組合の根拠法「中小企業等投資事業有限責任事業組合契約に関する法律」の略称はないようです。

中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律

「中心市街地活性化法」を略称としている本もあり、 「中心市街地整備改善活性化法」を略称としている本もあります。

単語の連携

各種の事業の名称は似たものが多いので調べてみました。特に、 △△○○事業の○○に相当することばが似通っているので注意が必要です。 適当に選んだ 30 種類の施策から事業に関して調べたところ、次の順番になりました。

順位事業性格○○事業副性格(カッコ内は頻度)△△
1支援中小企業(3)、革新(2)、促進(2)、強化、研修
2促進創出(2)、活動、革新、利用
3整備データベース、ネットワーク、基盤

どうやら、整備は共通基盤(インフラストラクチャー、下部構造)に使えばいいとわかります。 支援と促進の区別はつきにくいのですが、創出という生み出す活動には促進を使えばいいでしょう。 下線のある革新は両方で使われています。 支援のほうが多いのは官が「かくしんそくしん」という韻を踏む響きを嫌ったからでしょう。 この少数派は「課題対応技術革新促進制度」です。

似て非なる法律と施策と思ったが

新事業創出促進法という、ストックオプションなどについて定めた法律があります。 一方、今年できた三人組ならぬ (地域中小企業|都道府県等中小企業|中小・ベンチャー総合)支援センターと並んで、 新事業創出促進支援事業、という文字があり、そこには地域プラットフォームの整備、と書いてあります。 この二つの法律と施策、なぜ名前が似ているのに違うところで出てくるのだろうと訝しく思いました。

だいたい、地域プラットフォームということばは、平成 12 年の「総覧」では重点項目のところにしか 出てきません。本文を皿のようになめても見つかりません。 どこかに説明がないかと思ったら、391 ページ、 行政組織の近畿通商産業局の産業企画部地域振興課総括係のところが目に入りました。 「(前略)新事業創出促進法のうち地域新産業創出総合事業(地域プラットホーム)」 これが気になって他の文献にもあたった結果、 どうやら、新事業創出促進法から新事業創出促進支援事業が出てきたのだと合点しました。

新事業創出促進法には3つの柱があります。

  1. 創業支援
  2. 中小企業者の新技術を利用した事業活動支援
  3. 地域産業資源を活用した事業環境の整備

創業支援にはストックオプションなどがあります。新技術うんぬんには SBIR があります。 地域産業資源うんぬんの整備に該当するのが、地域プラットフォームの整備に相当するものだったのです。 この整備の一つにインキュベータ施設の整備があります。これは、 新事業創出促進法に基づく高度研究機能集積地区に作られるものだと、中小企業白書に書いてありました。 いやあ、まったく「総覧」も当てになりませんなあ。

再掲の謎

「総覧」の重点項目は、御丁寧に予算の増減まで示して重点施策を示しています。 この中でいくつか「再掲」とあるのですが、全く同じ施策を再掲しているわけではないので、 どの施策に対する再掲なのか、私にはわかりません。以下は私なりの勘です。

なお、「身近」の定義について疑義がありますが、それは既に某所に書いたのでここには記しません。

小{規模,}{企,事}業{者,}{等,}

小規模企業に関する施策はいくつかありますが、それぞれの法律・施策ごとに小規模企業を意味する名称が微妙に異なっています。

小規模事業者支援促進法
小規模企業 広域活性化事業、設備資金制度、共済法、共済制度、
小規模企業者等設備導入資金助成法
小企業等経営改善資金融資制度(マル経)

なぜこうなったかを考えてみました。

  1. 通常は「小規模企業」でよい。製造業では 20 人以下、 商業・サービス業では 5 人以下を指す。
  2. 「小規模事業者」は、この法律そのものが小規模事業者とはこれこれと定めている。
  3. 「小規模企業者等」とあるのは、もとが「中小企業設備近代化助成法」だったから。すなわち、 必ずしも小規模企業でない(中規模の)企業をも対象としているかもしれないから。
  4. 「小企業者」は、小規模企業者よりさらに小さく、製造業では 5 人以下、 商業・サービス業では 2 人以下を指す。「等」があるのは、小企業者でない小規模企業者で 経営内容が小企業と同じものも対象にするから。

