中小企業診断士業務遂行指針

作成日: 2003-03-04
最終更新日:

本指針は、社団法人中小企業診断協会会員の中小企業診断士(以下、「診断士」という) の果たすべき役割、経営に関する診断・支援(以下、「診断・支援」という)のあり方およ び診断士の業務の遂行に必要とされる知識・能力などについて、とりまとめたものである。

第1章 中小企業診断士の活動分野など

診断士の位置づけ、期待される活動分野などは、次の通りである。

1.中小企業診断士の中小企業支援法における位置づけ

中小企業基本法において、「国は、中小企業者の必要に応じ、情報の提供、助言その他の 方法により、中小企業者が経営資源を確保することを支援する制度の整備を行うこととす る。」と規定されている。これを受けて、中小企業支援法では診断士を次のように規定して いる。

「中小企業者がその経営資源に開し適切な経営の診断及び経営に関する助言を受ける機会を確保するため、 登録簿を備え、中小企業の経営診断の業務に従事する者であって、 次の各号のいずれかに該当するものに関する事項を登録する。
一 次条第1項の試験に合格し、かつ、経済産業省令で定める実務の経験その他の条件に適合する者
二 前号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者で、経済産業省令で定めるもの」
 すなわち、診断士は、経済産業大臣が登録する経営コンサルタントとして十分な能力を有し、 中小企業の支援を行う者と位置づけられている国家資格者である。

2.期待される活動分野

一方、診断士が有する知識・ノウハウは中小企業者に限定されることなく、経済社会で 広く有効に活用されるべきであり、企業規模の大小を問わず、経営に関する診断・支援を 行うとともに、次のような機関や団体の業務も支援する立場にある。

(1)3類型の支援センター

全国8か所に中小企業総合事業団の中小企業・ベンチャー総合支援センターが設置され ている。また、各都道府県および政令指定市には都道府県等中小企業支援センターが、さ らに、全国の広域市町村圏程度の区域ごとに地域中小企業支援センターが設置されている。 診断士は、これら3類型の支援センターのプロジェクトマネジャーやサブマネジャー、コ ーディネーターとして配置されたり、専門家派遣事業や窓口相談事業などの各種事業に従 事している。このほか支援センターが窓口となって行う公的融資などの現地調査員として の活動にも診断士が関与することもある。

(2)地方公共団体

都道府県や市町村の地方公共団体には商工担当部局があり、その地域の中小企業の振興 を担当し、中小企業施策を予算化している。  診断士は、その施策が確実にそして効果的に実施されるように、中小企業などの診断・ 支援を行うことが求められている。場合によっては地域の「まちづくり」にも参加するこ とが期待されている。

(3)中小企業支援機関(商工会議所・商工会・中小企業団体中央会など)

地域産業振興の立場から地域で活動する中小企業を支援しているのが商工会議所と商工 会で、中小企業の集まった団体の支援をしているのが中小企業団体中央会である。  診断士は、これら中小企業支援機関の職員に協力して、地域中小企業の支援を行ってい る。また、地域の経済発展を促進するため、当該地域の創業支援も診断士の活動分野にな っている。

(4)業界団体

国内で事業を営む中小企業は、何らかの組合に所属していることが多い。これらの業界 団体はその構成員が産業構造の変化に円滑に適応し、発展できるよう、業界としての方向 性を計画したり、それに沿った個別企業の経営支援を行っている。

診断士は、このような活動を行う際の診断・支援の専門家としての協力を求められてい る。

民間のコンサルタントとしてコンサルティングを業として受託する場合は、その責任を 診断士が負う。しかし、3類型の支援センターや他の中小企業支援機関などからの依頼で 中小企業の診断・支援を行う場合は、当該支援機関の事業にしたがって診断・支援活動を 行う必要がある。このため、診断土は各支援機関の業務内容(支援業務の趣旨、目的、対 象者、支援のレベルなど)を十分に理解している必要がある。

3.診断・支援の範囲

近年、診断士の支援・支援の範囲は広がっている。業務の中心は個別企業の診断・支援 であるが、企業が任意で集まった企業集団や業界団体の支援も期待されている分野である。 また、「まちづくり」の視点から地域産業支援への要請も高まりつつある。さらに、将来の 日本経済を支える新鋭創業者の支援・育成も診断士に求められている大切な業務となって いる。

