ニューヨーク・タイムズ
2011年3月28日
引退して、サンプラスはバランスを求める
文:CHRISTOPHER CLAREY


14のグランドスラム・シングルス・タイトルを獲得したピート・サンプラスは、2003年に公式に引退した。しかし最近は、プレーに対する関心を大いに見せ、先月マジソン・スクエア・ガーデンで行われたアンドレ・アガシ戦を含めて、合衆国でエキシビションに参加してきた。また、チューリッヒでシニア大会にも出場した。さらに9月と10月には、アガシ、ジム・クーリエ、ジョン・マッケンロー等と共に合衆国の12都市を巡るツアーに参加する契約を交わした。

サンプラスは8月に40歳を迎えるが、先週インタビューで語った。ここにインタビューからの抜粋を紹介する。

Q. あなたはかなり真剣にプレーしてきた、あるいは少なくとも練習してきたようですが。インディアンウェルズ大会の前には、ロジャー・フェデラーと一緒にトレーニングしましたね。

A.
我々は親しい友人で、2時間ほどヒッティングをしたんだ。外に出て精力的にやるのは、いつだって楽しいよ。たくさんはしたくないが、彼がそばにいて、そして彼が誰であるかを考えれば、決まり悪い思いはしたくないし、幾分は競い合いたかった。僕はそうしたと思うよ。

それは楽しみなんだ。年齢を重ねるにつれて、厳しくなってくるけどね。以前のようには動けないし、長もちもしないが、立ってヒッティングをする事、それは今でもかなり上手くやるよ。

Q. 人生のこの段階で、ゲームがあなたに与える楽しさとはどんなものですか?

A.
それは僕が自宅にいる時、バランスを与えてくれる。僕はゴルフが好きだ。子供たちや妻と過ごすのも好きだ。だが同時に、働く必要もある。一日の終わりに、自分自身が何かをしたと感じる必要がある。だから少しばかりヒッティングをするのは、僕にとって良い事なんだ。体調を保たせてくれるし、少しばかり集中を保たせてくれる。毎日する必要がある訳ではないが。だが試合を控えている時には、1日おきに1時間か1時間半くらいヒッティングをして、それから臨む。それとジムでもトレーニングに取り組む。

プレーをやめた時、引退した時、2年間は何もしなかった。それから少し落ち着かなくなっていると感じたんだ。多分少し退屈したんだろう。それで何かをする必要があると感じて、少しヒッティングをする事にしたんだ。この何年間か、それは僕に良いバランスを与えてくれた。たくさんプレーする気はないが、1年に1ダースくらいの試合なら、ハッピーだよ。数カ月ごとに海外へ行くとしても問題ない。あちこちで数ドルを稼ぐのも、いいものだよ。

Q. あなたがまだ現役だった頃に話し合ったと記憶しています。引退しても、基本的には再び働く必要がないと承知している事、そして30歳の時にはすでに、自分に必要なものと家族に必要なものに気を配っていた事をです。現在は日常的に、それをありがたい事だと感じますか?

A.
僕は自分の人生で何をしたいかについて、完全にコントロールしていて、39歳の今、それは恵まれた立場だ。同時に、子供時代とプレーをしてきた年月には、確かに多くの犠牲も払っていた。引退したらしたい事を選択できると分かっていたから、犠牲もいとわなかったんだ。そして今は人生でも本当に心地よい状態にある。息子たちと多くの時を過ごし、平日に彼らを公園に連れていく事もできる。たいていの男性は8時から6時まで働いているのにね。

Q. 先月にニューヨークでしたような試合、あるいはこの秋のツアーのような時には、誰と連絡を取りますか? ガーデンを見回す時、スタンドに誰の姿を見つけますか?

A.
実を言うと、僕はもっと上の世代と話をしている。面白いね。僕は UCLA に入学する少年とヒッティングをしていたが、彼は僕のプレーを見た事がないんだ。僕は「うわあ、君は僕がプレーするのを見てないんだ」ってところだ。彼がそう言うのを聞くのは奇妙な感じだった。彼は「私は YouTube でしかあなたを見た事がありませんでした」と言ったんだよ。

