九尾の狐-II/The 3rd Tale




act 1:2001年8月13日土曜日午後3時12分@新宿都庁都民広場
 運命はどこに罠を仕掛けているかわからない。
 その日、私は新宿に画材の買い出しに来るといつもそうするのだけれど、都庁29階の職員食堂で昼ごはんを食べた。眺めが良く、安くて種類も多くて美味しいので密かな穴場、大のお気に入りなのだ。それと食事のあとに最上階の展望台に行くのも好きだった。
 展望台行きのエレベータは庁舎用のとは別で、いちど1階まで降りなければならない。下まで降りて、北側の最上階の展望台行きのエレベータを待つ人の列に並んでいると、なんと小悪魔が(もちろん悪魔の格好をした人間だけど)トテトテッと寄ってきて、にぃっと笑って小さな巻紙を私に手渡した。
 あっけに取られていたら、悪魔はバイバイなんかして微笑んで、あっという間に、広場にたむろすオノボリさん達の向こうへ走り去ってしまった。

 …なんだいまの。私は我が身にナニゴトが起こったのか理解しかねていたのだが、はっと気づくと周り中の人が私を見つめていた。そりゃそうだ。私もどう振る舞えばいいのか、ただただ苦笑いするしかなくて、でもちょうどその時扉が開いて私たちは係りの人にエレベータの中へ導かれた。
 扉が閉まると、幸い周りの人たちの興味はエレベータの加速のすごさや窓の外の景色に移っていて、私はどうにかそれ以上の注目を浴びずに済んだ。そうでなければ恥ずかしくて気が狂っちゃったかも知れない。



act 2:午後3時16分@新宿都庁北タワー最上階展望台
 エレベータが最上階に到着すると、ともかく私は喫茶スペースのカウンター席に腰を掛けた。展望台は何度も来てるけど、何しろ「観光地」で値段が高いからいつもはこんなところ使わない。コーヒーを頼んでおいて、ウエイトレスの持ってきてくれた水をできるだけゆっくり、一気に飲み干した。
 まだ少しどきどきしてるけどもう大丈夫。でも落ち着いたら今度は腹が立ってきた。なんなんだあの悪魔は。女の子だったな、多分。迷惑な。なんで私なの? 何故私がこんな目に遭わなきゃならないのよぅ。 …あ、そうだ、あの紙。
 私はさっきとっさに世界堂の紙袋に隠した巻紙を取り出してみた。変哲もないコピー紙に、赤いリボン。チープだ。リボンを解き、おそるおそる、でも白状すると少し期待して紙を開いてみた。


なんじゃこりゃ? 何の、説明もない。意味のありそうな図形でもない。裏を返して見たけど真っ白。私は今度こそ何が何だか分からなくなった。



act 3:午後3時42分@新宿都庁北タワー最上階展望台南西の窓
こ、これかぁ。トラックかな? トラックだな。なんだろう、怪しいなぁ…
でもどうしろと? やっぱり、この矢印のとこへ来いってんだろうなぁ。でも行っていいのかなぁ… アブナイことされないかな?