グロービスの本

作成日:2002-08-31
最終更新日:

MBA の教科書として名高いグロービスの本を読んでみました。なお、MBA シリーズについては、 グロービスのWeb サイト (www.globis.co.jp) から探すことができます。

MBA 経営戦略

私にはこむずかしいことはわからない。 だから、事例があればその事例を通していいたいことをいうまでである。

序章

最初は三和銀行の首都圏戦略である。 確かに、三和銀行の現金自動預け払い機(ATM)は多かった。 私が結婚して埼玉県の小さな駅の近くに居を構えたとき、 一番近い場所にあったのが三和銀行だった。 たまたま給料の振込先も三和銀行だったが (これはどうしてそうしたのかよく覚えていない、 会社の指定だったのかもしれないが、自分で選んだ結果かもしれない)、 結果として便利だった。 私ががっぽり給料を三和銀行に置いたからきっと三和銀行が成功したのだろう。

一方三和銀行の悪いところもあったが、これは私もつれあいも忘れてしまった。

さて、この事例が出てきたところで、 戦略の視点と本質、戦略の階層と構成要素を経て、 経営理念、ビジョンと戦略の関係となる。ここで、経営理念の説明として、 家訓を含めて紹介されている。

住友グループの家訓「浮利を追わず」

松下電器産業の経営理念「産業人たる本分に撤し、社会生活の改善と向上を図り、 世界文化の進展に寄与せんと期す」

とはいえ、住友グループが本当に「浮利を追わず」でやってきたのか。 住友不動産がバブル期に地上げに狂奔したのは浮利ではないのか。わたしにはよくわからない。 住友銀行(当時)に勤めていた私の知人が語ったところによれば、「若いときから仕事漬けで、 私だけでなく同僚は皆本屋で本を買っていない。なぜなら、 平日・休日問わず本屋が開いている時間帯には仕事で忙しく、本屋に行けないからだ」 といっていた。この知人が学生だったとき、 私に企業人の滅私奉公ぶりを嘆いていたのだが、そのような知人でさえ仕事に飲み込まれてしまう。 企業の力の大きさには驚く。

松下電器産業にはいいイメージをもっている。まず、製品がこわれない。 私の中ではイメージだけが先行するソニーよりよほどいい。 私は学生時代、相棒と実験漬けの生活を送って卒業したが、その相棒が松下電器産業に勤めていて、 まさにこの経営理念通りの生活を送っている。これが大きいのだろう。

そして、経営理念の一形態として行動規範や事業における指向の鍵が述べられている。

第1章

ソニーの例である。ソニーはいろいろなところで語られているから私がいうことはない。 私が知っているソニーの方はどういうわけか遊び人が多い。それが自由闊達ということなのか、 よくは知らない。

ソニーはプルデンシャルと組んで生命保険会社を設立した。これは成功例だとされている。 その後プルデンシャルが分離したあとソニー生命として現在にいたっている。 ソニー生命は今いろいろ取りざたされているが、保険相談人(というのだろうか)に 女性ではなくて男性を起用したのはなかなかいいところに目を付けていると思う。

そのあと、コア・コンピタンスの話が出てくる。そこではヒューレット・パッカード、 コンパックの例が出てくる。両会社は優良企業と取り上げられたのだが、 今は両者が合併し、市場の評価はよくない。この本の序文にある通り、 「このように終わりのない戦いだという点が、ビジネスの不思議な面白さなのである。」

第2章

キヤノンの例である。私は学生時代の夏休み、キヤノンに3週間通って、研修をしていた。 今でいうインターンシップである。 このとき私がした仕事は半導体製造装置のステッパーに関する資料整理だった。 カメラメーカーと思い込んでいた私には、こんなこともやっているのかという驚きがあった。

キヤノンでもう一つ驚きなのは、特許の量の多さである。 これは私が社会人になってから感じたのであるが、半端ではない。 どこにそんな特許を活かしているのかと疑問に思うほどだ。でも、商品の地味さに比べて、 したたかに商売をしているという印象はある。ちなみに、私の家にあるキヤノン製品は、 インクジェットプリンタだけである。