Q. 男子ゲームの現状に関して、どう捉えていますか? ノバク・ジョコビッチは無敗のスタートを切っています。ナダルとフェデラーが勝利をほしいままにしていた時代は終わったように見えます。あなたはそう見ていますか?

A.
終わったとは思わないよ。以前ほど頻繁ではないかも知れないが。4人の男、フアン・マルティン・デル・ポトロを加えて5人の男がいると今でも考えている。それが本当に圧倒的な選手たちで、それぞれ状況によるのだと思う。今のところ、確かにジョコビッチが抜け出していると思う。だが僕は今でもロジャーとラファに注目しているし、彼らはもう何回かメジャーの決勝戦でとても良いプレーができるだろうと考えている。誰が良いプレーをしているかによるんだ。本当に偉大な選手は、ほんの一握りだ。

Q. ニューヨークで17,000人の観客を前にして、再びアンドレと対戦するのは少し不安だとあなたは言いました。なぜですか?

A.
ああいった雰囲気の中での対戦はそれほど多くない。そして我々は1990年代には素晴らしいプレーをしたとはいえ、かつてのようにシャープさを保ち、ショットをうまく打つのは難しくなっている。さらに、電気が走るような雰囲気に対処するのは、それに対して何をすべきか判断するのは、常に簡単という訳でもないんだ。だが我々はかなりうまく対処したと思うし、ファンは良い試合を楽しんだと思う。だから素晴らしい夜だったよ。

Q. 私が考えるに、あなた自身が競い合う時の不安に近い唯一のものは、あなたの子供たちが競うのを見る事ではないでしょうか。何かそれに近いものは他にありましたか?

A.
子供たちについてだね。8歳の息子は、テニスとは別の事に関わり始めている。彼は2年生のクラスと親全員の前で話をしなければならない機会があった。そして僕は、彼が人々の前で話さなければならないという事に緊張して、うまくやるよう切に望んだ。息子に同情したよ。それは恐ろしい事で、そういった時というものがある。そして彼が成長するにつれて、何かスポーツに取り組むようになってくれるだろう。僕は彼が競うのを見て、その不安なプレッシャーを感じるだろう。それが、僕の親が決して僕のプレーを見なかった理由だ。彼らは見守る事に耐えられなかったんだ。

Q. フェデラーは29歳で、現在はあなたのキャリア後半と似たような立場にいます。彼と一緒の時、直面する試練について話をしましたか、それとも仕事の話はしませんでしたか?

A.
あまり仕事の話はしなかったが、彼は今でもやる気があるという印象を受けた。彼が昨秋にした事を見てごらんよ。ストックホルムへも行き、多くの大会に出場した。彼はあれだけの事を成し遂げたが、今でも毎週のようにプレーしている。同じ29歳でも、その頃の僕よりも彼はずっと若々しい事に驚いているよ。僕はもう少し消耗を感じていた。それが大きな違いであり、彼は何年もの間、競い合う事ができると思う。

Q. 何年もですか? 本当に?

A.
ロジャーがプレーを望む限り可能だと思う。その間は、彼は競い合うだろう。僕は2年間、大会優勝がなかった時、ずっと大きな下降を感じていた。そして毎週のように苦闘していた。モチベーションを持っていなかった。ロジャーは僕が同じ段階にいた時よりもハングリーで、意欲があると思う。もちろん、より進歩してきた選手たちとも相対しているが、彼はうまくやるだろう。ウィンブルドンとUSオープンならば、僕は今でも彼を優勝候補と見ているよ。フレンチは少し望みが薄いかも知れないが、今でもいいところまで行くと思う。何年も何年も、世界最高の選手であり続ける事は難しいものだ。自分のレベルは同じでも、他の選手が進歩してくるんだ。ナダルがそうだった。そして今はジョコビッチだ。だから興味深い1年になるだろうね。

Q. 今年ジョコビッチはフェデラーに3回勝っていますが、見ましたか? もし見たなら、どんな印象を受けましたか?

A.
インディアンウェルズを少しだけ見た。ジョコビッチの動きは恐らくテニス界でも最高に優れているように思えた。そして彼はたくさんのボールを返球し、ロジャーは少しばかり押されているようだ。もし彼のフォアハンドが少し不調だと、いささかミスをするだろう。

