西行桜
都、下京辺に住む者は、桜の名所を訪ね歩いて
日を送っていましたが、西山の西行の庵の桜が、
盛りと聞き、友を誘って遥々花見に向かいます。
庵の一木の桜の下、心静かに花を楽しんでいる
西行のもとに、都の人々が押しかけて、さながら
洛中のような賑やかさになります。
西行は、「花見んと 群れつつ人のくるのみぞ あ
たら桜の咎にはありける」と、人々を厭わしく思う
心の内を詠み、仕方なく共に花見をします。
するとその夜の夢に、桜の精が老体の姿で現れ、
無心に咲く花に何の咎があろうかと、西行の歌に
反論します。やがて、都の春の有様を讃えつつ
楽しげに舞い、夜が白み夢が覚めるとみるや姿を
消します。