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3.3 スマル・プグリンガンの曲の構成

1999.10.3.初稿
2000.5.28.追加
2006.8.9.文言の修正など

1)ニョマン・ウェンテン氏による分け方
"Gamelan Semar Pagulingan:Court Music in Transition",1992
ガンブーと同様に、5つの部分に分けられるのが普通としている。
1)グギヌマン(Gegineman)…軽いイントロ。トロンポンのみ、トロンポンとスリン、トロンポンとスリンとルバーブ、あるいはまたグンデル、スリンとルバーブといった組合せで演奏される。
2)プンガウィ(Pangawit)(プングンカッPangunkabとも)トロンポンあるいはグンデルで演奏される、前置きのテーマ。
3)プンガワ(Pangawak) 曲の中心モティーフまたは曲の主要部。全合奏。
4)プゲチェ(Pangecet) 熱狂的なフィナーレ。そこではモティーフは速いテンポと、(プンガワに比べて)より短いゴングの周期のなかで展開する。
5)プカード(Pakaad) 曲の結末。
氏の別の文献(CDの解説書である"Gamelan Semar Pegulingan Saih Pitu : The Heavenly Orchestra of Bali")において、6つの部分に分けている。
ここでは、上記3)と4)の間に「プンギボ(Pengiba)」(プンガワの変奏)を加えている。

2) コリン・マクフィーの分け方
("Music in Bali",1966)
基本的にはガンブーと同じ構造を持つ、としている。つまり
1)プンガワ(pengawak)
2)プゲチェ(pengecet)
の二部構造である。また、曲の前にはギノマン(gineman)を付けるのが普通であるとする。(→3.2 ガンブーの項参照
曲の頭にプニュムpenyumu*がついているのも付録で紹介している。
*penyumu→sumu→semu==現れる、のバリ語。「登場(楽)」の意か?
イレギュラーな構造のガンブー曲が、スマル・プグリンガンにおいては、きれいなタブ・トゥル(tabuh telu)形式に整えられた例も紹介している。pp.142 Pengecet Bramara

3)パンデ・マデ・スクルタの分け方 ("Gending-gending semar pegulingan saih pitu",1977)
これはサイ・ピトゥの譜例集なので特に構造について説明されているわけではないが、曲の構成は共通して以下の通りになっている。
1)カウィタン(Kawitan →kawit;始まり、の意。) → ウェンテン氏の2)pengawitと同義)
2)プマルパル(Pemalpal→malpal;戦う、戦いに入る、の意。)
3)プンガワ(Pengawak)
4)プゲチェ(Pengecet)
2)を持たない曲もある。

4)ワヤン・ライ氏による分け方
("Balinese Gamelan Semar Pagulingan Saih Pitu",1996)
1999.10.時点で唯一サイ・ピトゥの英語論文を書いたワヤン・ライ(Wayan Rai)氏は、曲の構造については言及していない。
しかし個々の曲の分析においては微細に区分している。
例えば、「バパン・スリシール」(gending bapang selisir)は彼の分析によると次のようになる。
プングラングラン→カウィタン(Kawitan)→グガンチャンガン(Gegancangan)→プンガワ→グガンチャンガン→プニュウッ(Penyuwud)
曲の分類法については詳細に記述している。

5) では、どれが正しいのか?(すべて正しいのか)
ここまでで共通する構造は
1)前奏、導入(名前はいろいろある。また2部分以上になったりもする。)を持つこと。
2)テンポのゆっくりした、曲の本体プンガワを持っていること。
3)本体よりもテンポの速くなった、フィナーレであるプゲチェを持っていること。
である。これらをさらに細かく分析していろいろな名前を付けたりしているようだ。
違う村、違うスタイルであれば、勿論呼び名も異なるであろうから、スタンダードを勝手に決めるわけには行かないが、上記の1,2,3(順序や組み合わせは何通りかあるだろうが)で曲が成り立っていると見てよい。
(かなり筆者の演奏経験も反映した考え。)

6)補足【2000.5.28.追加】
上記5)のバリエーションとして、
1)早い部分
2)ゆっくりした部分(プンガワ)
3)早い部分
というものがある。ガンブーから移植された曲によく見られる。
曲名を挙げるとレンケール(Lengker),ゴデ・ミリン(Godeg Miring),バパン・スリシール(Bapang Selisir)などがあり、曲のサイズは小さめでゆっくりした部分もさほど長くないのが特徴である。
   さらに、1と3の旋律は同じであったり違っていたりする。つまりA-B-A、またはA-B-Cといったパターンである。
上記の曲ではレンケールやバパン・スリシールは前者、ゴデ・ミリンは後者である。

   但し、例によって、伝承されている村によって形式が異なるのは言うまでもない。
(例えばパガン・クロッド(Pagan Kelod)のバパン・スリシールはこの形式(早ー遅ー早)を取っていない)。

   そもそも王様が眠っているときに(あるいは眠る前に)演奏したならば、曲を延々と伸ばせる工夫と同時に、いつでも終わらせられるような小さな曲(ゴング周期の短い曲)も用意する必要があったと考えられる。
やたら長い曲もあればすぐ終わるような(終わらせることのできるような)小曲もある理由の一つがここにあると推測される。

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