診断土の診断・支援の範囲を整理すると、次のとおりである。

(1)個別企業の診断・支援

個別企業の経営活動を診断・支援する活動である。経営戦略、研究開発、経営管理、財 務戦略、マーケティング、人事労務、IT活用、環境保全などの経営分野が診断・支援の 対象業務となる。個別企業の診断・支援では、当該企業が将来にわたって継続して利益を 得ることができる体質をつくり上げることが必要である。

したがって、診断士自身がまずその能力を向上させるとともに、必要に応じてより高度 な、または関連する分野の専門家と連携して、当該企業を診断・支援することが必要とな っている。

(2)企業集団の診断・支援

単独企業よりも、複数企業が集まって経済活動を行う方が合理的な運営ができる場合が ある。企業の集団には、資本系列、FC、VC、ショッピングセンター、流通団地、工場 団地、トラックターミナル団地などさまざまな形態がある。これら企業集団の構成員は独 立した企業であるため、企業集団では、集団の利害と当該企業の利害の相克が起こること もある。

診断士は、このような企業集団に対し、企業集団と個別企業の双方の経営を支援し、調 整する存在として期待されている。

(3)業界の診断・支援

多くの業界団体は高度成長期に発足しており、経営環境の構造的変革という新たな局面 を迎え、新たな行動指針の確立を求めている。業界によっては縮小均衡を余儀なくされる ところもある。

診断士は、経済社会環境の変化を客観的に分析し、中立の立場で、それぞれの業界にお いて新たに目指すべき方向や秩序を提案し、その実現を診断・支援する存在として期待さ れている。

(4)地域の診断・支援

道路・鉄道網などの整備によって、日本国内各地の立地は大きく変わっている。さらに、 経済の国際化によって生産機能のアジア移転などが急速に進んでいる。依然として輸出依 存型経済であることは変わらないが、日本各地の地域経済は従来型の活動だけでは地域社 会を支えることができなくなっている。このため、地域においても新たな産業構造をつく り上げることが求められている。

診断士は、新たな商店街活動(まちおこし)、伝統的工芸品産業振興、地場産業振興など の振興計画を商工会や商工会議所、さらに地域の行政機関と一体となって策定し、その実 現のための診断・支援を行うことが求められている。

(5)国際化診断・支援、国際診断・支援

わが国経済の国際化の進展に対応し、従来から、「国際化診断」が行われてきている。こ れは主として開発輸入を中心とした対応や、わが国中小企業の海外進出に関する診断・支 援である。また、一部の診断士は、海外企業体を対象とする「国際診断・支援」への分野 へも進出している。

診断士には、「国際化診断・支援」に加え、「国際診断・支援」に関する技術を充実する ことが期待されている。

(6)新規創業などの診断・支援

戦後の経済成長を支えてきた創業者は高齢化し、一部の中小企業は円滑な事業継承がで きず、現在の代で廃業したいと考える経営者も少なくない。わが国経済が再び活気を取り 戻す一つの方策として期待されているのが「創業」である。しかし、創業を希望する者が 志半ばで挫折したり、創業後まもなく経営に行き詰まったりするケースは多い。

診断士はこのような創業希望者などに対し、創業セミナー、創業相談、事業可能性評価 などの診断・支援を行うことが期待されている。また、不幸にして所期の事業目標を達成 できなかった中小企業に対しては、セーフティネット施策を活用して再挑戦することを支援 するなどの役割が期待されている。

4.診断・支援の対象産業分野

診断士は、伝統的に商業および工業を主な対象業種としてきた。しかし、経済社会の進 展に伴い、サービス業が産業全体に占めるウェイトが大きくなっている。さらに、サービ ス業という独立した業種ではなく、商業や工業においてもサービスが新たな付加価値を生 み出す事業として重視されている。また、農林水産業の分野でも経済効率を求める動きが 広がっている。農業の生産性を高めるために健全な農業法人を育成する方針が『「食」と「農」 の再生プラン』としてとりまとめられている。農林水産業にも経営感覚の必要性を指摘す るものである。

このような対象産業分野の拡大に伴い、診断士には新しい業種・業態も含め、その特殊 性を客観的に理解し、健全な企業活動が継続できるよう診断・支援することが期待されて いる。

