勝負脳は鍛えない:企業診断ニュースを読む(2009年 4 月)

作成日: 2009-12-20
最終更新日:

遠藤保仁のコロコロPKに唸る

勝負脳、ということばが流行しているようだ。この雑誌でも特集になっているが、 それはともかく、記事を読んでいて目標に集中することの重要性の例に、 サッカー選手、遠藤保仁のペナルティーキック(PK) が引き合いに出されていた。彼のPKは「コロコロPK」と呼ばれ、抜群の成功率を誇っていることを知った。 いくつか動画を見てみたが、これは本当に凄い。コロコロというのは極端で、 ボールが地面に近くを飛ぶように、またゴールキーパーの虚を突くように左右に蹴り分けている、 というのが本当であるが、遠藤の技術には唸った。

将棋の勝負脳

勝負、ということばで想像するのは、戦争であり、喧嘩であり、またゲームである。私は戦争をしたことがないから、 喧嘩かゲームで勝負するが、喧嘩はたいてい負けるので、勝てるのはゲームだけである。 具体的には、将棋というゲームで勝ち負けを争うのだが、最近は負けが込んでいてやらなくなった。 ところが、同じ記事に将棋棋士、羽生善治の対応策が紹介されている。それは、 羽生は同じ戦法を採用し続けることがない。なぜなら、現状維持志向から後退が始まると考えている、だから新しい手を指し続けている、 というものだ。

羽生のこのような考え方は、将棋ファンの広く知るところである。しかし一方で、新しい手というのは、 新しい戦法を必ずしも意味しない。「新手一生」を標榜し、新しく優れた戦法を多く編み出した将棋の名棋士に、升田幸三がいる。 その業績を記念して、革命的な戦法を編み出した棋士に対して、 日本将棋連盟は毎年「升田幸三賞」を授与し顕彰す。しかし、羽生は未だにこの賞に与ってはいない。 ちなみに、羽生の好敵手である谷川浩司は、升田幸三賞に輝いたことはある。ただし、これは谷川が戦法を開発したという理由ではなく、 ある対局で目の覚めるような絶妙手を指し、この手が与えた感銘によって与えられたものである。 (このころから升田幸三賞の対象が戦法のみから1手の絶妙手まで拡大された)。 谷川はインタビューで、この受賞を喜びつつも「自分は改革者ではなく改良者だ」「賞を頂いた手は普通で、私の今までの妙手のベストテンに入るかどうか」 とも謙遜している。ちなみに、谷川自身による妙手のベストスリーの中での第1位は、対羽生戦、後手として打ち込んだ「△7七桂」で、 これを知らなければ将棋界のもぐりであろう。このあたりは、Wikipedia の谷川浩司の項にあるので、興味ある方は読まれたい。

勝負脳とはずれてしまったが、ちょっと知っている分野なのでつい長くなってしまった。

勝負脳を鍛えない理由

遠藤の話は、「目的ではなく目標に集中する」大切さを述べている。 また、羽生の話は「現状維持志向から後退が始まる」ことを示している。 するとそこで矛盾が生じる。遠藤のコロコロPKは、かたくなに自分の型を守っている。これは現状維持志向ではないか。 また、羽生はオールラウンドプレーヤーである。その弱点を衝かれて、振飛車の名手である藤井猛に続けざまに敗れ去ったことがある。 これは、藤井が振飛車の体系である「藤井システム」を完成させたからである (その後、藤井自身も藤井システムの採用を減らすが、これについては述べない)。

結局、この手の気力を高揚させる話は、その場その場で都合がよい理屈を並べるだけのような気がするし、しょせんサッカーはサッカー、 将棋は将棋である。「酒は別腸、碁は別智」。参考にはするが鍛えるということはしない。


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MARUYAMA Satosi