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2008年5月2日
ギメルが語る
正当に評価されていない偉大さ
文:Justin Gimelstob


いま僕はテニスの偉人ピート・サンプラスのプライベート・ジェットに便乗し、40,000マイル上空でこれを書いている。我々はボストンに向かっている。彼はアウトバック・チャンピオンズシリーズに出場し、そして僕はテレビで大会をカバーするのだ。

フライトの間、我々は様々な話題:政治、NBA プレーオフ、テニス後の生活や家族について論じ合った――だが僕の注意を真に引いたのは、話題がラファエル・ナダルの優れたクレーコート能力と、来たるフレンチ・オープンに転じた時だった。クレーにおけるナダルの圧倒的強さは、テニス界では広く称賛されているが、一般的にはまだまだ正当に評価されていない。

「過去3年間にナダルがクレーで成し遂げた事は、全くもって驚くべきものだ」とサンプラスは語った。「誰よりも圧倒的だと言えるよ、101試合のうち100試合に勝利するとは! テニス史でも最大の業績の1つだ。でも、その業績に値するほど認められているとは思えない」

「肉体的な試練はもちろんだが、試合のたびに精神的・情緒的に備える大変さは、恐らくそれ以上だろう。彼がプレーをどれほど楽しんでいるかが伺えるし、それが彼の成功に占める非常に大きな部分なのだろう。各試合だけでなく各ポイントにかける彼の努力へは、大いに敬意を払うよ」

それはかくも高遠な期待と結びついた強迫観念を、知りすぎるほど承知している者からの大いなる称賛である。クレーにおけるナダルの圧倒性は、クレーコートテニスは相手のエラーによるポイントが際立って多いという事実に助けられているとの論議も成り立ち得る。技術的な有効性よりも肉体的に優れた能力が基礎となるからだ。

それでもなお、僕はピートに同意する: ナダルの圧倒性は、近代テニスにおける最も注目すべき偉業の1つであると。過去3年間にナダルがクレーで負けた唯一の試合は、昨年のドイツ・ハンブルグ大会決勝、ロジャー・ロジャー戦だった――ナダルは疲れきっていたため、欠場も考えていた大会だった。

あらゆるサーフェスで、ナダルは対戦相手に多大な試練をもたらすが、彼を他の選手と分けるのはクレーにおける動きだ。彼のバランス・粘り強さ・身体的な強さは、ポイントを取るためには正確なスポットに打たねばならないというプレッシャーを対戦相手に与える。これは必然的に、彼の対戦相手がエラーを犯す事につながる。

その守備的な技能が、フォアハンドでコート中央を支配し、左利きのサーブでポイントをセットする能力と合わさり、こういう結論になる:ナダルは歴史上で最も圧倒的なクレーコート・プレーヤーになるだろう、と僕は考えている。ビョルン・ボルグは5年連続でフレンチ・オープンに優勝し、成功の規準を信じがたいほど高くした。しかしナダルは迫ってきている。彼はすでに3回優勝し、今年もまた有力な優勝候補だ。実際、ナダルはローラン・ギャロで敗れた事が一度もない。

フェデラーはクレーにおけるナダルの最大の挑戦者だが、相性もポイントのパターンも、世界ナンバー1にとって望ましいものではない。ナダルは左利きなので、フェデラーのより弱いバックハンド側にボールを集める事がしやすいのだ。それはこれまで、フェデラーにとって克服しがたい試練となってきた。ロジャーがフレンチで優勝する最良のチャンスは、他の誰かがナダルを打ち負かしてくれる事だ。

フェデラーのクレーコート技能は、大いなる称賛に値する。そして最も弱点とするサーフェスでも世界で2番目のプレーヤーであるという事は、彼の偉大さを真に証明するものだ。それでもなお、生涯グランドスラムを達成するためのハードルは、巨大にそびえ立っている。フェデラーは最近、著名なコーチであるホセ・ヒゲラスの協力を受ける事にした。

スペイン人のヒゲラスは、現役時にトップ5プレーヤーだった。コーチとしては、ジム・クーリエ、マイケル・チャン、トッド・マーチン等のキャリアに助力した。フェデラーがヒゲラスを迎えた事は、フレンチ・オープンで優勝したいという願望だけでなく、彼のゲームを向上させ、潜在能力のすべてを活用するという意欲をも物語っている。

これらすべての変化は、フレンチ・オープンで展開される大いなるドラマをもたらす。ナダルは記録を塗り替えるペースで、史上最高のクレーコートプレーヤーを目指す途上にいて、フェデラーに立ち向かう。これこそがテニス界に必要なものなのだ:2人の偶像的チャンピオンが、最大の舞台の1つでライバル関係となる事が。ローラン・ギャロに注目だ。


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