(1)建設業

わが国経済は安定成長に向かっているため、従来のように大きな建築需要が生まれるこ とは期待できない。このため、中小建築業者は大手建設会社からの仕事を期待できる状況 ではなくなっている。特に、公共投資関係予算の縮減や公共工事における競争環境の一層 の整備が行われている。

診断士には、地域社会における新たな建築需要の発見や、事業の多角化・転換、これら に関するマーケティングなどに関する診断・支援が求められている。

(2)工業(製造業)

アジア諸国が急速に力をつけており、量産できる製品の生産は国内から海外に移転しつ つある。このため、日本の高度成長を支えてきた中小製造業者には十分な仕事量が受けら れなくなっている。しかし、日本の中小企業者は世界に誇ることができる製造技術を保有 している。

診断士には、このような技術を育成し、活用する新たな産業分野の開拓や、個別技術を システムとして統合する中小製造業者の連携に関しても診断・支援が期待されている。

(3)商業(卸・小売業)

交通機関や道路の整備によって商業活動は大きく変化してきた。IT(情報技術)の進 展は商業活動に新たな局面を生み出そうとしており、21世紀は広域流通と地域流通が共存 できる条件が整うことが予想される。卸売業や小売業は旧来の系列取引や経済的規制で保 護された既得権などを主張しても、取引先や顧客の支持を得ることは難しくなりつつある。 また、わが国の少子高齢化はさらに進む傾向を示している。

診断士には、このような経済社会の変革に合わせた新たな流通システムの構築、および 個別企業の変事への診断・支援が期待されている。

(4)サービス業

全ての産業において付加価値の源泉として期待されているのが「サービス」である。サ ービス業という個別産業だけでなく、サービス業のノウハウを個別の企業活動に取り入れ ることは、どのような産業分野においても大きな課題である。サービスの分野は多岐にわ たっている。企業活動や個人生活の一部を専門家などにアウトソーシングする動きは活発 化しており、安定成長の経済下においても、サービス業はさらに発展する余地を残してい る。

診断士には、このような新たなサービス業の育成および新たなサービスの既存企業への 導入などについて、診断・支援することが期待されている。さらに、規制改革や行政改革 などによって、たとえば医療や産業廃棄物処理の分野にも経済効率性やサービスの充実に 立脚した経営が求められるようになり、医療法人や産業廃棄物処理業の診断・支援にも診 断士の活動分野が広がっている。

(5)農林漁業

農業基本法は新農業基本法である「食料・農業・農村基本法」に1999年に生まれ変わっ ている。制定の趣旨には「農業予算の重点を公共事業から農業経営の維持・改善に移す」 との表現がなされている。また、WTO(世界貿易機関)の協議が行われる都度、農林水 産物の輸入規制は緩和の方向にある。農業は家族経営が中心であるが、海外からの輸入農 産物や水産加工品との競合に打ち勝たなくてはならない。この分野では高い生産性と健全 な経営ができる農業・漁業法人の育成が今後の大きなテーマとなっている。

診断士には、このように農林漁業の分野についても診断・支援することが求められてい る。

(6)公営企業、非営利団体など

鉄道、バス、郵便、医療、福祉などの分野は経済社会に必要なインフラであるため、公 営企業が事業を行うケースが多い。特に安定的にサービスが供給されることが必要であり、 また、民間企業では事業化できない、あるいは不採算事業を扱ってきたのが公営企業であ る。その公常企業に対しても、収益性やサービスの改善が求められるようになっている。 「民営化」の言葉が今後の方向性を示しており、特に、PFI(Private Financial Initiative) や規制改革が推進されている。さらに、国や地方公共団体が自ら行う事務・事業について も、企業経営にならった効率やサービスの向上が要請されている。

また、まちづくりを行うTMO(Town Management Organization)や、地域の福祉、 文化活動などを行うNPO(Non−Profit Organization)の活動についても、その組織や運 営基盤の強化などが必要とされている。

