ニューヨーク・タイムズ
2013年6月8日
ゲームの100パーセントは半ば精神的なものである
文:GEOFF MACDONALD


私は金曜日に行われたフレンチ・オープン男子準決勝で、愛すべきカリスマ的なフランス人、ジョー - ウィルフライ・ツォンガがデビッド・フェレと対戦するのを見ながら、アレン・フォックスの書いた小さな素晴らしい記事の事を考えていた。アレンは元ペパーダイン大学男子テニス部のコーチで、最高レベルのプレーをし、高名なスポーツ心理学者になっていた。フォックスはパトリック・ラフターとピート・サンプラスが対戦した2000年ウィンブルドン決勝戦について、詳しく述べている。フォックスの記事すべてのように、テニスが露呈するつらく痛ましい真実は、解剖を待ち受けている死体のように横たえられている。フォックスは各々のプレーヤーがスコア―――そしてスコアに関連する彼らの感情―――に、どのようにプレーするか、さらに重要な事だが、試合で競い合う時のモチベーション・レベルをどのように影響させておくか、という事について述べている。

フォックスからすれば、彼らの反応すべてはあまりにも人間的だが、より冷静な見地から見れば、さほど理性的ではなかった。第1セットを落とし、第2のセットのタイブレークで先行されていた時、サンプラスは落胆した表情を浮かべ、そしてラフターが気迫のこもったプレーで4-1アップとすると、緊張しているように見えた。しかしそこでラフターはダブルフォールトを犯し、続いてなんでもないボレーをミスし、サンプラスが試合に戻るのを許してしまった。第2セットの後、ラフターは元に戻らなかった。まるで彼が勝つ唯一のチャンスは、サンプラスに対して2セットアップとする事であったかのように。

フォックスによれば、両プレーヤーともに、スコアに彼らのプレーを影響させたのだった。「我々はこの事から何を学べるか? 第一に、ラフターとサンプラスは双方とも、試合のスコアにモチベーション・レベルを影響させるという誘惑に屈したのだ。成り行きが不利になった時、彼らは双方とも自身の闘争心に水を浴びせられる経験をした。サンプラスは自分を奮い立たせるために、対戦相手がぐらつく事を必要とした。ラフターは第2セットを取り損ねた時、弱気になった。ある時間帯、双方とも実力の100パーセント以下で戦っていたのだ」

私はツォンガが緊迫した第2セットを失うのを見ながら、この事を考えていた。彼はフェレのサーブでセットポイントを握ったが、バックハンド・リターンをミスし、6インチほど長くなってしまった。そのままフェレは、タイブレークの末に第2セットを勝ち取った。ツォンガはいまや2セット・ダウンとなり、外観上は克服できないリードを取られてしまったようだった。しかしトミー・ロブレドは今年のフレンチ・オープンで、3試合連続で2セット・ダウンから勝利したのだ。彼は何を考えていたのだろうか?

その答えは、フォックスによれば、ロブレドは―――すべての素晴らしい競技者のように―――直面した逆境に対する自分自身の対応を選択する力を持っている、と認識していたのだ。そして2セット・ダウンの劣勢に立った時、どう戦うかについて自身の決断を断念しまいとしたのだ。対照的にツォンガは、満足のいく品位ある態度で負けるためフェレに協力する事で、ある意味では全くもって合理的(そして人間的すぎる)に振る舞った。しかしツォンガの決断は合理的だったのだろうか? フォックスはノーと言うだろう。ツォンガの振る舞いは不合理だった、と。それについて考えてみよう:まさに互角の戦いの中でセットポイントを握ったが、タイブレークでそのセットを失った。ゲームのその時点では、そう、恐らくカリカリしているだろう。しかしテニスは独特なスコアリング方式なので、すぐにすべてを取り戻さなくてもよいのだ。各ポイント、各ゲームに集中する事ができ、そして多分、第3セットを勝ち取る事で、試合に入り直す事ができるだろう。

しかしフォックスが示唆している事は難しい;実際は、それがトップ5と他のプレーヤーを分けるものなのかも知れない。フォックスは指摘する。トップのプレーヤーとは、状況の意味するところを楽天的な態度で受け入れ、その場に踏み留まる名人なのであって、それ以上でも以下でもない、と。「彼らは劣勢にあっても、それが自身を落胆させ、弱気にする事を許さなかったのだ。彼らはスコアで遅れを取った時でも、プレーの出来は低下しなかった。それどころか、むしろさらにタフになった。彼らは、次のポイントを勝ち取る最大のチャンスが常にある、という事を確かなものにするために、自身の精神的・感情的な状態を確実にコントロールした。この自己コントロールを働かせて、スコアに影響されて己の決然とした心構えが崩れる事を許さなかったのだ。それを許すとは、本来コントロールできるきわめて重要なパフォーマンス要素のコントロールを断念する、という事だろう。真に偉大な競技者で、これを許す者はいない」

ツォンガは第2セットを勝ち取る1チャンスの後、フェレを打ち負かすチャンスを手放してしまった。ゲームのトップグループへと昇っていくためには、彼はメンタルに対する取り組み方を深めなければならない。彼はボールを打つ事ができ、良いプレーをする事ができる。しかし目的と献身をもって各ポイントをプレーするという意志を持っているだろうか? もしあれば、彼は大試合で自身を傷つけた甘いエラーを止める事ができる。フォックスが書いているように「もし100パーセントやる気満々で、感情的なバランスが取れ、そして完全に集中しているなら、つまらないエラーを犯す事はなくなるだろう」


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