2007年４月29日
サンプラスはタンパへの帰還を楽しむ
文：Joey Johnston
タンパ――ピート・サンプラスはトスを上げ、まさにサーブを放とうとしていた。
「お願い、ピート、優しくね」9,002人の観客が一斉にクスクス笑うなか、ダブルスの対戦相手、レネ・スタブスがマイクロホン越しに言った。セント・ピート・タイムズ・フォーラムで土曜日の夜に行われた楽しいイベント、メルセデス-ベンツ・クラシック・テニスエキシビションでのひとこまだった。
当のサンプラスさえ、身体を折り曲げて笑い転げた。それから彼は落ち着きを取り戻し、ピシリとエースを放った。かつてのように。「楽しかったよ」とサンプラスは言った。
もちろん、彼は年齢を重ね（35歳)、そして確かに最後のメジャー大会で競った時（2002年USオープンで優勝）ほど集中していなかった。しかしいろいろな意味で、それは幻影を見るようだった。
「ピートはグレタ・ガルボのように、我々の前から姿を消した」とジム・クーリエは語った。彼は近隣のデイド市出身で、４年目を迎えるチャリティ・イベントを主催する元ナンバー１選手だ。このイベントはセント・ピーターズバーグ・テニスセンターから、主に子供たちへの慈善を目的としてきた。「彼は（引退して）離れる必要があったんだ。誰よりも打ち込んできたからね」
「僕はテニスファンとして、彼がテニスに戻ってきたのが嬉しいよ」
限定的なものであっても。
サンプラスは男子史上最多記録である14のグランドスラム・シングルスタイトルを保持しており、エキシビションでプレーしている。そしてクーリエが主催する30歳以上のツアー、アウトバック・チャンピオンズシリーズにも２大会出場する。タンパに戻ってくる事は、地域への帰属意識という点でも、クーリエとの友情という点でも、サンプラスにとってごく自然だった。彼はこの地で６年間暮らしていたのだ。
そして地元のファンは、長く音信不通だった息子のようにサンプラスを迎えた。
「偉大な過去のチャンピオンが戻ってくると、人々は彼らをどれほど愛しているか知らせたいと思うのよ」ハーバー・アイランドに住むオーストラリアのツアープロ、スタブスは言った。
「どんな風だった見たでしょ。まず私たちが紹介され、次にピートが紹介されると、嵐のような声援だったわ」
「私は（ATP ツアーの）男子が話しているのを知っているわ。いかにピートのサーブは読めないかと。同じトス、同じモーションなのに、やって来るものは予測しがたい。そして、彼はそれほど強くサーブを打っていなかった。観客はみんな楽しんでいたわ。史上最高のテニスプレーヤーの１人をちょっとでも見られたのだから」
混合ダブルスでは、クーリエとスタブス組がサンプラスとニコル・バイディソワ組に６-３で勝った。フィナーレを飾る男子シングルスでは、サンプラスが最後をエースで締めくくり、タンパ出身のマーディー・フィッシュを７-６、６-４で下した（クーリエは背中の怪我から回復途上だったため、フィッシュが代役を務めた)。
その晩は有名人ダブルスから始まり、クリス・エバートと俳優のジョン・ロビッツ組 が、俳優のドネイル・ローグとバイディソワ組に６-４で勝利した。
だが明らかに、ハイライトはサンプラスの登場だった。
「ピートがいるという事は、伝説的選手を見ているのよ」と、自身も伝説的選手であるエバートは言った。
「こういうイベントでプレーするのは好きだわ。素晴らしい目的に益するし、私もリラックスできるからよ。私は、うーん、つまり現役でプレーしていた間は、かなり真剣だったの」
「ピートもそうだった。今、彼はガードを下げて、拍手喝采を聞き、愛を感じる事ができるわ。彼はそれに値する。素晴らしいわ」
その夜は、カリフォルニアに住むサンプラスとニューヨークに住むクーリエの、再会の場でもあった。彼らは少年時代の相棒、かつてのダブルスパートナーであり、ナンバー１の座を争い、1993年ウインブルドンではシングル決勝を戦った。
クーリエとサンプラスは共に、対戦した試合はすべて、今でも何らかの意味があると認める。
「それは２人の男にとっての信条表明なんだ。僕たちは互いに尊敬し合い、コート外に試合の遺恨を引きずらなかった」とサンプラスは語った。
「いつもジムは僕に、自分のゲームにはまだ何かあると示す事を望んでいると思うし、僕も恐らく同じだ」
「ジムは僕が出会った中で、最も競争心の強い男だ。僕たちはこういう楽しい雰囲気が好きだよ。だがどちらも勝つ事を望んでいるかって？ もちろんさ。そしてコートから去った後は、素晴らしい友人のままだ。我々は共に闘いをくぐり抜けてきたんだよ」
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