診断士には、このような公営企業、地方公共団体などの要請にも応えていくことが期待 されている。

第2章診断・支援のあり方

1.診断の基本的プロセス

診断・支緩の実施に際しては、次のような基本的なプロセスを十分に理解することが必 要である。

(1)診断・支援ニーズの事前確認

診断・支援ニーズをヒアリングや文書で確認して、その妥当性を客観的かつ長期的観点 で検討し、必要に応じてその是正を求め、経営診断・支援の開始前に、企業のほか、マネ ジメントを必要とするあらゆる個人または団体など(以下、「経営体」という)の考え方と 診断士の考え方との一致を確認することが、診断・支援の成果をあげるうえでの基本であ る。

(2)定量的実績分析と定性的機能分析

経営分析は、過去の経営効率に関する定量的実績分析と、今日の重要な経営課題である 地球環境の保全、生態系の維持、人間の感性重視の考え方などに関する定性的機能分析と の両面から行い、特に経営体の果たしている定性的機能をできるだけ客観的に把握する。

(3)経営環境変化要因の分析・特定

経営環境変化要因の分析が偏ったものにならないよう、まず、経済系、自然・社会系、 人間系の3大要因別に分析する。次に、診断・支援を効率的に進めることができるよう、 その経営体に影響を与えている経営環境変化要因を特定する。

(4)経営資源の分析

経営体の経営資源を次の観点から広角的・総合的に分析する。

(5)経営課題などの抽出

経営体の抱える経営課題として問題点とともに、その経営体の強みについても抽出する。 この抽出にあたっては、企業経営に顕在化し、あるいは潜在化しているものを把握しなけ ればならない。これによって、経営改善・経営革新の提言目標を明確化させることができ る。

(6)経営改善・経営革新の提言

抽出した経営課題について、経営改善・経営革新の提言を行う。経営改善は、現在の事 業分野における経済合理性・効率性、倫理性などについて展開する。これに対して経営革 新は、新たな事業分野への進出などのハイ・リスクな事業変革への提言を行うこととなる。

経営改善・経営革新の提言に際しては専門・高度・広範な知識を有効に活用する。また、 提言が経営体の納得を得て実行しようとする意欲が沸き立つようにするためには、カウン セリングやコーチングなどの助言技術の活用も必要である。なお、特に経営診断・支援の 業際化に対応して、診断・支援に関する知識の業際化も必要であり、必要に応じて、他の 専門家などと連携して対応することも必要となる。

なお、医療、福祉、農林水産業、行政サービスなどの経営体において新たな経営に関す る診断・支援ニーズが拡大しつつある。これら分野への診断・支援技術の適用に際しては、 その分野の特殊性を十分踏まえて、必要に応じて、新たな診断・支援技術を加えたり、経 営分析技術の一部修正を行って対応することが必要である。

(7)将来の変動要因を踏まえたビジネスプランの作成

診断・支援は、経営体が今後どのように対応すべきかのビジネスプランを提言するもの でなければならない。このため、経営分析とともに、将来の変動要因のうち、起こる可能 性の高い要因を特定して、ビジネスプランの妥当性を確認する。

(8)全体整合性のある提言

提言内容は、部分最適ではなく、全体整合性のある(経営体全体を一貫してスムーズに 流れ、最大の効果をあげる)経営システムの提言でなければならない。特に診断・支援チ ームを組織し、連携して診断・支援を行った場合、その構成者間に提言内容の不整合など が発生しないよう調整しなければならない。

(9)実現可能な提言

診断士はあくまで助言・支援者であり、提言の実現は経営体にかかるものである。それ だけに、提言は経営体が実現可能と判断し、その実現への努力を続ける意欲を高めるよう な内容でなければならない。またこのため、提言が経営体に理解されるよう、工夫して説 明を行う。

(10)提言実現化の支援

診断士の役割は、企業の成長戦略などの提言を行うことで完了するのではなく、その診 断・支援の内容が効率的・効果的に実行に移され、着実に成果が得られるよう、助言する レベルのものであることが期待される。このため、診断士は、その中小企業者が利用する ことができる金融、税制、補助金、技術支援などの各種中小企業施策を示し、その利用方 法を具体的に明示して診断・支援することが必要である。

