ニューヨーク・タイムズ
2008年9月2日
サーブ(&ボレー)の復権?
文:Aron Pilhofer


ピート・サンプラスが最後にUSオープンでプレーしてから6年が経った。彼が引退して、これまで何10年間もテニス界を支配してきたスタイルも痕跡を消した。すなわちサーブ&ボレーである。

それ以降、男子のゲームはハードヒットをするベースライン・プレーヤーに支配されてきた。彼らはサービスラインの内側を非武装地帯のように見なす。たまに、最後の手段としてのみ入る地帯と。トップ選手のいずれも、不意打ち的な戦術としてしかサーブ&ボレーをしない。サンプラスやボリス・ベッカーのようなサーブ&ボレーヤーをアイドルにして成長したロジャー・フェデラーでさえ、最近はもっぱらベースライン・プレーヤーとなった。

しかし今年、この失われた技巧はここで少しばかり復活の兆しを見せていると言えるかも知れない。サーブ&ボレーによるポイントの統計を明確にとっているわけではないが、 I.B.M. とUSオープンで統計学の長を務めるレオ・レヴィンもまた、その傾向を感じると語った。

「私はそう思う。今年はわずかばかり上昇傾向がある」と彼は語った。その理由については、レヴィンには確信がない。恐らくコートがいつもより少し速いか、あるいは今年に限った傾向なのかも知れない。しかし今年は、より多くの選手がサーブに続いてネットへと詰め、それをポイントに結びつけている。

アメリカの中堅選手、マーディ・フィッシュを例にとってみよう。彼はここで2回戦を突破した事が一度もなかった。今年はサーブ&ボレーの戦術で準々決勝進出を果たした。69回ネットに詰め――第1セットだけで41回ものマッケンローのようなネットアプローチを見せた――32位のガエル・モンフィスに対して、比較的簡単な3セットで番狂わせの勝利を挙げた。

試合後にフィッシュは、攻撃的な戦略はモンフィスのような粘り強いストローカーに勝つ唯一の方法だと考えた、と語った。

「彼はポイントをできるだけ長くして、相手を根負けさせたがる。僕は彼にそれをさせるつもりはない。ポイントをできる限り短くするつもりだ」

2回戦では、フランスのミカエル・リョドラは97回ネットに詰め、6位のアンディ・マレーをフルセットまで追いつめた。オーストラリアのクリス・グッチオーネは、ビッグサーブと堅実なボレーで第28シードのラデク・ステパネクを第4セットまで押し込み、4セットで65回ネットに詰めた。

今年はその傾向がジュニアへも及んだ。アメリカの予選上がりデヴィン・ブリトンはサーブ&ボレーゲームをする数少ないトップ・ジュニアの1人だが、昨日は3セットで2位のバーナード・トミックを打ち負かした。ブリトンはネットへ詰めて彼にショットを打ち急がせる事で、試合を通じてトミックの強力なパワーを封じ込める事ができたのだ。

「それによって僕は少しアドバンテージを得ていると思う」と彼は試合後に語った。「今日のように、サーブ&ボレーヤーとの対戦を好まない者もいるんだ」

これがローズウォール、マッケンロー、ラフターあるいはサンプラスの攻撃的スタイルへの復帰を示唆しているとは誰も考えていない。彼らのようなプレーをする者でさえも。

最近の選手たちはリターンがとても得意なうえに、ボールを非常に強く叩くので、すべてのサーブでサーブ&ボレーを行う事はできない、とブリトンは語った。

強力なベースライン・ゲームを発明したとも言えるニック・ボロテリーは、さらに直截的だ。「いいや、サーブ&ボレーは戻ってこない。今やそれは一風変わったゲームとなっている」

レヴィンは同意する。今のプレーヤーは皆、ウッド・フレームではなく、現在のハイテク・ラケットを用いて成長してきた。それはサンプラスがゲームの頂点にいた時とも、すでに違っているのだ、と彼は語った。ほんの一世代前のトップ選手でも、この強力な新しい武器の使い方を学ばなければならなかったのに対して、現在の選手たちは初めてテニスコートに立った日からそれを握っていたのだ。

これが男子ゲームにもたらした最大の変化は、驚くべき事にサーブではない。最も優れたサーバーはウッド・ラケットでも時速130マイルを超える事ができた、とレヴィンは語った。新技術のラケットは、最も厳しいサーブでさえペース、正確さ、コントロールを保ってリターンする事を可能にする。これはウッド・フレームではできなかった事である。

「サーブ&ボレーヤーは、対戦相手にコートのある区域へサーブをリターンさせようとしたものだった。もはやそれはできない」とレヴィンは語った。「選手は完全に外れた位置にいても、コート上のどこにでも凄まじいリターンを打つ事ができる。ラケットがとても軽くて強力だからだ」

しかし「チェンジ・オブ・ペース(タイミングを外す)」作戦として、あるいは特定の相手に対しては、サーブ&ボレーは効果がある、と彼は言った。それは今年我々が見ているものの説明となるかも知れない。選手たちが何時間も続けて大砲のようなショットを交わす様に飽き飽きしているファンには、チェンジ・オブ・ペースは実際に歓迎されている。


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