【さくらんぼの思い出】


ピカポロンツァ特製 さくらんぼのチーズケーキ

今、ちょうどアメリカンチェリーやさくらんぼが旬です。
ピカピカのキュートな姿と甘酸っぱいおいしさは、初夏の果物のプリンセスと呼びたくなります。
さくらんぼは当然、さくらの木の実なのですが、
日本中いたるところにある桜、ソメイヨシノの木たちは残念ながら大きな実をつけてはくれませんよね。
ですがスロヴェニアでは、春に街や野山を美しく彩った桜の木たちが、
初夏にはこぞって大粒のさくらんぼを実らせるのです。
さくらんぼが大好きだったイゴール少年にとって、
その季節は夢と冒険に満ち溢れた数々の思い出を残してくれた季節でした。

イゴール少年の住んでいた家の庭には残念ながら桜の木はなかったのですが、
お隣の家には大きな桜の木があり、3階にあったイゴール少年の部屋の窓の真ん前に、
たわわに実をつけた枝が見事に張り出していました。
木登りが得意でさくらんぼが大好きだったイゴール少年が、
この夢のような光景を眺めるだけで満足できるわけがありません。
お隣のお家に「さくらんぼをちょっともらってもいいですか」と頼みに行って、
木に登ってさくらんぼを食べさせてもらいました。そのおいしかったこと!
すっかりとりこになったイゴール少年は、それからも時々お隣に頼みに行き、
そして時々は黙って木に登ってはさくらんぼを食べていました。

勝手に登って食べているのをおばさんに見つかると、ちょっと怒られたりもしましたが、
それほど怖くはなかったので、下から叫ぶおばさんの声を聞きながらさくらんぼを食べました。
おじさんは怒ると本当に怖かったので、おじさんのいない時をみはからって木登りをするようにしていました。
木登りと簡単に言っても、家の3階に枝が届くほどの大木ですから、かなり危ない冒険です。
小さいころからいろんな木に登って遊んでいたイゴールにとっては、
桜は登りやすい木でしたが、その反面折れやすい木でもありました。

ある日のこと、お隣のお兄さんが「一緒にさくらんぼを食べに行こうか」と誘ってくれました。
イゴール少年がしょっちゅう庭のさくらんぼを盗み食いしていることを知っていたのでしょうね(笑)。
お隣のお兄さんが一緒ですから今日は堂々と木に登ってさくらんぼを食べられるとあって、
イゴール少年は木の上で夢中になってさくらんぼを食べていました。
ところが、もう少し、もう少しだけと手をのばしたその瞬間、
折れやすい桜の枝がついに折れてしまいまったのです!
アニメーションよろしく、枝から枝へと体をぶつけながら落ちて行くイゴール少年…。
最後は低い枝にお腹から落ちてクルリと前回りを一回転してからやっと着地しました。
信じられないことに骨折も大けがもせず奇跡の着地でした。

そんな命がけの冒険をした後も、イゴール少年はさくらんぼを愛し続けていましたので、
近所の大きな桜の木を見つけるたびに、こっそり登ってはさくらんぼを味わっていました。
その日も、初めて通りがかった家の庭にそれはそれはおいしそうなさくらんぼの木を見つけたイゴール少年は、
思わず木に登り、さくらんぼを食べてしまいました。
すると突然、目の前の窓が開き、ベランダに女の人が現れました。
その人はイゴール少年をじっと見て「おいしいか?」とだけ言いました。
怒られたわけでもないのに、何故かいたたまれない気持ちになったイゴール少年はすごすごと木から下りて、
すぐにその家から立ち去ったのでした。

やがて大学生になったイゴール。
そんな少年の日のいたずらもすっかり忘れていましたが、ある時友人の家に遊びに行って仰天しました。
その友人の家こそ、その日のさくらんぼの木の家だったのです。
そして、怒りもせずにイゴールを退散せしめた女性が、彼のお母さんだったのでした。
彼もたいへん大らかでウィットに富んだ人ですが、この母にしてこの子ありだったのですね。
ちなみに、その友人とは今でも親友です。

さて、さくらんぼを愛した一人のいたずら坊主の思い出話、いかがだったでしょうか。
1950年代、人々がまだずいぶんとのんびりしていた頃の、ヨーロッパのとある街でのお話でした。


さくらんぼ大好きイゴール少年↑


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