ESPN テニス
2012年8月30日
2012年USオープン:若いプレーヤーが長く待つ理由
文:Kamakshi Tandon


ニューヨーク―――若いテニスプレーヤーである事は、以前とは違っている。1990年、ミロシュ・ラオニッチが生まれる数カ月前に、ピート・サンプラスは19歳でUSオープンに優勝した。それは10代の選手がグランドスラムに優勝した連続4回目の年だった―――マイケル・チャンは17歳で1989年フレンチ・オープンに優勝し、ボリス・ベッカーも同じく17歳で1987年にウィンブルドン・タイトルを獲得し、1988年にはタイトルを防衛したのだ。

2000年、彼のヒーローがUSオープンで20歳のマラト・サフィンに打ち負かされた時、 ラオニッチは10歳の直前で、すでにサンプラスの最大のファンの1人になっていた。次の年、サンプラスは再びもう1人の20歳の選手、レイトン・ヒューイットに敗れた。2005年には、19歳のラファエル・ナダルが初のフレンチ・オープン・タイトルを獲得した。

現在、ラオニッチは21歳だが、今年のUSオープンではタイトルを狙う競争者というよりは、今なお売り出し中の若手と見なされていた。カナダのラオニッチが同世代に遅れをとっている訳ではない―――実際、19歳のバーナード・トミック、21歳のグリゴール・ディミトロフ、20歳のライアン・ハリソン等を含む注目株の有望選手たちの中で、彼は最も高いランクに付けているのだ。

バーナード・トミックのような若手は、次代のフェデラーあるいはジョコビッチになる事を夢見ている。しかし、その夢は待たなければならない。
2週目に残る事は、彼らのいずれにとっても上出来と見なされるだろう。優勝するという発想は、およそありそうもない。第16シードのラオニッチは1回戦で敗退しそうになったが、なんとか5セットで切り抜けた。

彼らが初めてラケットを手にして、(さほど)遠くない未来に彼ら自身がトロフィを掲げる姿を想像し始めた頃、事態はこのようではなかった。しかし頂点への道のりは、現在ではずっと長いのだ。そしてロジャー・フェデラー、ナダル、ジョコビッチの支配は、若い世代がその期待を再調整しなければならなかった事を意味する。

「僕は子供の頃、19歳でグランドスラムに優勝できると考えるのが好きだった。だがこれらの男が現われて僕の楽しみをダメにするとは、つゆほども知らなかったよ」と、この夏トミックは悲しそうに語った。「つまり10年前なら、トップ20にいる誰もがグランドスラムで優勝する事もできただろう」

確かにその3人は、他の選手たちのチャンスを減らしてはきたが、この期間にはまた、ATP ツアーで一般的に選手の高年齢化が見られる。以前よりもずっと多くのプレーヤーが強さを維持し、20代後半、あるいは30歳を過ぎてさえ、キャリア最高に到達しているのだ。かつてはプロテニスプレーヤーが引退する年齢と考えられていた時期にだ。そして頭角を現すためには、より時が必要になっている。トミックは、USオープンで本戦ドローにダイレクト・インした唯一の10代選手だった。

その傾向は WTA 女子ツアーでも見る事ができる。かつては大成功を収める若い選手がたくさんいたが、現在はベテランがひしめき合い、20代前半より前に、グランドスラムで好結果を出しているプレーヤーはほとんどいないのだ。

なぜこういう事が起こったかについては、一致した見解がある。

「ゲームは以前よりずっと肉体的に厳しくなっていると思う」とハリソンは今週、ジョン・アイズナー、アンディ・ロディック、アンディ・マレー等の言葉に同調して語った。「かつてはコートスピードがとても速く、ボールも速く、そして誰もがより攻撃的なスタイルでプレーしていたから、現在よりは肉体的消耗が少なかった。その違いがもっと時を要するようになった理由だ。1つの勝利を挙げられるという事だけではないからね。大会で勝ち進むためには、次々と試合に勝ち続け、なおかつ肉体が持ちこたえなければならないんだ。その背後には多くのトレーニングがある。だから、少し時が必要なんだ」

「現在はショット・メイキングだけでなく、動き方やその他の事柄も関わってくる」とロディックは語った。

つまりそれは、若いプレーヤーは単に野心の行程表を変更するだけでなく、ある場合には自分のゲームを改造する必要もある事を意味した。

「僕はジュニアの頃、常にサーブ&ボレーをしていた」とハリソンは語った。「今はもう、それだけをする事はできない。ゲームが変わってきたからだ。その調整が、僕がしなければならなかった事だ―――12、13、14歳の頃から」

「現在のポイントの組み立て方は、10年、15年前とは少し違うんだ」

そこで、世代交代への監視は続く。

ホアン・マルティン・デル・ポトロ、マリン・チリッチ、エルネスト・グルビス、錦織圭のような、より結果を出してきた若手でさえ、進化への努力は進行中である。そしてデル・ポトロの2009年USオープン優勝は、現在まで彼らの世代における唯一の勝利である。

その大部分について、彼らは努力して時機を窺う方を好み、不平を言ったりはしないできた。

「そういう事については、あまり考えてこなかったよ」とラオニッチは語った。「それがスポーツというもので、様々な事が起こるが、あまりに多くの事に対しては制御できないと理解している。いつ良いプレーをするようになるか、いつ本当にすべてがうまくまとまるかなんて、分からないよ」

彼らはとても辛抱強い。なぜなら少しの間、待たねばならないかも知れないからだ。しかし、この世代が子供時代に目撃した早熟なチャンピオン達を見習う事はできなかったとしても、フェデラー、ナダル、ジョコビッチが頂点へと上り詰め、そこに留まり続けてきた様を見る事は、確かに彼らが描くべきインスピレーションには事欠かない事を意味しているのだ。「もし僕が現在のトップ3のように進歩すれば、将来にはチャンスがあると思う」とトミックは語った。

キャリアがより長くなる中では、そのチャンスも少し長く続くかも知れない。若いプレーヤー達も年齢を重ねているかも知れないが、少なくとも彼らには、まだたくさんの時間があるのだ。


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