泰山府君 (たいさんぷくん)
中納言藤原成範は、無類の桜好きでした。
屋敷の四方に吉野の桜を移し植え、人々は
この町を樋口町桜町と呼び、中納言を桜町
中納言とあだ名しました。
その中に、特に中納言が愛した桜がありまし
した。柵で囲い花守をつけました。
中納言は、七日間ほどの短い桜の花の命を
惜しみ、その命を延ばそうと生類の命を司る
神、泰山府君の祭りをします。
天上より天女が降り立ち、桜の花のあまりの
美しさに一枝を手折り、羽衣の袖に隠し、天昇
して行きます。祭りの場に泰山府君が現れ、
天女を天上から呼び下し、盗んだ花の枝をもと
の木に戻させ、大いに神威を見せ、中納言の
風雅な心に感じ、桜の花の命を二十一日間に
延べ、昇天していきます。