Q. 多くの選手がとても優れた動きをしますが、ジョコビッチは守備の時にベースラインで非常に堅固です。

A.
まったくね。信じがたいほどだよ。彼は少し前よりでプレーし、あのバックハンドを持っている。そしてスライディングが素晴らしい、特にハードコートで。ボールを打って、体勢を立て直し、そしてそのボールで何か仕掛ける事が可能だ。彼に対してウィナーを取るのは難しそうだ。ロジャーもナダルも素晴らしい動きをするが、ジョコビッチは特にこの数カ月で、身体的により強くなったようだ。あるいは彼が何をしたのか、僕が知らないだけかも知れない。彼は誰よりもうまくボールに追いつき、そして立て直しているように見えるよ。もちろん彼は非常に強いが、運動能力も優れていて、バックハンドをコーナー深くに打ち、その間に攻撃的なポジションに戻る事ができる。アンドレも素晴らしいバックハンドを持っていたが、動きはジョコビッチに及ばなかった。ジョコビッチはボールに追いついて何かを仕掛ける事ができるんだ。

Q. あなたとアンドレは常に異なっていました。自叙伝のまとめ方が異なっているのも印象的でした:彼のは内面を赤裸々に明かし、あなたのは節度を保ち、おおかた典型的なサンプラス調でした。

A.
発行元と話し合った時に、僕は言ったんだ。「表に出さない方が良い事もある。そして僕は私生活の中で多くの事を経験してきたが、そういう事は非公開のままにしておくつもりだ。僕はただテニスに関する本を、そして僕がどうやってきたか、経験を書きたい」と。そしてクラシックな本を書く事が、まさに僕の目標だった。たくさんの金をもうけようとは考えていなかった。もちろん、人々に買ってもらいたいと思ったよ。だが僕のゴールは、息子たちが読んで、父親をより理解する本、いつの時代にも有効な真実である本を作る事だった。確かにアンドレの本―――僕は読んでいないが―――は、もっと赤裸々で個人的なものだった。それは我々が何を語りたいかを反映しているんだ。様々な面で僕はよりプライベートを保ち、彼はもっとオープンだが、それでオーケイだよ。だがそれは適切な比較だ。人々は個人的な事や何を経験してきたか知りたがるものだから、彼の本をより興味深いと見なすかも知れないね。そして僕は常に、自分がプライベートな男だと感じていた。あなたは僕が19歳の頃から、僕を知っている。僕はそういった事は内に秘めてきた。それが僕の育てられ方だ。僕の性格だ。他の方法は知らないんだ。

Q. ケチと呼ばれるのは、愉快な筈がありませんよね。あなたは長年、恐らく誰も知らないところでチャリティに取り組んできました。

A.
まあ、僕はある晩ベガスで彼のチャリティのために70,000ドルを払ったよ。ケチ騒動については、多分アンドレはそれを書いたりしたのを後悔しているだろう。だが僕には全く理解できない事だった。僕が20歳だった頃の1回の出来事で、訳が分からないよ。大して意味がなかった。だがかまわない。重要な事柄ではないよ。

Q. 元コーチのポール・アナコーンがフェデラーと共に働いている今、彼との絆が強くなったと感じますか?

A.
ポールはロジャーのために良い仕事をし、彼に手を貸そうとしていると思う。そしてロジャーが彼を連れてきたのは適切な決断だった。その事が確かに、ロジャーと僕をより近づけたと思う。我々は同じコーチを持ち、そして彼はポールとの仕事にとても満足しているようだ。

Q. あなた方は確かに、ポールが将来に書く本のセールスに手を貸していますね。

A.
(笑い)僕は「ポール、君はここからどこへ向かうの? 君は僕を手に入れ、そして今度はロジャーを手に入れた。ロジャーが引退したら、君は何をするつもり?」って感じだったよ。ポールは高潔な人間だ。自分が幸運である事を承知している。だが彼は優れたコーチで、ゲームに精通している。そして、多くの異なった運動選手と共に働く事のできる人格を備えている。だから、とても順調にやってきたんだよ。


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