サンデータイムズ(スリランカ)
2013年5月12日
テニスコートと戦略に関する、サンプラスの唯一の悔い


あらゆるタイプのコートサーフェスで勝つためのストロークと戦術をマスターする事ができるのは、少数の国際的プレーヤーだけだった。それができた少数の者たちは、選手生活で4つすべてのメジャーに優勝する「キャリア・スラム」を成し遂げた。アンドレ・アガシ、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、シュテフィ・グラフ、そしてセレナ・ウィリアムズ等がそれを達成した。しかしマイティ・ピート・サンプラスにとって、「フレンチ・オープン」で優勝しなかった事は「未完成の仕事」であり続ける。現在のヨーロッパ・クレーコート・サーキットは、2013年6月の第1週(実際は5月の最終週)から始まるフレンチ・オープンで終わる事になっている。

デビス・カップでの選択

コートには多くのタイプがある。中でも最も滑りやすいのは「滑石(水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物)と砕いた貝殻」のサーフェスである。その上でプレーするのは「ホリデー・オン・アイス」並みの行為と言える。標準的なサーフェスには芝生、クレー、ハードコートがある。芝生は速くてバウンドが低く、クレーは遅く、バウンドは中くらいである。コードコートは速くてバウンドが高い。初期の室内コートは木製で、最も速かった。ヨーロッパの室内コートの大半は、それらを組み合わせている。デビスカップとフェデレーションカップでは、主催国にサーフェスの選択が許されている。スリランカは常にクレーを選択した。我が国は今なおクレーコートを有する数少ない国の1つである。この選択は、我々に何度も勝利をもたらしてきた。

プレーヤーの分類

プレーヤーの個性は、しばしばコートとの相性から推し量られる。「グラスコート・プレーヤー」「クレーコート・プレーヤー」といった表現が一般的である。同じくコート・サーフェスは、プレーヤーとゲームの進化に主要な役割を果たている。優れたプレーヤーは、1週間でどんなサーフェスにも順応する事ができる。しかしながら、戦術を調整するのは容易ではない。それは挑戦である。

クレーコート

何年も前、スリランカには少数のグラスコートがあった。現在はなくなった。ハードコートも作られてきているが、大半はクレーコートである。元来はアント・ヒル(アリ塚)クレーが使用されていた。太陽の乾燥によく耐え、雨の後に速く乾いたからだ。現在は、恐らくアント・ヒル・クレーが不足しているために、標準的なクレーが使用されている。
ピート・サンプラスにとって、「フレンチ・オープン」で優勝しなかった事は「未完成の仕事」であり続ける。

ヨーロッパのクレーコートは、砕いた焼きレンガである。クレーは快適で、身体に悪影響を与えない。すべてのサーフェスの中で最も遅い。ラリーが長く続き、ウィナーは滅多に生まれない。グラウンドストロークがクレーコートのゲームを支配するのだ。クレーはバウンドによってボールに多くの変化を誘発する;スピードを大幅に落とし、縦方向、そして横方向に弾道を変える事ができる。3人のウィンブルドン・チャンピオン、ピート・サンプラス、ゴラン・イワニセビッチ、ボリス・ベッカーも、クレーではビッグサーブによる優位性をほとんど得る事がなかった。クレーは弾道をはなはだしく変化させるスピンの効果を強め、プレーを難しくする。先週に行われたスペイン人同士によるバルセロナ大会決勝戦では、ナダルがクレーにおける効果的なスピンを用いて、ニコラス・アルマグロはその犠牲者となった。

クレーコートで勝利する事

クレーでのプレーの基本は、グラウンドストロークである。遅いサーフェスであるクレーでのネットゲームには、スライスのアプローチショットと組み合わせた特別なセット - ボレーが必要とされる。それは現在、ほとんど博物館の陳列品並みに貴重な技である。近年では、ローアン・ド・シルバはクレーで最も優れたネットゲームを持っていた。元デビスカップ・プレーヤーでコーチの D.D.N. セルバデュライは、ネットでポイントの大半を得た。テニスサークルではD.D.N の愛称で知られるセルバデュライは、オーストラリアの認可で1960年代にスリランカでテニスを指導した。彼の「チップ&チャージ」と組み合わせたネットプレーの奨励は、今なお地元のテニスサークルで語り継がれている。

我が国のプレーヤーが国際的な成功を収めるには、ネットプレーを必要とする。アジア人の体格では、グラウンドストロークで国際テニスに取り組む資質に欠けるのだ。ゲームの戦術をまとめる時には、1ゲームで2回ネットでの応酬をし、そしてサーブで1ポイントを勝ち取るトレーニングをしよう。これにより、勝利のチャンスが50パーセント増すだろう。クレーコート・ゲームの向上は、オールラウンド・プレーヤーに最適である。

グラスコート・ゲーム

現在、ほぼすべてのグラスコート大会はイギリスで開催されている。「膝を曲げる事」は、グラスコートの低いバウンドに慣れるための基本的指導項目になっている。芝生での理想的なゲームはネットプレーである。それはビッグサーブ、アプローチボレー、そして1〜2回の決めるボレーを意味する。戦術的に、ボレーはラリーをする必要がない。

元来の芝生は非常に速く、かつ不規則なバウンドが多く、パッシングショットは悪夢のように困難だった。ウィンブルドンは特別な芝生の開発に成功し、ゲームを遅くさせた。そしてスペイン人でもタイトルを勝ち取れるほど遅くなっている。インドのカルカッタ・サウス・クラブには、アジア最高のグラスコートがある。3世代の間に、そのクラブから多くのプレーヤーがウィンブルドンへと向かった。ナレシュ・クマール(1928年生まれ)、ジャイディープ・ ムケールジア(1942年生まれ)、プレムジット・ラル(1940年生まれ)、アクサール・アリ(1939年生まれ)等は、すべてカルカッタ出身である。

ハードコート

ハードコートのコンクリート基礎は、ボールのバウンドを高くする。結果として、ボールを捕らえるのは大半が目の高さになる。これに適応するため、プレーヤーはフルもしくはセミ・ウェスタンのグリップを用いる。同じくスウィングは短くなり、身体に巻き付けるように回転する。ストロークにはヘビースピンが掛かる。ハードコートではバウンドによるスピードの減少がない。力のこもったウィナーを狙いやすく、見る者にワクワクするような興奮を与える。

ハードコートには好ましくない一面がある。コートのコンクリート基礎には、他のサーフェスのような「クッション効果」がないのだ。これは身体全体を痛めつける。ストレッチがこの問題の解決方法と考えられている。望ましいストレッチは1時間程度のルーティンだが、それをこなす者はほとんどいない。ハードコートでのセッションゆえに、大選手の中にも腰にコルセットをし、膝、そして肘にさえ、人工関節置換手術を受けた者もいた。バンガロール(インド南部カルナタカ州の州都)では、古参のアマチュア・プレーヤーは50歳でテニスを断念している。ハードコートが肉体に及ぼす影響のためである。ハードコートは維持が簡単なので、コート製造業者はこのゆゆしい状況を変える解決法を模索している。一方で、優れたプレーヤーはハードコートのスケジュールを最小限に抑えている。結局のところ、金属製の腰骨など欲する者がいるだろうか?

コートと戦術

戦術はコートに適したものでなければならない。コートは筋肉運動の協調、タイミング、反応時間に影響を与える。コートサーフェスは気温や風に敏感である。それらの事は、勝つために戦術として活用できる特徴の一部と考えられる。


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