2.診断・支援の基本的姿勢

診断士は、経営体に診断・支援を行うにあたり、次のような基本的姿勢で対応するもの とする。

(1)診断・支援の契約

経営診断・支援を依頼する経営体とその目的、手法、提言提出期限、報酬額など必要な 事項を契約により合意して実施する。

(2)助言者・支援者であることの自覚

診断・支援にあたり、あくまでも経営体に対する助言者または支援者であることを自覚 し、経営体に対してそのことを説明して、その了承を得ておかなければならない。

(3)全人格的対応

診断・支援は、経営体の将来を大きく左右するほどの影響を伴うことが多い。したがっ て、診断・支援の受託者として、経営課題の解決のために全人格的に対応しなければなら ない。

(4)経営倫理の遵守

経営体に経営倫理を逸脱するような助言を行ったり、または経営体からその逸脱行為を 黙認するよう求められた場合、それを容認するような行為を行ってはならない。

(5)科学的合理性による判断

診断・支援にあたり直感的判断や感情的判断、あるいは偏向した特異な見解を排除し、 できる限り科学的に資料を整備し、合理性のある判断力で対応しなければならない。

(6)知的連携・協同による対応

診断士は、診断・支援にあたり診断士自らが知識の集積を図るとともに、診断・支援ニーズ の高度化・広範囲化などに対して、各種専門的知識を持つ者と連携・協同して対応す ることが必要である。また、必要に応じて専門家や専門指導機関の紹介を行う。

(7)診断・支援の成果責任

診断提言の実施主体は経営体であるが、提言の内容は、経営体に経営成果をもたらすも のでなければならない。このため、診断・支援報酬のコストパフォーマンスについて、責 任を強く意識しなければならない。

(8)守秘義務

診断・支援を成果あるものとするためには、経営体によるその実態の開示が不可欠であ る。このため、診断士自身がその開示された内容について守秘義務を果たすことが必要で ある。

(9)診断・支援ニーズの特殊・個別性の認識

診断・支援ニーズは、経営体の置かれた状況により異なるものであり、同一パターンの ものは希有との認識に立ち、常に新たな診断・支援技術で対応する心構えを持つべきであ る。

(10)診断・支援技術の継続的学習

診断・支援知識の陳腐化が著しい。このため、診断士自身が知的枯渇に陥らないよう、 最新の経営に関する知識および診断・支援技術に関して、継続的な学習に努めなければな らない。

第3章中小企業診断士に必要とされる知識・能力

診断士は、単に民間の経営コンサルタントとして活動を行うだけではなく、都道府県等 中小企業支援センターなどの3類型の支援センターや、商工会議所や商工会、中央会など の中小企業支援機関における支援者として活動している。また、活動の分野も多岐にわた りつつある。このため、経営コンサルタントのスキルだけでなく、中小企業施策を理解し て中小企業の支援を行うことを求められている。このような社会的役割を診断士が果たし ていくために必要な知識・能力として「中小企業政策審議会ソフトな経営資源に関する小 委員会報告書」は、次の5つにまとめて指摘している。

  1. 中小企業経営全般に関する幅広い知識
  2. 創業・経営革新の促進に即した知識
  3. 民間経営コンサルタントとしての基本能力
  4. コーチング・カウンセリング能力
  5. 中小企業施策の普及

以下、それぞれについて具体的な知識・能力を説明する。

1.中小企業経営全服に関する幅広い知識

中小企業の支援を行う場合、企業経営管理をひととおり知っていることは大前提である。 その上で、企業が活動している経営環境を正確に理解するとともに、それがどのように変 化するかを経営者に知らせなくてはならない。診断士には常に世の中の動きを敏感にとら え、できる限り正確な将来予測を行う能力が必要となる。 診断士が必要とする主な知識は、次のとおりである。

  1. 政治経済動向の最新知識
  2. 経済学および経済政策の知識
  3. 社会動向の最新知識
  4. 社会学および社会心理に関する知識
  5. 経営に関する法務および最新の法制知識
  6. 企業経営に関する全般知識
  7. IT(情報技術)の応用知識
  8. 対象業界に関する基本知識
  9. 対象地域に関する基本知識
  10. 国際情勢および輸出入・投資に関する知識

2.創業・経営革新の促進に即した知識

診断士にはこれからの日本経済を牽引する事業者を育成することが期待されている。既 存の企業に村して「経営革新」を勧め、新しく業を起こす「創業」を支援することが求め られている。創業・経営革新では経営に対して新しい視点が必要である。独創的な技術な どを用いて事業目標を明確にし、それを事業化するために各種経営資源の調達・活用など に関する事業計画を策定することが必要である。すなわち、創造的な発想と論理的展開力 が求められる。さらに、経営革新や創業を目指している中小企業者とともに創業・経営革 新を行うための実務能力も必要である。

