企業診断を読む(2003年5月号)

作成日:2003-04-28
最終更新日:

日本商業の将来像を探る

標記のテーマで5編の論文が収められている。

第1は竹内慶司氏による「伝統と革新のコラボレーション」という論文で、 小売業が環境変化の中で直面する問題と生き残る実例を示している。

竹内氏は、この論文の世相と弁証法的プロセス理論という節でいくつかの事例を紹介している。 そして、世の中はとてもせわしなくなってきたから、 「食事はファストフードにすべき」ではなく、「食事はスローフードにすべきだ」と主張している。 しかし、上記の主張は正しくない。なぜなら、 この主張の直前で氏自身が「すべてが正しくもありすべてが正しくはない」といっているからである。 これはともかく、ファストフード、スローフードについてもっと考えてみないといけない。

まず、考えなければいけないのは、 食事の種類と食事の取り方のことである。本論文がそうだといっているのではないが、 両者が混同して用いられていると議論が明確にならない。 まず、ファストフードというときには、その食事の種類を指すと思われる。 ファストフードで連想されるのは、ハンバーガーや牛丼であろう。 しかし、ファストフードには他の食事、たとえば立ち食いそばもある。 また、元祖ファストフードのサンドイッチ、おにぎりもある。 ハンバーガー、牛丼、立ち食いそば、サンドイッチ、おにぎりを一緒にして論じていいのだろうか。

また、食事の取り方としてのファストフードとスローフードもあるだろう。 ファストフードをゆっくり食べれば、スローフードになるのだろうか。 ハンバーガーを2時間かけて何人もの仲間と楽しく食べれば、立派なスローフードとも思える。 また、せっかく2時間かけた手作りの御馳走も、 あわただしく5分でかき込んでしまうとスローフードの文化とは言えないだろう。

さらにいえば、スローかファストかというのは、何も食事だけに限らない。 竹内氏は、かつて1000円の床屋を紹介していた。 安い、早い、うまいの揃った理髪店としてほめていたのではなかったか。 私はなるほどとは思ったが、1000円の床屋には行く気がしなかった。今も行く気はしない。(註) 私は暇なサラリーマンだから、ということがあるかもしれないが、 せめて床屋ぐらい、のんびりと時間を使いたかったのだ。 だから、昔から今までずっと従来型の床屋に行っている。 実際、効用もあった。従来型の行き付けの床屋は昔FMのラジオを流していた。 たまたまそのFMがクラシックであると、いい気分になる。 特に私の好きなフォーレの音楽がかかっていたときは、 得も言われず幸福であった。 もし早いのが取り柄の床屋に行ったとしよう。そうすると、 仮にFMが流れていたとしても短い間しか音楽が聞けず、さっさと追い出されていただろう。 このように、長いことが得な場合もある。

竹内氏自身が気付いていることだが、何が正しくて、何が誤っているかはわからない。 いろいろな観点から考えることが大事だということを改めて思う。

第2は、「小売産業における新たな視点」という藤田泰一氏の論文である。 これを読んで、私にはわからないことがある。この論文で、次のように主張されていることがある。

買い物行動を国民の文化と考えると, これまでの効率化を追求したワンウエイのわが国の中核的小売システムから, 人間中心といったツーウエイの小売経営が今後重視されてくるのではないかと思われる。

本当にそうなのだろうか。私が見聞きする限り、 国民の文化としては(少なくとも東京近辺では)ツーウエイよりワンウエイを好むのではないか。 スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、 レジというわずかな会話の場でさえ、客は言葉を出し惜しむ。

ワンウエイとツーウエイを直接比較しようにも、私の住んでいる近くのスーパーではできない。 しかし、私が観察した別の場面の例からの類推はできるだろう。

たとえば、駅の改札口で、精算をするときである。 精算機に並ぶ人の数が、駅員のいる改札口に並ぶ人の数より多い。 またたとえば、酒屋やタバコ屋で物を買うときである。 自動販売機で酒やタバコを買う人が、対面で買う人よりも多い。

物を買うのを煩わしく思い、店員との会話を面倒だと思う人が多いのではないか (私もその一員である)。 会話を疎んじることは意思疎通から遠ざかることであり、あまり好ましい文化とは思えない。 だから、藤田氏の主張を、「国民の文化に倣ってツーウエイの小売経営が今後重視されてくる」 と捉えてはよくないだろう。むしろ、 「国民の文化を変えるべくツーウエイの小売経営を今後重視しなければならない」 と捉えるべきだ。


註:1000円床屋も必要なときは行く。2004年3月、私にしては忙しかった時期、 披露宴の2時間前に1000円の床屋でさっぱりできたのは本当にありがたかった。(2004-05-16)

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MARUYAMA Satosi