最近、楽譜についての質問が増えましたので、概略をお話ししてみます。
なお、それぞれの楽譜については、入門書あれこれ;楽譜の選択のページも合わせてご参照下さい。
(他のページと内容の重複が多い点はご容赦下さい。)
従来の入門書の代名詞と言えば「バイエル」でした。いまだにバイエルの影響力は大きいですが、これが最善の教本であるとは言えません。
ただ、これを終わりまで弾ければ、初級は終了と言えるかもしれませんね。
その次にポピュラーなのは・・・百花繚乱ですが、やはり「メトード・ローズ」でしょう。
あとは様々です。どれを使っても構わないのですが、入門書のページに書いたように、一番良いのは、始めから両手で大譜表(ト音記号とヘ音記号が同時に表記されている楽譜)を使って、「真ん中のド」から導入する教本でしょう。
私が生徒に使っているものは、
「小さな手のためのピアノ教本 トンプソン」、「バーナム・ピアノ教本 (1)」、「ぴあのどりーむ (1)」の3つです。最初の2つは大人の初心者にも適します。3つ目は幼児向けと言えるでしょう。
これらのどれか1冊を使えば必要十分ですが、トンプソンとバーナムを併用することもできます。
これらの本には、音符の名前や長さ、楽譜の読み方や指使い等について詳しい記述が載っており、全くの初心者を対象にしています。
違いは、曲数と最後の曲のレベルです。バイエルは最後まで行けば大体「エリーゼのために」が何とか弾けるだろうというレベルです。ちょうど小学校のように1年生から6年生までの段階を含むと言えるでしょう。
バーナム・ピアノ教本の場合は1年生、2年生、・・・のように分冊になっていると考えればよいでしょう。トンプソンを同様に例えれば、1・2年用、3・4年用という感じでしょうか。
さて、上記のものが「最初の1冊」になりますが、大抵もう1,2冊併用することになるでしょう。目先を変えて少しでも楽しく練習してもらうためと、もう1つは楽しい曲、知っている曲を弾いてもらいたいからです。
そういう教材として、
「ピティナ・ピアノステップ曲集(1)」、「ラーニング・トゥ・プレイ(1)」、「わたしはピアニスト(1)」などの沢山の曲集が出版されています。
(それぞれの本の詳細は入門書あれこれで。)
さて、「バイエル」を終了する時点では結構上達しているはずですが、バイエルの次には普通「ブルクミュラー25の練習曲」を使います。分類上は練習曲ですが、タイトルもついており、曲想も豊かで聞いていても楽しい綺麗な曲集です。
一方、「メトード・ローズ」から入った場合には「ピアノの練習ABC」(=「ピアノのアルファベット」)に進み、その次が「ピアノの練習ラジリテ」でしょうか。いずれもフランス人作曲家によるものである点が特徴です。
大抵の場合、上記のいずれかの系列で進みますが、それと併用する形で「ハノン」も良く使われます。これは1つの音型をただただ反復練習するもので、運動で言えば筋トレ(腹筋・背筋)に匹敵する教材と言えば分かりやすいでしょう。
これらが終わると、いよいよ(?)ツェルニーの練習曲になります。これは作曲家の名前ですが、ベートーベンの弟子だった人です。従って、モーツアルトやベートーベンのソナタを弾く時には大いに役に立ちます。
100番→30番→40番→50番→60番の順序で難しくなります。ただ、100番をやる人は少ないかもしれません。抜粋するか、間に他の練習曲を使ってから30番に進むのが適当と思います。
ということで、ブルクミュラーの次が恐らくツェルニー30番(本当は「メカニズムの練習」というタイトルですが)になり、あとは順次40番〜と進みます。
ラジリテに進んだ人も、恐らく30番あたりからこの路線に戻ることでしょう。他に適当な、系統だった練習曲集がないから(?)かもしれませんが。
ちなみに、60番を使う人も非常に少ないと思います。同レベルでもっと実用的な練習曲集が他に沢山あるからでしょう。
