現在の景気動向について


               東洋経済新報社論説委員長 福間政明氏

はじめに
景気そのものは一時の「日本発世界恐慌」と言われた頃に比べると若干の明るさを見せてきた。当時は、山一証券や北海道拓殖銀行などが相次いでつぶれるといった歴史上大変なことが起きた。
今、表面的にはこれらの問題は沈静化したように見えるが、実は、基本的問題は全然変わっていない。これが改めて出たのが先日の「そごう問題」だ。
97年、98年はマイナス成長だったが、デフレスパイラルが背景にあった。そこで金融システムの安定化とか、経済対策とか、中小企業に対する特別金融保証とかで100兆円以上の資金を用意した。そのつながりの中で、最近では技術改革と言われるようになってきて、99年度は0.5%のプラス成長、つまり景気はより上向く方向あるんじゃないかと見られている。 これにはいろいろ複雑な要因が絡んでいるが、外需、輸出が非常に好調だという側面がある。それから、もう一つはIT化、情報革命の進展が設備投資などに繋がってきている。
しかし、アメリカは本当に大丈夫なのか、という問題がある。つまり、単に日本の構造だけではなくて、アメリカと日本、あるいはアメリカとヨーロッパ、日本とヨーロッパも含めて資金の流れがどう結びついているのかということを理解しなければいけない。

日本経済の今日的問題
日本経済にとって何が異常かというと、まず財政赤字が異常である。そして、解除はされたがゼロ金利、それから先進国の中で最もデフレ傾向にあるのが日本だ。さらに、倒産が高水準になってきているし、失業率も実態的失業率は10%ぐらいあるんじゃないか。ましてや不良債権にいたっては、その処理はだいたい半分を超えたぐらいだ。
日本経済の状況を把握する構造的問題の第一は、バブルが崩壊した後遺症がどれ位いすさまじかったのか、ということだ。これは必ずデフレ作用として経済の収縮活動に繋がってくる。二番目は、バブル発生以前から抱えていた二重構造の問題。三番目には、グローバル化、それからIT化。いずれも市場原理が促進される作用を起こす。 さらに大きな産業構造の変化は、サービス経済化。サービス産業のウエイトが非常に高くなってきている。つまりバブル崩壊とIT化とサービス経済化が一緒くたになって今の日本の経済構造を揺さぶっている。この影響は絶大だ。 それに対して、経済対策はうまく時代の流れに沿うように物事が運んでいない。それが財政赤字の根本的問題であろうし、景気が浮き上がらない原因に繋がっているだろう。

IT革命が需要を喚起している
需要の増大を引っ張ったのがIT関連と言える。ITを生み出すプロジューサーとも言える電機とか精密とか通信が自らの設備投資を増やしていった。最近では一般の製造業とか卸小売とか金融とか保険とかのIT関連への投資が行われるようになってきた。また部品とか素材関連の非鉄とかにも波及拡大してきた。こういう中で需要が増大し、最近では企業の業績の増額修正が増えてきた。しかし、消費全体を見るとなかなか増えない。これは所得・雇用環境の改善が微々たるもので新しい展望が開けてこないと解釈できる。
IT革命の問題は電機・通信などITを生み出していく産業と、それを使って経営の効率化に結びつけるという、既存の産業が取り入れて生産性を向上させるという意味でどれほど広がってくるかということが、大きな決め手になってくる。しかし、市場経済化をより促進する代わりに陶太、企業間格差というものを広げることにも繋がってくる。プラス・マイナスを秘めて進行している。

不良債権の未処理がデフレ圧力となる
次に不良債権処理についてだが、帳簿から切り離されてようやく最終的処理が終わったと考えて良い。今まで、92年から99年度まで136行が最終処理した分は42兆円、元本を想定すると52兆円だ。この52兆円というのは約6割が済んだということだ。まだ残っているもの、つまり帳簿から離されていないものが31兆円ある。民間企業の株や土地や在庫などの不良資産を特損で落としたとすると幾らくらいあるかというと、90年代にはいってから30兆円以上あるだろうと見られているから全部合わせると90兆円、しかし、これでもまだ全体ではない。
99年に5.6社のゼネコンが債権放棄を受けた。しかし、またさらに資金繰りに苦しんで資金融資を行っているというケースが多い。 さらに「そごう」の問題も中小金融機関がその被害を被る可能性がでてきている。またダイエーの再建がどうなるかとか、西友は大丈夫なのかとか、商社は大丈夫なのかとか、日本経済のかなりのウェイトを占めている大企業そのものにも問題が残っている。それが一つ一つ整理されていくということが、大変なデフレ圧力になるだろう。

国際的資金の流れがポイントだ
今の世界の経済は異様だ。アメリカが今5%成長という。しかし、経常収支赤字はすさまじい勢いで膨らんでいる。これで本当にソフトランディングできるのか。株が下がらないで、しかも成長率も2〜3%で徐々にというかたちでコントロールできるのか。今までは、ほとんど市場の読みに従って動いているだけだ。アメリカが本当に軟着陸に成功するかどうか、一般的にはうまくいくだろうという観測が強い。確かに3年も4年も前から、アメリカはうまくいくんだろうかと言われていながら、これまで持ってきているわけだから、来年も再来年も持つだろう、いうことも言えるし、もうそろそろということも言える。つまり非常に分かりにくい。何か異変が起きるときには、ドルと株にくるだろうと言うことは言える。今、ユーロが安くなっているが、国際的な資金の流れが激しく揺れ動いている。99年にアメリカに入った金というのは7100億ドル。つまり経常収支に倍する金が入り、また世界にばらまかれている。それが日本に来たり、ヨーロッパに行ったりという形だ。このうち4000幾らかがヨーロッパから入っている。つまり、ヨーロッパはアメリカの株を中心に買っている。ヨーロッパはアメリカの大株主になってきているといえる。資金がそういうふうに流れたから、ユーロは安くなるという状況だ。
では日本に対してはどうか。なんと99年に9兆円の金が入ってきた株に投資された。最終的にはネットバブルでソフトバンクや光通信が大バケするというミニバブルが起きた。バブル崩壊以後の株価の状況は、外国人投資家の流入だ。国際的な資金の流れをちゃんと見ていないと為替も金利も株価も分からないということになってくる。


戻る