企業診断ニュースを読む(2004年11月)

作成日: 2004-11-06
最終更新日:

経営倫理の診断支援(前編)

〜“企業の持続可能な成長”の視点から〜という副題のもと、 経営倫理の内部制度化診断、経営倫理規定、倫理担当・推進部門の設置診断、 という3章から構成されている。

ここで書いてあることは、当然守らなければいけないことがほとんどである。 執筆者がまとめている「経営倫理診断の関係領域と項目」という表(以下診断表)には、 9つの関係領域と個別の項目について列挙されている。これら項目の遵守(あるいは禁止)について、 ははあ、その通りです、というのではこれで終わってしまう。 それから先に何かないだろうか。

  1. ここに書いてあることを、すべて、当然のように守らなければいけないのか。
  2. 書かれていることの裏には何かないか。どのように解釈すればいいのか。
  3. 会社の目的そのものが、経営倫理に反していないか。

まず1点、項目のすべてを守らなければいけないか。 表の関係領域の9番目「その他」の項目の最後に「兼業の禁止」という項目がある。 兼業するのは従業員であろう。さて、兼業は禁止されるべきものだろうか。 兼業そのものが禁止の対象となるのではなく、情報の漏洩や資産の盗用が禁止の対象となるのではないか。 もっとも、社内規程で兼業が禁止となっているからにはこれに従わないといけないが、 従業員を一つの会社に縛り付けていることの必要性が、徐々に薄らいでいるのではないか。

2点めは、書かれていることの解釈をどうすればいいのかということである。 こんな例を考えてみた。素材メーカーのP社の購買部門が、 集中購買によって間接品の調達費用を抑えることを考えた。今まではQ社,R社、S社の3社から、 個別部門がばらばらに調達していたので、集中購買に切り替えることでコストが浮くという目算である。 間接品の調達の候補にQ、R、Sの3社が入札し、価格の安さでQ社に決定した。 すると、R社の営業から購買部門にクレームがついた。 「わがR社は、貴社P社から材料を調達している。このままQ社に決めてよいのか。 今までの良好な関係が損なわれてもいいのか。」 P社の営業部門からも同様にクレームがついた。「R社はわがP社の重要な顧客である。 R社との関係を良好に維持したいので、Q社からの調達をとりやめてほしい。」 (抽象的でわかりにくければ、たとえばP社が木材問屋で、Q、R、Sの3社が鉛筆メーカー、 間接品が鉛筆として置き換えて欲しい。もちろん、鉛筆の木にはP社が卸す材料を使うということである) 仮に購買部門が当初の方針通りQ社製品の集中購買に踏み切ったとする。 R社がP社からの材料調達を中止したらどうなのだろうか。 診断表の関係領域の第4項「取引先」に「優越的地位の濫用」という項目があるが、 これに抵触しないだろうか。

3番目の問題は、該当企業の事業領域がそもそも倫理と相容れないことがあるのではないか、という疑問である。 この診断表では、世界や日本の有名な大企業の経営倫理規程の内容を分析している。 その大企業の中に、マグダネル・ダグラス社やトヨタがある。 マグダネル・ダグラス社はいうまでもなく軍需産業の代表企業である。 トヨタも自動車産業の雄である。自動車産業は、 自動車をあれだけ作っておきながら自動車の社会的費用については無視したり反発したりするだけである。 こういった、産業がもつ暗い領域を分析する必要もあるだろう。

やや皮肉な見方をするなら、大企業になると内部統制がややもすると緩むために、 倫理規程という形で明文化し、公開する必要に迫られるのであろう。 (もっとも、トヨタ内部の危機意識は現在に至るまで持続しており、 それがために利益を生み出す構造があるともいうが。)

ざっと読んできて、この論考は大企業を対象にしたの経営倫理診断の書き方であると気付いた。 中小企業対象とするのに無理があるのではないか。もっと楽で、 導入しやすい経営倫理はないか、そう夢想した。

最後に、今までとわずかに関係ある話をする。診断表の第7の関係領域に地域社会(積極支援)というのがあり、 社会貢献活動という項目がある。この項目にあてはまる企業はたくさん巷にあるだろうが、私はほとんど知らない。 そんななか、ふと思い出した会社がある。 田中陸運株式会社である。 指揮者の岩城宏之さんのエッセイ「フィルハーモニーの風景」(岩波新書)で取り上げられたので、 覚えている方も多いかと思う。 この田中陸運は普通の引っ越しや運送も行なっているのだが、特筆すべきは楽器の運送である。 ハープを始めとする楽器運送に特徴がある。詳しくは上記書をごらんください。

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MARUYAMA Satosi