雄弁な診断士:企業診断ニュースを読む(2010年 1 月)

作成日: 2010-09-03
最終更新日:

雄弁と訥弁

診断士は雄弁であれ、という記事を見た。投稿者は 90 歳を超える大先輩である。 内容を読んで困ったと感じた。俺は雄弁ではなく、訥弁だからである。 訥弁だから、ことばはつっかえるし、 いざ言い初めても聞いている人からは「何を言っているのかわからない」と返される始末である。

投稿者はいう。説得力をつけろ、雄弁でなければならない、 雄弁となるには経験をつむこと、話を惹きつけるために五感をくすぐる言葉をはさめ、 こんな内容だった。そのことばを紹介する。

  1. 色を入れる→赤,緑,……
  2. 音を加える→カランコロン, ……
  3. 味をはさむ→唾を出させる, ……
  4. 匂いを漂わす→鼻をうごめかせる, ……
  5. 触れる楽しみ→鼻をうごめかせる, ……

これらに加えて次の工夫も紹介している。

ごもっともである。これら五種類の感覚を表現するには、落語は打って付けだと思う。 師匠について勉強しようかな。

雄弁な先生

以下は私の思い出である。 新入社員のとき、会社の研修の一環でいろいろなスピーチを聴く機会があった。 もっともよく覚えているのは、話し方のコツを講演してくれた講師だった。 女性社員がいたにもかかわらず、かなりの猥談で聴講者の笑いをとっていた。 例えば、何かの理由で手が使えなかったので、足の親指でパンストを脱がせたとか、 そういう話だった。なぜこれがおかしかったのか、もう思い出せない。 この面白い話のあと、その講師はひたすら 30 分以上、英語の重要性を力説した。 しかし、この英語の重要性の話は全く面白くなかった。この落差に余りにも驚いた。

計画された笑いといつのまにか出てくる笑い

上記のスピーチを受けて、新入社員が 3 分ほどの時間で自己紹介をする練習が設けられた。 その中の傑作は、O さんのものだった。O さんは機械、特に燃焼の研究をしていて、それを話した。 以下、再現してみる。数字はいい加減だが、雰囲気を出すために入れてみた。

燃焼という現象を観察するとわかりますが、いろいろな条件で変わるんですよ。 まず、Aという燃料を1ミリリットル用意します。 そうして、雰囲気として酸素を1気圧に設定します。そして燃焼させると、ちょうど1秒間燃えます。 次に燃料を A から B に変えます。すると、0.1 秒しか燃えないんですね(観客笑)。 そうしてさらに、燃料を B にしたまま雰囲気の酸素の濃度を高めます。すると、 燃焼が 0.001 秒になるんです(観客爆笑)。

まあ、なぜ観客が爆笑するかわからない人がいると思うが、 それは説明のしようがないのでよしておく。ちなみに、 話している本人は、なぜこんなに観客が笑うのか、わからなかったという。

次に似た例を出してみよう。上記スピーチから半年後のことである。話者は私で、 観客は私と同じ立場の新入社員だ。

太陽電池用のシリコンは高い純度が要求されますが、 半導体のシリコンに比べればそれほどでもありません。 半導体用のシリコンは 小数点も含めて 9 が十個か十一個、すなわち 99.99999999 % から 99.999999999 % というように、テン・ナイン、 あるいはイレブン・ナインまで要求されます。 一方、太陽電池用のシリコンで要求される純度は 9 が六個続く 99.9999 % 、 すなわちシックス・ナインです(観客笑い)

実は私も O さんと同じでなぜここで観客に笑われるか理解できなかった。 後で観客に聞いてみたら、「だってシックスナインを連呼されたらおかしいだろう」 思わずハッとした。私はシリコンの純度の文脈で語っているのに、 常識的にシックスナインといわれて連想するのは二人の人間のある種の営みではないか。 これはおかしいわけだ。私が話したいたときは、すっかり常識が抜け落ちていた。

こういう、計算されていない笑いというのは本当に好きだ。もちろん、落語や漫才の話芸のように、 計算された笑いも好きだ。そして、下手な計算をしたオヤジギャグもまた、好きだ。


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MARUYAMA Satosi