ESPN.com
2008年2月20日
サンプラスにはゲームがあるが、新しい生活に満足している
文:Joel Drucker


この話題が現在ほんの36歳で、2003年に引退を発表した男についてとなると、それをタイムワープだと考えるのは難しい。しかしいろいろな意味で、それがカリフォルニア州サンノゼで月曜日の夜に見られた事実であった。ピート・サンプラスは SAP オープンでトミー・ハースとのエキシビションを行うためコートに現れた。

スタンディング・オベーションで彼を歓迎する8,812人のファンの前で、サンプラスは彼ならではのショットを続けざまに披露し、1時間足らずで手堅い6-4、6-2の勝利を挙げた。唸りを上げるフォアハンド、ジャンピング・スマッシュ、力強く絶妙なボレー、そしてもちろん、恐らく彼が最後の息を引きとるまで強調されるであろう、テニス史で最高とされるクラシックだが特徴的なサービス・モーション。プロツアーを引退した後、3年間ほとんどボールを打っていないとサンプラスは言うが、ストロークの技が世界的選手から失われる事はないのだ。

「かなり良い感じだった」とサンプラスは語った。「僕はたまにしかプレーしないから、自分の調子がどんなだか知るのは興味深かったよ。今でもプレーを楽しんでいる。幾つかのエキシビションでプレーするのは、僕が求めている事だ。体調を保ち、競い合い、何かに集中する事」
サンノゼのエキシビション・マッチでトミー・ハースを6-4、6-2で下し、喜ぶピート・サンプラス。

しかし、この発言を深読みしてはならない。月曜夜の試合の3時間前、廊下に現れたサンプラスはブルージーンに身を包み、SAP オープンの大会ディレクター、ビル・ラップや馴染みの人たちと冗談を交わしながら、トレードマークのしなやかで緩やかな足取りで歩いていた。スポンサーの歓迎会に出席するためサンプラスがエレベーターに向かっていると、1人の見物人がサンプラスの元コーチ、ポール・アナコーンからのアドバイスをもじって冗談を言った。「ピート、君の身体能力を生かすんだ」サンプラスは冗談で返した。「それが僕のすべてだよ」

これは極めてリラックスしたサンプラスだった。月曜夜の試合が終われば、数分のうちに兄でビジネス・パートナーでもあるガスと飛行機に乗り、ビバリーヒルズで待つ家族の元へ帰宅すると承知していた。6年連続ナンバー1の記録を達成するため、ヨーロッパで精力的に戦いながら過ごした1998年の秋を「死ぬほど苦しかった」と認めたサンプラスからは、かけ離れていた。

ハースに勝利した後、サンプラスは観客に向かって冗談で「僕が何をするか言おう。ファンのために戻ってくるよ」と言った。だがそれから、退位を宣言しようとする統治者のように言葉を切り、サンプラスは付け加えた。「僕は引退に満足しているよ。引退から復帰するのは大変な仕事だ」

それが何を意味するか尋ねられて、サンプラスは答えた。「引退から復帰するには理由が必要だ。脚光が恋しい人もいる。お金が必要な人もいる。僕は恋しくないし、お金もある。感情的な決断だったから、僕は辞めたんだ」

最後のコメントは、とりわけ意味深かった。コート上での物静かな態度の下に、サンプラスは深い、そして強力な感情を秘めている。彼のハイライト映像は、「音なし川は水深し、賢者は黙して語らず」という命題が真実だと物語る瞬間で満たされている。「このゲームをするには、人々が考えるよりも激しい感情が必要だ」と彼はかつて語った。「自分のプレー録画を見ると、とても楽にやっているように見える。あれだけ楽そうに見える陰に、どれほどの努力があるかを人々に分かってもらえたらなあ」

最近は、努力に対するサンプラスの熱意は軽いもので、「テニスが僕を焼き尽くす」と描写した日々からはかけ離れている。最もやりたくない事がテニスだという日も多く、その代わりにゴルフ、バスケットボール、恐らく「スポーツセンター」を繰り返し見る事、そして妻で女優のブリジット・ ウィルソンや5歳と2歳になる2人の息子と共に過ごす事を選んでいる。

そして落ち着いた暮らしを送りつつもなお、サンプラスは大方のプロアスリートのように、今でも自分の専門分野を誇示するチャンスを楽しんでいる。この先も途方もない技能を披露し、大いに耳目(そしていささかのドル)を集めるであろう唯一の物事をする事を。「競技場に入ると、今でもプレーしたいと思うよ」とサンプラスは言った。

良きにつけ悪しきにつけ、技術革新から指導法、賞金を稼げる見込みまで、すべてが関わってくる結果として、サンプラスのような攻撃的スタイルは、現在のテニス界ではほとんど見られなくなっている。確かに、前へ出て攻撃するというサンプラスのスタイルは、アジアにおける昨年秋のエキシビション・ツアー3連戦で、ロジャー・フェデラーに首尾良く対抗する助けとなった(コートに関して「今までにプレーしたどんなサーフェスよりも速い、恐らく速すぎた」とサンプラスは言ったが)。
昨年11月のエキシビションで、ピート・サンプラスは現在の世界ナンバー1 ロジャー・フェデラーから7-6(8)、6-4の勝利を挙げた。

この意味では、サンプラスが本格的なプロツアーで再び競う事はほぼ確実にないとしても、彼の攻撃スタイルは確かに、テニス界のトップへ駆け上がろうとする現在、そして未来のプレーヤーが青写真を描く手助けとなり得た――すなわち、もし彼らが、身に付くまでに現在のベースライン・テニスより時間のかかるスタイルを磨くのに必要な、先見性のあるエネルギーを進んで振り向ける気があれば。

フェデラーと過ごす時が増えている中で、最近サンプラスは彼に、なぜもっとネットに出ないのかと尋ねた。2001年ウィンブルドンにおける唯一の対戦でフェデラーがサンプラスを倒した時には、彼はもっとネットに出ていたのだ。「その必要がないからだと彼は答えたよ」とサンプラスは語った。だがサンプラスはこうも付け加えた。現在のプレーヤーは「サーブ&ボレーをして、プレッシャーを掛けてくる相手に慣れていない」と。その声明の裏には無言の主張があった:ライオンは今でも吠えるのだ。少なくとも時には。


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