Tennis.com
2008年7月9日
たいせつな仕事
文:Peter Bodo


昨日ピート・サンプラスと話をしたが、彼はここテニスワールドの場でファンに挨拶をする。まずは僭越ながらちょっと宣伝をさせてもらおう。我々の共著『チャンピオンズ・マインド』は、出版直後からニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リスト( 20位、現在は21位)に載った。我々は主としてウィンブルドン決勝戦と、彼の友人でヒッティングの相棒でもあるロジャー・フェデラーについて語り合った。

決勝戦についてどう思いましたか?

素晴らしかった、恐らく僕が何年も見てきた中で最高の試合だと思ったよ。全盛期にある史上最高の選手2人が、地球上で最も素晴らしいコートで対戦したんだ。台本を書くとしても、これ以上のものは書けないだろう。ロジャーは2セットダウンから挽回し、ナダルは心意気を示した。……素晴らしいテニスであり、素晴らしいドラマだと思ったよ。

ロジャーは品位をもって身を処していたと思う。何よりも良かったと思うのは、素晴らしい瞬間とは論戦やら人柄がどうこうではなく、試合そのものだと示すに至った事だ。2人の偉大な選手が、通常の視聴者を越えた範囲にまでゲームの素晴らしさを伝えたんだ――特にこの国においては大きな意味がある。アメリカ人ではない2人が、アメリカのスポーツファンの心を捉えたんだ。見事な事だよ。あらゆるスポーツを通して、忘れられないものの1つだった。

ピート、ロジャーに話をしましたか?

まだその時ではなかった、話をしようとは思わなかった。だがテキストを送ったよ。彼に「不運だったね。あの試合で敗者にならねばならなかったなんて、とても残念だった」と伝えた。彼とラファが多くの視聴者にスポーツの素晴らしさを伝えた事に、誇りを感じるべきだと書いたよ。彼はそう感じてしかるべきだ。彼もテキストを送ってきて、感謝を述べていた。

彼が失望しているのは分かる。きっと今でも心の中であの試合をリプレイしている筈だ。だが何年も経てば、彼はこの試合を振り返って価値を味わうだろう。その事に疑問の余地はないよ。

ナダルとジョコビッチが出現し、ロジャーはキャリアの現段階で何かを変える必要があると思いますか?

彼はもっと前に出るべきだ、サーブ&ボレーを増やすべきだという意見が多く出ているのは耳にした。だがロジャーはバックコートからでも、ラファを除けば誰よりもずっと優れている。その変更が賢明かどうかは考えるところがある。もちろん、もう少し攻撃する事もできる。でも僕は今でも、ロジャーとラファがセンターコートで10回対戦すれば、7回はロジャーが勝つと思っている。彼はラファと接戦を演じた。それはクレーと逆の立場という事だ。ラファはクレーでは既に伝説的存在だ。だがロジャーは、芝の上では今でも自分がより優れたプレーヤーだと考えているだろう。僕もそうだと信じている。ラファは結果を出した。あの日曜日、ロジャーはほんの少しだけ届かなかったんだ。

ロジャーは技術面、あるいは情緒面でフルタイムのコーチを雇うべきだと思いますか?

いいや、必ずしもそうすべきだとは思わない。人それぞれなんだ。それにロジャーは独力でたくさんのスラム優勝を遂げてきた。それが彼にはやりやすいのだろう。

一方で、コーチは選手の見えないものを見る事ができる。選手が試合の場でやってみたくなるような事を力説したり、ゲームプランを思い付く事もできる。僕はいつもポール(アナコーン、サンプラスの元コーチ)の言う事に価値を見いだしていた。例えば「スタート時はバックハンドにビッグサーブを打ち込んで相手の心理に警戒心を植え付け、それからフォアハンド側を徹底的に攻めるべきだと思う」といったアドバイスを。

そういったシンプルなアドバイスは常に歓迎だった。それをいつも実行するとは限らなかったけれどね。ロジャーほどの選手にも、コーチは2パーセントくらい援助できるんじゃないかな? それでも――この試合での2人の差はわずかだった。だからコーチが必要かどうかは何とも言えないよ。

だが重要なのは長い目で見る事、試合をあれこれ分析し過ぎない事だと思う。ロジャーは充分に良いプレーをしていた。勝利しなかっただけだ。別の日には彼が勝つ。多くの人々が言うのとは反対に、ロジャーは良い年を送っていると僕は思うよ。ただ、彼が設定してきたハードルはとても高いという事だ。彼はペースが落ちてきたとか、あるいは彼のゲームには穴があるとか、誰か言えるかい? とんでもない。彼はチャンスがあれば攻撃し、勝利する位置にいるよ。

ロジャーがあなたのグランドスラム・シングルス・タイトル記録(14タイトル)を破ると、今でも予想していますか?

ああ、もちろんだよ。それは不可避の事だ。彼はすべてのメジャー大会で優勝を狙う位置につけ、ウィンブルドンとUSオープンでもう何回か優勝するだろう――そう信じているよ。

彼と練習したり、あるいは昨年秋のようにエキシビションを行う計画はありますか?

まだ何も決まっていない。ロンドンでエキシビションか何かをやろうかと話し合ったが、スケジュール的に実現はできなかった。また何かできたら素敵だけれど、今のロジャーにはもっと大切な仕事があるからね。

オリンピックについてどう思いますか? アンディ・ロディックはUSオープンに専念すると決めました。ロジャーが参加するのは間違いだと思いますか?

立場が違うと思うよ。ロジャーにとっては、オリンピックはとても重要な事なのだと思う。彼はスイスが生み出した最も偉大な運動選手(と言われる存在)だからという事があるだろう。スイスは小国で、冬季大会での方が成果を上げている。だが夏季大会の方が大規模だ。

前回大会でもしたように、スイスの国旗を掲げる事はロジャーにとって大きな意味がある。一方、アンディがオリンピックを欠場するのはそれほど大事件でもない。合衆国では他の国ほどオリンピックを重要と捉えていないし、他のスポーツに優れた運動選手がたくさんいるから、テニス種目は影の薄い存在になる。オリンピック――それをどう受け止めるかによる。

近々、公の場で何かする予定はありますか?

今週の金曜日にはチャーリー・ローズ・ショーに出演し、僕たちの本を宣伝してくるよ。ロンドンでのシニア大会の他に、何回かエキシビションでプレーする。サム・ケリーとか他の選手と。忙しいよ……。

あなたが次に出席するのは、どのメジャー大会になるでしょうか?

ロジャーが僕の記録を破る時の大会になるだろう。ちょっと自分勝手だけれど――もしそれがオーストラリアン・オープンになったら、行かないかも知れないとロジャーに言ったよ。遠いからね。これまでテニス大会のために長距離の旅行をしてきたもの。彼に冗談半分で、ウィンブルドンかUSオープンで記録を破らなくちゃいけないよと言ったんだ。まあ、どうなるかね。気持ちとしては、その2つの場所、なるべくならウィンブルドンで彼がそれをするのを見たい。彼への敬意から、その場にいたいと思うんだ。だが同時に、いつかウィンブルドンに戻りたい。あの場所が好きだからね。


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