カンバセーション
2012年1月13日
オーストラリアン・オープン:時速200キロのサーブを返すのは容易い。方法を
知っていれば(確実にではないが)

文:Damian Farrow

昨年のオーストラリアン・オープン女子準優勝のリー・ナは、今週のシドニー・インターナショナル大会に出場。

夏のオーストラリアのテニスは、世界トップの選手たちが強打し、ビッグサーブを放つ姿を間近で見る大いなる機会である。多くのエリート選手は、時速200キロを超えるファーストサーブを素晴らしい精度で多大なスピンをかけて放つ。

しかし時速200キロのサーブは、ボールの飛び方を判断し、良いタイミングのリターンを生み出すための時間を3分の1秒しか相手に与えないのだ。それでは、我々の大半が目で捉える事さえできないようなボールを、プロはどうやって返球しているのだろうか?

瞬きすると見のがす

サーブとリターンの攻防を解明する事は、長年にわたってスポーツ科学者の関心事だった。予測能力の研究は、サーブが放たれる前に、あらかじめレシーバーがその方向を決定するためにどんな情報を利用できるかに集中してきた。

それは熟練したプレーヤーがサービスの方向を予測するために、状況による可能性―――スコアと関連するサーバーの好みに基づいた戦術的な情報―――と、サーバーのテクニックによる生体力学的な要素の双方を利用している事を示している。

熟練したプレーヤーは戦術的パターンに明敏で、特定の状況で起こりそうな事を把握しているので、リターンの準備に余裕が得られる。

例えば、ビデオ画面の仮想試合をテニスプレーヤーに見せる最近の実験では、各ゲームの最初のポイントでファーストサーブが打たれる場所を常に同じに設定した。

熟練したプレーヤーは、第1セットの終わりまでにはこのパターンに気づく事ができた。対照的に、未熟なプレーヤーはこのパターンを見抜く事ができなかった。この情報に気づく事で、熟練したプレーヤーはトスアップがなされる前でさえ、リターンの準備が可能になるのだ。

生体力学的戦術

これらの戦術的な確率を利用する事は、プロ選手のコメントによって補強される。例えばジャスティン・ギメルストブは、アンディ・ロディックが過去の試合でアンディ・マレーをどのように破ったか推測している。「過去に彼は、アドサイドではセンターへのサーブに依存しすぎていた。昨日は打つ方向を様々にする事で、最高のリターナーの1人を面食らわせ続けた。その事によって、アドサイドで彼の大好きなセンターへのサーブを―――必要な時に―――活かし、フリーポイントを得る事もできたのだ」

サーバーの動きにかかわる生体力学的な要素が、いかに予測の情報を提供する場合があるかを理解するため、レシーバーがリターンの選択を迫られる前にサービスモーションをどれだけ見るか制御すべく、科学者は今までにない手法を採用した。

起こる前に悟る

例えば、サーバーの動きの視覚映像を提供する特製のゴーグルを使用する事で、レシーバーはラケットとボールが接触するところまではサービスモーションを見られるが、ボールの飛び方は見えないようにする。あるいはさらに難しくして、ボールがトスの頂点に達する時点で、レシーバーの視野は隠されるようにする。

この手法を支える論理は、次の通りである。これらの限定された視覚条件で、もしサービスリターンの予測が推測レベルより上に維持されうるのなら、プレーヤーはサービスの結果を予測できる有用な情報を手掛かりとしているに違いない。

研究は一貫して、熟練したプレーヤーはサーブが実際に放たれるおよそ10分の3秒前に、サービスの方向を正確に予測できるという事を明らかにしていたのだ!
ノバク・ジョコビッチのようなトップ選手たちは、目を閉じていてはボールを返球できない―――が、それに近いところまでは達する。

この調査結果は、熟練したプレーヤーはサービスモーションの手順に基づいて、ボールがどこに打たれるかを分析できるという事を示唆している。例えば、ボールトスの位置、あるいは高さ、そしてボールに向かって振り下ろされるラケットの角度などは、最も有益な情報となるようだ。

ピート・サンプラスはトスを上げた時点でボールをどこに打つべきか決める事によって、サーブを読まれないすべを学んだ。
サーブを隠す

ボールがラケットから放たれる前に、これらの要素が首尾よく現れると、レシーバーにリターンの準備を整える時間を多く提供する。対照的に、未熟なプレーヤーはボールの飛び方に関する情報に依存しているため、必然的に適切なリターンを準備する時間はほとんど残されていない。このような例の最終結果は「エースを打たれる」か、せいぜいでも慌てたリターンにしかならない。

驚くにはあたらないが、プロテニスにおける最高のサーバー達は、これらの手掛かりを隠す事によって、相手の一歩先を行く。有名な話だが、ピート・サンプラスのコーチはトレーニングの最中、ピートがトスを上げた瞬間に、どんなサーブを打つか指示したものだった。このようなトレーニングの結果、彼のサービスモーションは常に同じで、レシーバーに予測の情報をほとんど提供しなかったのだ。

そして、レシーバーと研究者にとっての挑戦は続くのである。


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