この本では、事例の結びにこうある。「他のカメラメーカーの多角化を見ると、(中略) 彼らが内視鏡や顕微鏡などのニッチ市場に集中して漸進的な進化を遂げ(中略) キヤノンの売上げ構成はすばやく大胆な変化を遂げたのである」 ニッチ市場に集中した企業もいいものだと思う。内視鏡ではオリンパスが有名だ。 ニッチへの食い込みがなければ吉村昭の「光る壁画」は生まれなかったろう。

【外食産業における戦略展開】として、 ファーストフード店でマクドナルドとモスの例が挙げられている。 そして、ファミリーレストランでは、すかいらーくの例が挙げられている。 ここでの結論は、 外食産業は新しいコンセプトの店舗チェーンを生み出さなくてはならないとしている。

確かに、「すかいらーく」という名前のレストランはほとんど見ない。 家の近くにあるのは「ガスト」であり、また最近できたのは「グラッチェ・ガーデンズ」である (ここは以前はスカイラーク・ガーデンズだった)。 もう純粋な「すかいらーく」はないのかと思うと悲しい。というのは、 「ガスト」にせよ、「グラッチェ・ガーデンズ」にせよ、 飲み物を自分で運んでこなければならないからである。 そして、つれあいと二人でこれらの店に行くとき、飲み物を持ってくるのは私の役目になっていて、 落ち着いて席につけないのだ。私はいつもうっかり何かやらかすから、 ホットコーヒーを運ぶと「砂糖がない、クリームがない」とつれあいから文句を言われ、 アイスコーヒーを持って行くと「氷がない、ストローがない、シロップがない、クリームがない」 とつれあいに叱られるのだ。もちろん、わたしは笑っているが、心では泣いている。

さて、業界内での企業の地位(ポジション)として、お待ちかねの4分類がある。

  1. リーダー
  2. チャレンジャー
  3. フォロワー
  4. ニッチャー

ファーストフード、ファミリーレストランでそれぞれ日本にあてはめるとどうか、 という議論がなされている。そして、最後に類型化は諸刃の剣であり、 そのときどきの市場での地位を勘案してふさわしい戦略かどうかを検討すべきと述べている。 それができれば苦労がないのです。

締めくくりに、マクドナルドの100円バーガーはすぐには成功に結びつかなかった、とある。 しかしその後、100円バーガーのおかげでマクドナルドは売上を伸ばしたのは事実である。 65 円バーガーもあたった。よくわからないものである。

後記:この低価格戦略が重荷となり、日本マクドナルドも赤字になるのだ。 もう一度言う。よくわからないものである。(2004-05-21)

次にM&A、アライアンスの戦略として、 ブリヂストンの例が出ている。これは省略する。

第3章 [実践]戦略的経営

【外資系企業アルテックの日本参入戦略】(これはおそらくフィクション)として、 事例が述べられている。ゼネラル・マネージャーに求められるスキル、おこなうべき戦略計画、 経営実現への必要条件、とある。

この事例では、日本的な仕事をする日本の営業部長が辞表を提出したことになっている。 理由は、本部との方針がこの営業部長の方針と相違していたからであった。 代わりにアルテック日本法人社長が 営業部長を兼務することになった。この結びは「ゼネラル・マネージャーの素養があれば、 業界に詳しいだけの人材に比べてはるかに効果的に混乱を収集できるのである」となっている。 これを聞いて、ひところ流行った話を思い出した。 首切りされた中高年が、求職者となって自分を売り込みに行く。 求人企業から「何ができますか」といわれ、 求職者は答える「部長ならできます」。

【キリンビールの企業変革】では、アサヒビールとの対比で業務改革に取り組むキリンビールの 姿が描かれている。理論ではマッキンゼーの「7つのS」が提示され、これに従って キリンの(当時の)問題点が浮き彫りにされる。ビールについては私はどこのでも飲むだけでいい。 ゆえにこれで終わる。

【日本企業の経営成果とグローバル・スタンダード経営】では、戦略と財務の観点で、 フィクションが進む。そして、財務の観点として、ROE、ROA、EVA、IRR、CFROIが述べられている。 財務も私はまだまだ勉強しなければいけない立場だ。これ以上は何も言えない。