50番を始める程度になると他にも併用する練習曲集がいくつかあります。(ショパンなど演奏会用の練習曲を除く。)
「クラーマー=ビューロー 60練習曲」、「クレメンティ グラドス・アド・パルナッスム」などです。ほかに「モシェレス 24の練習曲」、「モシュコフスキー15の練習曲」などもあります。
ただし、「私はツェルニー40番の32番で、○○ちゃんは15番だから、私のほうが進んでいる!(または 上手い!!)」と考えるのは全く無意味です。完成度が違えば比較にならないからで、実際、そういう逆転現象は良く見られます。
それから、大人の方の場合、「30番をやるよう先生から指示されたが、30番を終えるのに何年掛かるか分からないから、40番から入りたい」ということがありますが、残念ながらこれも同様です。
結局のところ、ピアノのテクニックを身につけるには、誰でもそれなりの時間がかかります。今の自分の力に見合ったレベルの練習曲を丁寧に仕上げていくことが、結局一番の近道です。
ですから、何をやっても2年かかるので、それなら系統的に30番を使いましょう、と考えてみて下さい。
もう1つ。30番や40番に書いてある指定のテンポは異様に速いです。無視して下さい。6〜7割で弾ければ御の字です。
また、子供の場合には、手の大きさが足らず、無理な曲もありますので、その場合は普通飛ばしてしまいます。というのは、同様のテクニックが何度か現れるからであり、無理してその曲ばかり練習しても意味が無いのです。そのあたりの判断は専門家(先生)に任せるべきです。
さて、ピアノを習い進めるに従って併用する楽譜が多くなります。前述のように、初級段階では使う本は様々です。それが進むに従ってある程度集約されてくるのです。
大体ツェルニー30番あたりから「ソナチネ・アルバム」を使います。これらは古典派の小さなソナタ形式の曲集ですから、その代わりに「こどものモーツアルト」等の楽譜を使っても同じことです。
ソナチネ・アルバムは1,2巻がありますが、2巻に収録されている曲はモーツアルトのソナタやベートーベンの易しいソナタもあるので、それぞれのソナタ集で取り上げることもあります。
ただ、クーラウやクレメンティなどのソナチネは実際問題としてこのソナチネ・アルバムでしか出会えないでしょう。
クラシックのピアノ音楽は簡単に言うと『バロック』(バッハなど)、『古典派』(モーツアルト、ベートーベン)、『ロマン派』(ショパン、リスト)、『近現代』(ドビュッシー以降)に分類できます。一番良いのはこれらをバランスよく取り上げることですが、なかなかうまくいきません。
この中で最初に出会うのは『古典派』で、次に『バロック』、それから『ロマン派』、最後に『近現代』でしょうか。
ソナチネ・アルバムは古典派の楽曲(小さいソナタ)集ですが、このあたりでバロックのバッハを習い始めます。小品を2,3曲取り上げた後で「二声のインベンション」から入ります。
譜面だけ見ると易しそうに見えますが、これが曲者で、きちんと弾くには結構苦労するかもしれません。
バッハ(正確にはJ. S. Bach)とのお付き合いも一生もの(?)です。二声が終わると「三声のインベンション」、それから「フランス組曲」、「イギリス組曲」、「平均律クラヴィーア曲集」、「パルティータ」などに進みます。
少し煩雑になってきましたが、古典派に戻ると、「ソナチネ・アルバム」の後は「ソナタ・アルバム」、and/or「モーツアルト・ソナタアルバム」、最後に「ベートーベン・ソナタアルバム」です。
ソナタ・アルバムにはモーツアルトやベートーベン以外にハイドンのソナタが入っており、彼のソナタは(勿論ハイドン・ピアノソナタ集もありますが)主にこの本でのみ扱うためです。
そのため、ソナタ・アルバムを使わずにモーツアルトやベートーベンのソナタ集を使えばよいのですが、ソナタアルバムに収録されているのは、彼らのソナタの中で比較的易しいものだけです。
