第一回 ・ ヤナギハラ ヨシミツ 売り出し中

 俺の名前はヤナギハラ・ヨシミツ。売出し中の新人ワーウルフハンターだ。
 ワーウルフハンター。要するに人狼狩り師。
 人狼-いつ頃から、連中が現れるようになったんだろう。

 前世紀の末頃、地球と月に原因不明の重力異常だかなんだかが起こり、おかげで隕石が降り注ぐわ、オゾン層が消滅しかけるわ、大陸が沈むわ、極の氷が溶け出すわ、ありとあらゆる天変地異に見舞われて、相当、大変だったらしい。
 
 異常が治まってからも、月の存在自体は異質なものに変わってしまったままだった。
 その異質な月から降り注ぐ妙な月光の影響−「月光力」って呼ばれてるんだが、そいつのせいで、世の中、突然変異の化け物だらけになってしまった。
 化け物はバラエティー豊かに揃ってるが、なかでも、一番、タチが悪いのが、ワーウルフ。人狼だ。昼間は人間そっくりなんだが、夜になると、本性をあらわして人間を襲う困り者。

 で、俺達、人狼狩り師の登場となる。
 ワーウルフを狩って、報奨金を手に入れる商売。報奨金の払い主は様々で、個人から公共団体まで。
 一応、ハンター営業するには政府の認可が必要で、なぜか、ハンターは伝統的にムチを武器として使用している。ワーウルフには普通の弾丸が効かないかららしいんだが、別にムチじゃなくても、いいような気がするのは俺だけ?
 まあ、俺はムチが好きだから、別にいいんだが。

 重力異常から、数十年たった現在、世界のほとんどの都市が水没し、生き残った人々は沈み損ねた高層廃墟跡やスクラップのタンカーやらの上に街を築いて、それなりに達者に暮らしている。俺が住んでいる「山水都市」はここらで一番、ニギヤカな街だ。

 その山水都市で、ここのところ、ワーウルフが大発生している。
 しかも、連中、凶暴度が並のワーウルフの比じゃないらしい。
 
 最初に被害にあったのは、どこぞの月光力研究所の10人組の調査隊だった。

 なんでも、月の観測やら、月光力の実験とらを行うとやらで、山水都市の東に位置する水上高層スラム「南九龍」にのこのこと出かけていったらしい。
が、6時間後「、助けてくれ、人狼が…アアッ、博士ッ!?」というありがちな通信を最後に、全員が消息をたった。
 政府の捜索隊が、脳ミソを食われた5人の死体と、4人分の手足を発見回収したが、調査隊を率いていた高名な科学者ヤクオウジ教授の遺体は発見できなかった。

 多くの人狼ハンターが一旗あげようと、南九龍に出かけていったが、返り討ちにあったハンターが続出。
 ハンターが返り討ちにあうことは少なくないが、ここまでヤラレまくるってのは、かつてなかったことだ。
 ワーウルフ猟友会に正式な届け出をして、狩りに出かけていった10人のハンターのうち、実に5人が帰らぬ人となり、3人が行方不明。なんとか生還した2人も半死半生の有様で、ハンター生命はもうオシマイ。
 届けを出さないで、狩りにいって殺られたヤツもいれると、相当数に上るはずだ。
 そのあと、三日の間に、南九龍に住むホームレスの実に40人以上が、人狼の餌食になり、南九龍はたちまちパニック状態。
暴動まで起こりそうなイヤな空気が流れはじめた。
 政府は、九龍区域の人狼撲滅に本腰を入れることにし、賞金額をズギャンと吊り上げた。

  だが、俺が南九龍に出かけていったのは、高額賞金だけが目当てだったわけじゃない。
 行方不明になった3人のハンターのうち、実に2人が俺の良く知っている人間だったから、捨てておけなくなったのだ。

 俺がワーウルフハンターの資格を得るのに世話になった「ウメさん」こと「ウメザキ・ヒョウヘイ」と、女性ハンター「カワミナミ・チャルカ」がその二人だ。

 ウメさんとカワミナミ先輩は、二人でコンビを組んで出かけていったらしいのだが、南九龍区域の「え−02947地点」から猟友会への無線通信を最後に消息を絶ってしまっていた。

 ウメさんといえば、俺なんか片手でクシャッと丸めて捨てられそうな豪腕兄貴だし、カワミナミ先輩は、その華麗で官能的かつパワフルなムチ裁きで並ぶ者のない腕利きハンターだ。
 そんな二人が最強タッグを組んで出かけていったのに、この有様だ。

 南九龍地域では一体、何が起こっているんだろう?

      To be continued…