「新世紀のベンチャービジネスを考える」

講師:浜田義史(元アイキューブネット社長)

  第17回勉強会は、2000年の第1回勉強会として「新世紀のベンチャービジネスを考える」をテーマに、講師に元アスキー常務、元アイキューブネット社長浜田義史氏を講師に迎え、1月29日に会員・非会員をあわせ30人以上が参加し盛況のうちに開催された

1. 浜田氏のベンチャー歴

浜田氏は1947年生まれで学生時代には学生運動に身を投じ、これまでに少年時代の「大病」、学生時代の逮捕=「投獄」、そしてアイキューブネット社の「倒産」と人生の「辛酸」を一通り経験している。
大学を卒業後、1972年に長兄の創業したアスターインターナショナル社に参画。
同社は、リースバック商品の再販を主に手がけ、その関係から商品として人気のあったコンピューターの端末機器との縁も生じた。
また、端末機器の仕入れや状況の視察のためにたびたび訪米し、その間に、現在マイクロコンピューター関連の業界で活躍する多くの人たちと知り合うこととなった。
しかし4年後には長兄との意見の対立が生じ、同社を退社し、入社までには若干の曲折がありあまり歓迎されない形であったが、アスキー出版に入社した。子会社アスキーコンシューマープロダクツ社の責任者として、当時親会社の10分の1程度の売上だった会社を親会社のアスキー出版を上回る売上高の会社に成長させた。
そして親会社と合併してできた、アスキー社の営業の責任者として活躍し、同社株式の店頭公開実現の原動力となった。
その後、西氏との間に「アスキーのお家騒動」と報道された確執を生じ、郡司氏、塚本氏と前後して、同社を退社することとなった。

2. アイキューブネット社の設立と挫折

アスキー社を追われるように退社した後、浜田氏は今までの会社と同じ仕事をすることは潔しとしないが、知っているビジネス分野の仕事に取り組みたいと考えていた。
そこに友人の計画していた、インターネットを利用して国際ファックスを安価に送信するという新事業への参画を要請された。しかしPC(パソコン)環境での事業立ち上げではビジネスとして成立しないと判断し、さらに「ひとひねり」を加え事業を立ち上げることとした。
その「ひとひねり」とは、PC世界と非PC世界のインターフェイスを取り持つことで、事業の対象を20%のPCを使いこなす人ではなく、残りの80%の人にPC環境を意識せず(パソコンを使わず)にその便利さを利用してもらうことに置いた。つまりインターネットを利用してファックスを送りながら、利用者の意識としては、従来のファックスをより安価に使っている状態にすることである。
そしてこの事業を立ち上げ軌道に乗せるための弱点として「胡散臭さ」=知名度の不足がぬぐえないので、アスキー入社にさいし奇縁のあった京セラの稲盛会長に発起人として参画してもらうことで補うこととした。
またこの事業が宣伝広告ではなく、パブリシティとして報道されるよう働きかけを行った。そしてこの事業の必要資金の15億円を4億円の資本金と11億円の借り入れで調達しスタートした。営業の対象を上場・店頭公開企業のうち各ジャンルの上位5社(全部で320社)に絞った営業活動は、システム開発の6ヶ月程度の遅れはありながらも順調に推移していた。
ところがそこに大きな落とし穴が待ち受けていた。
それは、BIS規制の実施に伴う金融機関の融資規制の強化と融資金の凍結そして引揚げであった。そのため資金繰りに行き詰まり倒産のやむなきにいたった。 この挫折の原因を考えてみると、追われるように去らざるを得なかったアスキーへの意識が強すぎ、自分自身の野心=スケベ心で「アスキーより速く株式公開を実現したい」、「アスキーの株価より高株価を実現したい」と考え、そのため資本金で15億円を集めることも可能だったにもかかわらず、11億円の調達を借入金に頼ったためつまずいたことである。

3. 浜田氏のベンチャービジネス観・企業観  

このような経験を踏まえ、今、ベンチャービジネス、あるいは企業とはどうあるべきかを考えると、まず
@金をかけてやるビジネスは絶対にうまくいかないということである。設備産業はいざ知らず、サービス業、物作りの仕事では、
A社会的なニーズのあるビジネスをはじめるのにお金はかからないということである。ニーズがないところにお金を投下することにより無理やり人為的にニーズを作り出しているケースが数多く見られる。数十億円の広告宣伝費を使ってモノを売るようなケースもある。
Bさらに、本当のニーズとは何かと考えると、それは社会に求められている仕事、社会に受け入れられる仕事、社会に貢献する仕事であると思う。陽が当たっているのに、あるいは陽が当たらなければいけないのに人が集まらないビジネスとは何かを考え、それに取り組むことがベンチャーの基本ではないか。
本当のニーズとは何かを考えそこに取り組むことが、社会にベンチャービジネスの成果を還元することである。
ベンチャーとは単に挑戦するということだけではなくニーズがあるのに応えられていない部分に取り組むことだと思う。

4. 21世紀のベンチャー

そこで現在のベンチャービジネスといわれるものの状況を見ると極めて批判的にならざるを得ない。今、通信業界でベンチャービジネスに取り組もうとしている人達の考えるベンチャーをやる意味は、次の2つに尽きるといっても過言ではない。
@インターネット、情報通信といった言葉をちりばめた事業計画を作成し、実態はかけ離れたものでも期待値を高める。
Aそして如何に株式の公開にこぎつけ株価を吊り上げて売り抜けるかというきわめて作為的、詐欺的な考えの人達がいるということである。
ベンチャーに必要なことは真のニーズに応えることで、バブルを煽ることではない。 先に述べた浜田氏のベンチャービジネス観・企業観から考えたとき、今一番興味のある分野とは、日本でいえば「国」である。日本の最大の問題は、日本人の1人あたりGDPは世界2位であるにもかかわらず、生活レベルでは37位というこの大きなギャップである。
その中でも最大の問題は、「ウサギ小屋」といわれる日本の住宅事情を考えたとき土地政策について考えること、「土地の再定義」にかかわるビジネス=土地と住宅にかかわるビジネス、ここに大きなチャンスが存在するのではないかと考えている。
日本にはベンチャーに取り組む風土、チャンスはいくらでもある。
日本に存在する各種の規制をいかにクリアするかということ、単にゴールを示すのではなくそこへ至る手法を考えることがベンチャービジネスであり、その手法に「ひとひねり」をくわえることがベンチャービジネスに取り組むということだと思う。
また日本の未来は決して暗く考えることはない。日本は、情報通信の分野ではアメリカに3年位遅れているが、追いつき追い越すことは十分可能と考えている。アメリカの優位とはPC環境での優位=20%の中での優位であり、次世代の非PC環境(携帯電話のiモード等)=80%の世界では、日本の技術がグローバルスタンダートなる可能性が高いことも述べておきたい。
                        「猪ニュースレター」第27号より

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