バッハの次にはいよいよロマン派の曲が登場します。シューベルトの「即興曲・楽興の時(=アンプロンプチュとモーメントミュージカル)」やショパンの易しいワルツやマズルカなどの他、チャイコフスキーの「四季」など様々な小品があります。
近現代曲については、最近は易しい短い曲が多数紹介されており、また非常によく出来ているので初歩から十分使えるものが沢山あります。
小さいうちからこれらの曲になれて耳を豊かにしておくといいと思います。(作曲家としては、カバレフスキー、ショスタコービッチ、バルトークなど。)
それらに触れる機会がないと、近現代との『遭遇』はドビュッシーの「2つのアラベスク」や「子供の領分」まで待たなければならないでしょう。一般的には「難しい曲」ということになります。(テクニック面では難しくない曲でも、譜読みは大変です。♯や♭が沢山出てきますし、どんどん転調しますから・・・。趣味として取り組む場合にはハードルがちょっと高いかもしれません。)
初歩 | 初級〜 | ||||
教則本・練習曲集 | バイエル→ | ブルクミュラー25番→ | (ツェルニー100番)→ | ツェルニー30番→ | |
メトード・ローズ→ | ピアノのABC→ | ラジリテ→ | |||
バーナム・ピアノ教本→ | |||||
トンプソン→ | |||||
曲集 | (ピティナ・ピアノステップ曲集、わたしはピアニスト、ラーニング・トゥ・プレイ、ギロック等) | ソナチネ・アルバム→ | |||
バッハの作品 | 2声のインベンション→ |
あくまで概略としてお話していますが、極言すれば、どんな教材を使っても構いません。使い方次第で何とでもなるのです。ただ、バロック、古典派、ロマン派、近現代のピアノ向けの楽曲を出来るだけ満遍なく弾くことが良いことは間違いありません。
さて、一般論では分からないので、私の場合で説明しましょう。
ピアノを始めたのは5歳10ヶ月です。両親がアップライトを買ってくれました。よく覚えていませんが、一番最初はヤマハかカワイの音楽教室だったようです。すぐに個人レッスンのところに変りましたが、先生の自宅ではなく個人宅を貸してのカワイ系列の先生だったようです。
バイエルから始めました。ある年代の方には懐かしいと思いますが、子供用のバイエルで上巻が赤い本、下巻が黄色い本だったと記憶しています。
レッスンもアップライトでした。その先生がご結婚でやめられたため、他の先生を探しました。
母が探したのはどうやら音大受験生もいるような個人レッスンの先生だったようですが、その先生には教えていただけず、お弟子さんで子供を教えるのは初めてという音大生(?)の若い先生宅へ通うことになりました。とても熱心だったことは覚えています。こどものモーツアルトとかこどものシューベルトとかそういう本を使っていたと思います。
残念ながら父の転勤によりまた先生を探しました。楽器店の紹介で、国立音大のピアノ科を出た先生でした。初めてグランドのあるお宅へレッスンに通った記憶があります。
さらにその先生もご結婚のため、市内で別の先生を紹介されました。小学校5年生の頃です。
この頃までにはツェルニー40番の半ばに入っていて、ソナタ・アルバムを使っていたと思います。
ここで初めてバッハを習いました。二声のインベンションです。厳しかったですが、論理的に教える先生で、ソルフェージュも初めてでした。ピアノ科出身の先生ではありませんでしたが、特に日本音楽や近現代の子供向けの作品などを豊富に取り上げて下さいました。
ただし、またアップライトでのレッスンに逆戻りです。・・・そしてまた転勤が決まりました。小学校の卒業を待って静岡市に引越しです。
この時点で「もう技術的に私には教えられないから」とお友達である芸大ピアノ科出身の先生を紹介してくれました。ここから本格的なレッスンが始まり、自分の将来について具体的にあれこれ決まったのもこの頃です。