創業・経営革新を診断・支援するために必要な主な知識およびスキルは、次のとおりで ある。

  1. 旧来の行動にとらわれない創造的な発想
  2. 企業行動に結びつけるための論理的展開力
  3. 知的財産の活用および保全に関する知識
  4. 新たなビジネスモデルの構築
  5. 許認可関連の知識
  6. 資金調達の知識および実務
  7. 事業計画の評価
  8. 実行可能な経営革新計画の策定および事業推進

3.民間経営コンサルタントとしての基本能力

診断士は中小企業施策の展開に参画して協力する前に、民間経営コンサルタントとして の技量を身につけていなければならない。診断士が請け負う仕事およびそこに要求される 主な能力は、次のとおりである。

  1. 講演(分かりやすい話術)
  2. 調査研究(調査技法および集計分析)
  3. 分析・提案(問題解決手法およぴ図表の活用)
  4. 論文・書籍執筆(分かりやすい文章表現および論理性)
  5. 教育研修(教育プログラムの作成および教育技術)
  6. プレゼンテーション(ツールの活用)
  7. 経営相談(即時の課題発見および解決能力)
  8. 経営分析(財務診断、経営診断・支援技術および判断能力)
  9. 経営(事業)計画策定(予想損益および資金繰りシミュレーション)
  10. 経営課題解決(問題解決技法および創造的ヒラメキ)
  11. 業務支援(経営企画、財務管理、マーチャンダイジングなどのアウトソーシング)
  12. 経営顧問(経営者以上の判断力)
  13. ビジネスマッチング(関連企業のネットワーク化)
  14. 効率的業務推進(パソコンなどIT関連機器の活用)

4.コーチング・カウンセリング能力

診断士は経営者や従業員にやる気をおこさせ、将来にわたってより多く利益が得られる 体質に中小企業を変革する役割を負っている。そこで必要になるのがコーチングとカウン セリングである。経営者や管理者の心の負担を軽減し、やる気を起こさせるのがカウンセ リングである。一方、強制的ではなく、深層心理的アプローチで「できる自信」を「気づ かせる」、ソフトでスマートな手法がコーチングである。特にコーチングの技術を診断に活 用するのが「コンサルティング・コーチング」であり、示された経営計画を企業が自分で 実行するための支援方法である。診断士はコーチングおよびカウンセリングを多くの場合、 同時に行っている。

コーチングおよびカウンセリングに必要とされる主な技術は、次のとおりである。

  1. 相手の話を開く技術
  2. 議題に沿って協議する技術
  3. 話の内容を整理する技術
  4. 相手の人的能力を発見する技術
  5. 相手に対して自己暗示をさせる技術
  6. 相手にやる気を起こさせるモチベーション技術

5.中小企業施策および中小企業関連法律

診断士が一般の経営コンサルタントと区別される大きな要因がこの項目である。 中小企業施策を理解して、中小企業者に利用を促すことが使命の一つでもある。 健全な中小企業を支援・育成するためには施策だけでは不十分である。 財務や会計さらには人事労務など、 社会のルールに基づいて経営活動を行うように診断・支援しなければならない。 このため診断士には中小企業施策の活用知識およぴ中小企業関連法律の知識が必要であり、 その種類は多い。

診断士が理解すべき主な施策と法律は、次のとおりである。

  1. 理解すべき中小企業施策
    1. 経営相談に利用できる施策
    2. 調査研究に利用できる施策
    3. 創業時に利用できる施策
    4. 経営革新に利用できる施策
    5. IT(情報技術)活用に利用できる施策
    6. 国際化に際して利用できる施策
    7. 各種特別法に基づく施策
    8. 倒産防止、再生などに利用できる施策(セーフティネット施策)
    9. 中小企業支援関連機関の利用方法
  2. 理解すべき法律
    1. 取引・企業活動に関する法律
    2. 財務・合計に関する法律
    3. 労働・安全衛生に関する法律
    4. 知的財産権に関する法律
    5. 会社設立、倒産などに関する法律

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MARUYAMA Satosi