だんだん書く筆が鈍くなった。これでおしまい。

付録

「競争のメカニズムを解明する」とあって、ホンダが出てくる。 ホンダはソニーと並んで日本のベンチャーの草分けという印象がある。 この本のホンダの紹介を見ると、けっこう技術トラブルが起きていたことがわかる。 本田宗一郎氏の逸話の中に、「作る側にとっては百万分の一の不良品かもしれないが、 お客さまにとっては1個の不良品なんだ、このバカタレ」(脚色あり)と社員を叱ったというのがある。 このように本田氏がいうのは、不良品に悩まされたからこそなのかもしれない。

余談だが、私は自動車メーカそのものが嫌いである。重ねてホンダが嫌いな理由には 「自分の名前を会社名につけた」という事実である。もっとも、これは本田氏自身が後になって 悔やんだというから許せる。トヨタはもっと横暴で、 会社名どころか市(町)の名前を変えるのだから呆れてしまう。 豊田市は、昔、挙母町という名前だった。 マツダも、せっかく東洋工業という威勢のいい名前から、 当時の社長の名前に変更したのはおかしいと思う。

余談はさておき、よくわからないのは本田氏が空冷エンジンに執着したことである。 空冷エンジンは時代遅れだったというが、なぜ時代遅れだったのだろう。 性能がよくなかったということなのだろうか。 そういえば、最近はパソコンに水冷 CPU が導入されつつあると聞いている。

MBA マーケティング

自動車業界に関する議論が進んで行く。 まず示されるのはマーケット・ライフサイクルの定義である。 驚いたのは、1990年の地域ごとの生産台数である。 西欧で1550万台、日本で1350万台、北米で1150万台である。 なぜこんなに狭い日本で北米より多くの車を作るのか。 輸出が多いのかもしれないが、がっかりしてしまう。

しかも、自動車のライフサイクルは通常の商品のライフサイクルとは違うようだ。 ふつう商品のライフサイクル論によれば、 成長期の後で安定期、さらに衰退期に入り、衰退期では売れ行きは落ちるとされる。 ところが、自動車のライフサイクルは衰退期がない。 セグメントを細かく分ければセグメント内での衰退期はあるが、 購買層が別のセグメントに移ってしまう(退出はしない)。 だから全体としては自動車の売れ行きは伸び続ける。 このような議論を知って、私はがっかりした。なぜかというと、 自動車が嫌いだからだ。嫌いな理由は、 別のページに書いている。

マーケティングセグメンテーションについても言及されている。 私は自動車が嫌いだからクダクダ言うことはしない。しかし、一つだけ書いておく。

ゼネラル・モーターズの系列に、サンタナという車種があった。車体は2種類のみ(後に増えたかも)、 値引きには一切応じない、セールスマンどうしを相互に信頼し合う、そんな売り方をした車だった。 しかし、この車は日本では数年持たずに消えてしまった。 売れなかったからである。私は、値引きなしという割り切りに興味を持ったのだが、 日本人には売れなかったところを見ると、世の日本人は交渉ごとを嬉々としてやっているのだろうか。

理論では、プロダクト・ポートフォリオチャートの書き方が示されている。 留意点として、シェアの定義(市場をどのセグメントで捉えるか、 売上高か数量かなど)を明確にする必要がある。 なお、この本では2次元座標に点ではなく大きさをもった円を用いている。 円の面積が売上高に比例するように書き方を工夫している。

日本マーケットシェア事典による事業ポートフォリオは美しい。 しかし、この図から読み取りがきちんとできる経営者は何人いるのだろうか。

そのあとで、経験曲線が図示されている。経験曲線とは、次の仮説を検証するために 描かれるグラフである。その仮説とは、 ある製品の生産を継続すると経験が積まれ、生産性が向上するためコストが低下する、 というものである。 両対数グラフに描かれたこれらの経験曲線は、おもしろいことに直線上に載っている。 「ゾウの時間、ネズミの時間」における両対数グラフの活躍を思い出させる。

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MARUYAMA Satosi