この時の私は特にピアノ科に行きたいとか両親が熱心に勧めたといことはありません。ただ、ピアノは好きでしたし、先生に勧められてその気になったという面もあります。
中1になる時点で、ツェルニー40番の30番台だったことは覚えています。(芸大を受けるならツェルニー50番に入っていて、しかも2週間で1曲ずつ仕上げられなければ無理だと言われました。)
しかし、ここまではある意味で器用さと真面目さで何とかなっていましたが、ピアノ科出身の先生に変って初めて、これではどうにもならないことを思い知りました。
無駄な力が入りすぎていて、このテクニックのままでは上達できない状態だったからです。ここから本当に初歩に戻って指の上げ下げからみっちり先生に指導を受け、とりあえず半年くらいでなんとかなり始めました。
ただし、先生の腕の違いを最初のレッスンからはっきり悟りました。また先生もとても根気よくご指導下さったと思います。同じ先生に5年位つけば、良くなってくると言われたように記憶しています。受験前ギリギリだなと思いました。
結局のところ、中1からようやく本格的なレッスンが始まったので、今まで何を弾いていたかは余り関係ありませんでした。そういうことも気にならなくなりました。
あとは、ツェルニー50番に進み、それから前述のクラマー=ビューローとクレメンティ(グラドス・アド・パルナッスム)を併用し、中学生でショパンの有名な曲をいくつか(幻想即興曲が中3でした)、あとはベートーベンのソナタです。
大体4冊併用していました。練習曲が2冊、バッハ(フランス組曲〜)、ベートーベンやロマン派の曲です。
さて、音大のピアノ科を受験しようと思う場合にはどれ位進んでいればよいのか、気になる方も多いでしょう。
音大受験のページでも書きましたが、課題曲を見れば答えは明らかです。
普通、ショパン・エチュード1曲、バッハの平均律から1曲、そしてモーツアルトかベートーベンのソナタの急速楽章1曲の計3曲です。
芸大を受けようと思うような人は別格として、例えば武蔵野レベルなら、高校の間にはショパン・エチュードに入れるかどうか微妙です。課題曲が決まってから必死に練習する感じです。
平均律は2巻ありますが、かなり進んでいるでしょうし、入っていないとしても練習次第です。ベートーベンは、多分弾いたことのある曲になることも多いでしょう。・・・要は、課題曲が発表される夏以降、試験日までの半年でどこまで仕上げられるかです。
私が現役で志望したのはピアノ科ではなかったのですが、レベル的には十分達していました。平均律に入っていましたし、ショパンも数曲は弾いていた?ように思います。ベートーベンも然りです。
高2の時に某コンクールに出て、そのときの課題曲がショパンのエチュードの作品10―4(予選)とベートーベンの「告別」(全楽章、本選)でしたが、確か3ヶ月位の準備期間で、とても大変だったと記憶しています。
同じ門下で3人受けたのですが、1人は武蔵野を卒業して教えている方、もう1人は愛知県芸在籍中の先輩でしたので、高校生には難しかったのは当然です。(結果は本選に出たものの、入賞はできませんでした。)
まあ、そんな感じです。更に音大に入るとそれまでの続きでレッスンを受ければいいのですが、試験がありますから、課題曲が決まればそれを練習します。モシュコフスキー15の練習曲は音大在学中に弾きました。寄り道(一般大学)のあいだにショパン・エチュードは全部終え、平均律も終えていましたが、要は音大在学中にそのくらい進むだろうということです。
その先はエンドレスです。何を練習しても構いませんし、何もやらなくても誰も困りません。本人次第です。易しいと思った曲も、演奏会レベルに仕上げるには膨大な時間がかかります。弾かなければゼロに戻る事だってあり得ます。
どんなに上手くなっても、毎日練習できなくなったらどんどん腕が落ちていき、全く弾かない期間が1ヶ月、2ヶ月と過ぎれば、元に戻るのに2倍以上掛かると思っていいでしょう。
(この言葉、自分に言い聞かせています・・・。あ〜耳が痛いです。)