第35回定期演奏会曲目解説
本文へジャンプ 2013年5月20日 

「ルスランとリュドミラ」序曲 [M. I. Glinka, 1804-1857]

グリンカは「ロシア国民楽派の祖」として知られる作曲家です。歌劇「ルスランとリュドミラ」は、プーシキンの同名の詩に基づき、作曲者と友人5人で台本を共作しました。この共作は、台本作りを承諾したプーシキンが決闘で殺されたための苦肉の策だそうです。

あらすじは、騎士ルスランが、悪魔チェルノモールに連れ去られた美しいリュドミラ姫を、幾多の困難と闘いながら救い出す物語です。今日、歌劇全体がロシア以外で演奏されることは稀ですが、序曲は世界中でしばしば演奏されています。

曲は15秒ほどの序奏に続き、ニ長調の快活な第一主題がフルート、ヴァイオリン、ヴィオラに現れ、その繰り返しや変形の後、ヘ長調の美しい第二主題がバスーン、ヴィオラ、チェロに現れ、更に高音楽器に移って強奏されます。この後、展開部、再現部と進み(すなわちソナタ形式)、壮快な終結部で終わります。終結部には、悪魔チェルノモールを表す下降的な全音音階が、バスーン、トロンボーン、低音弦楽器に現れますが、この全音音階はドビュッシーが用いたより半世紀も早く使われていて、当時としては非常に珍しいものです。

この曲は、とても速い! 空中分解する程に速い! 本番で崩壊しなければ良いが!
(台本の共作に因み、Cbパート5人で曲目紹介を共作)

交響曲第104番「ロンドン」ニ長調 Hob.I:104 [F. J. Haydn, 1732-1809]

58歳にしてリストラに遭う(*1)。

幸いにして、嘗ての伝手よりそこそこ仕事の依頼が来る。しかし痛かったのは、年若い親友(*2)に急逝されたことだ。残された遺児への支援をしようにも、こちらとて余裕ある身でもなく・・・

そんな折、知り合いの興行屋がロンドンでの「新作の交響曲による連続演奏会」という企画を打診してきた。

半信半疑であった。なにせイギリスと言えば、このところフランスとは戦争状態(*3)。それに帝国の首都から見れば如何にも田舎くさい。そもイギリス人の音楽家なんぞ聞いたこともない。そんな田舎で演奏会とは・・・」

かくしてハイドンは1791年〜1792年、1794年〜1795年の2度のロンドン興行を行い、大成功を収めます。この公演のために書いた12曲の交響曲のうち、最後に当たるのが本日演奏する第104番「ロンドン」です。

イギリスは産業革命が始まっていました。社会の中心は貴族ではなく、ブルジョア市民たちでした。専ら貴族のための音楽を創っていたハイドンにとって、市民のための音楽を創るというのは新鮮な経験だったようです。60歳を過ぎた大家の円熟の作品が、むしろ若々しい躍動感に満ちているのも、そうした新時代のロンドンの空気を反映しているのかもしれません。

注 *1:1790年、ハイドンは、30年勤めたエステルハージ伯爵家を解雇されました。なお、このハイドンの独白は勿論創作です。悪しからず。
*2:モーツァルトの事です。1791年没。ハイドンとは1780年頃から親交がありました。
*3:1789年はフランス革命です。革命後イギリスと戦争状態になりました。
(Hn. N.S.)

交響曲第8番ト長調作品88 [A. L. Dvořák, 1841-1904]

私がこの曲を紹介するのは22年前の今日以来2度目である。前回はオケの裏話に終始したので(※)、今回は作曲の背景に触れてみたい。

作曲家の多くは、先ずピアニストとして名を知られてから作曲家として大成するのが一般的だが、ドヴォルザークの少年時代には手元にピアノがなく、父の手ほどきのヴァイオリンで村の楽団の人達と演奏を楽しんでいた。これが彼の交響曲の響きの原点と言われている。

オーストリア政府から作曲奨励金を受けたことは、彼の創作上大きな影響を与えた。また、奨励金の審査員にブラームスがいたことがきっかけとなり、ブラームスとドヴォルザークは親交を深めていった(ここで前回第51回定演のブラ4と今回のドボ8が繋がる)。

よくドヴォルザークの第6、第7交響曲がブラームスの第2、第3交響曲に影響されたと言われるが、この第8番は純粋にボヘミアの作曲家ドヴォルザークそのものの音楽である。

1890年にプラハで初演後まもなく、著名な指揮者ハンス・リヒターによりウィーンで演奏され大成功を収めた。このときドヴォルザークは現地に行けなかったが、演奏後ハンス・リヒターとブラームスが、この交響曲の父のために祝杯をあげたとの記録がある。

なおこの曲は「イギリス」と呼ばれることがあるが、これは楽譜がイギリスで出版されたから、というだけの理由である。今回ハイドンの「ロンドン」との組合せとしたのも、いかにも意味あり気であるが、全くの偶然である。

※前回の紹介文は http://www.ne.jp/asahi/poco/a-poco/record/kaisetsu/r8.htm でご覧いただけます。
(Tp. T.K.)