以上、無理矢理こねくった屁に近い理屈です。それでも、間違えなければいいでしょう。

無理問答

おふくろが社長でも親事業者とはこれいかに。

母さんがつぶしても倒産というがごとし。

男性経営者が受けても助成金とはこれいかに。

次男長女が努力していても「中小企業の自助努力」というがごとし。

似て非なる施策と思ったが

「地域産業集積創造基盤施設整備事業」(A)という、 長くかつ黒っぽい施策が産業集積の活性化の項で出てきます。 これに似ているのが「地域産業創造基盤整備事業」(B)です。これは高度化事業で出てきます。 両者は違うものとばかり思っていましたが、どうも状況証拠からすると同じようです。

  1. (A)、(B)とも第三セクターが設置運営するとある。
  2. (A)では廉価賃貸事業または研究室の整備、(B)ではインキュベーター事業とある。 両者はまず間違いなく同一のことを指している。
  3. (A)では中小企業総合事業団から無利子の設備・運転資金融資・出資が行われる、とある。

こういう鵺のような施策を見ていると、UNIX のコマンドを思い出します。 テキストエディターの vi と ex は 実は同じコマンド(実体が同じ)なのですが、vi という名前で起動するとスクリーンエディターとして、 ex で起動するとラインエディターとして働くのです。

ちなみに、私は長いほうの施策を「地域産業集積基盤施設整備事業」と覚えてしまっていました。

言葉の因数分解

こんな表題が出てくる章が、「こいつらが日本語をダメにした」という本にあります。 ここでは「地域ものづくり協議会支援事業」の施策をみてみます。 去年はこの事業は単に 6 種類に細分されていましたが、 今年は 2 種類に大きく分類されたあとで 6 種類に分かれています。 さて、細分化された 6 種類のうちの 2 つが「企画運営委員会費」と「企画運営費」です。 この 2 つを併せて、
(企画運営委員会費)+(企画運営費)という和を作ります。これを因数分解すると (企画)(運営委員会+運営)(費)という項にまとめられます。 これがとりもなおさず、大きな分類の一つ、企画運営委員会運営費です。 もう一つの分類は「地域ものづくり協議会支援事業費」です。 「まんまやないけー」という声もあるでしょうが、下位の 4 つの事業はこの名前を直接使うものは ありません。

もう一つ、ことばの因数分解ができる例です。地域産業集積活性化法では、 都道府県が次の2つの計画を作成します。 前者は主務大臣が、後者は通商産業大臣の同意を得ます。

  1. 基盤的技術産業集積活性化計画
  2. 地域中小企業集積活性化計画

これら二つも因数分解できますが略します。 前者では高度化等計画と高度化等円滑化計画が、後者では進出計画と進出円滑化計画が立てられます。 これらを併せて(高度化等+進出)・(0+円滑化)計画となります。 これを実現するには、UNIX のコマンドで
% echo {高度化等,進出}{,円滑化}計画
と打ってみればいいでしょう。

本当に似て非なるのは「中小企業技術基盤強化税制」と「中小企業等基盤強化税制」です。

誤植番外編−平成 12 年度中小企業施策利用ガイドブック

ページ
7インタレスト・ガバレッジ・レシオインタレスト・カバレッジ・レシオ
78中小企業信用保健法中小企業信用保険法
83新事業分や開拓を実施使用とする者が新事業分野開拓を実施しようとする者が

平成 12 年度中小企業対策 解答例

中小企業金融安定化特別保証制度

 中小企業者への事業資金融通の円滑化を図
ることにより経営コンサルタントへの資金を
供給し我が国経済の活性化に資することを目
的とする保証制度。貸し渋り・合併等金融環
境の変化により資金調達を来したとの名目に
より、低保証料、緩和された保証条件で中小
企業が債務保証を受けることによりコンサル
タントの資金が増大する。本年度建設的な努
力に関する事業計画の提出が義務付けられた
が、これは建設業に対する優遇処置である。

上記はもちろん皮肉です。(2000-10-27)

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MARUYAMA Satosi