リアル・クリア・スポーツ
2011年1月23日
サンプラスの21世紀版が登場
文:Tim Joyce


1990年USオープン当時、サンプラスは第12シードだったが、一見どこからともなく現れて、イワン・レンドル、ジョン・マッケンロー、そして彼の過去と未来のスパーリング・パートナー、アンドレ・アガシを破り、14グランドスラム・タイトルの1つ目を獲得したのだった。その2週間におけるサンプラスのプレーは、テニス界の新時代の始まりとして、今でも語り草になっている。なぜならここにいたのは、1950年代・60年代のクラシックなサーブ&ボレー・ゲームに驚異的なパワーを融合し、それ以降のゲームを定義した男だったからだ。

時速120マイル以上のサーブ―――今でこそ男子トップ選手には平均値だが―――を当たり前のように放ち、流れるようなグラウンドストローク、正確なボレー、お手本のようなコートでの動き、リラックスした気性でパックアップする―――サンプラスは近代に目撃されてきた完全なパッケージそのものだった。アガシ少年が注目の的だった当時、サンプラスは目先のきく評論家にさえ無視されてきたが、一夜にしてテニスを変えたかに見えた。

彼が自分の輝かしい可能性を充分に実感するには、さらに2年半の時を要する事になったが、スターは誕生していたのだった。

これは明らかに、通常の過程とは正反対である。次代の偉大な選手は誰になるか、という見きわめに関しては、通常はほとんど意外性がない。現在のトップ選手2人、ラファエル・ナダルとロジャー・フェデラーを取り上げてみよう。両者とも10代後半から高い評価を受け、いずれナンバー1の座に就くと多くの人間が予想していた。

ナダル、フェデラーのすぐ後ろにいる選手たち―――ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マーレー、ホアン・マルティン・デル・ポトロ―――も、トップ10入りする前から、過大とも言える期待を寄せられていた。

私は、将来のスターを生み出す企画には、さらなる驚きが残っているのだろうかと疑問を感じたりもする。予測・予言のゲームは、スポーツ文化に組み込まれた一部である。自分が途方もない予想をしたと知らしめるためだけに、誰もが変わった、あるいは馬鹿げた予想を思い付こうとしているように見える。それは単なる憶測であり、怠惰で面白みのない習慣だ。

今なおフットボールには驚きのドラフト選手(トム・ブレイディーは199番目の選出選手だった)がいて、野球には予想外のチーム(昨シーズンのジャイアンツ)があるにはある。しかし個人スポーツでは、どのチームに所属するかといった不確定要素ははるかに少なく、どの選手が将来に最も活躍するかの予測には、より高い確実性があるのだ。

サンプラスに話を戻そう。彼の衝撃的な登場以降、同じくらい突然、あるいは畏敬の念を起こさせるような選手の出現はなかった。しかし土曜日のオーストラリアン・オープンの後、この見解には異議を唱えられるかも知れない。ミロス・ラオニックという1人の選手、彼は確かに男子テニスの未来だと私に確信させたのだ。

6フィート5インチのラオニックはモンテネグロ生まれで、過去20年、バルト海諸国から選手が輩出してきた顕著な傾向は続いている。3歳の時にカナダへと移住し、現在はスペインでトレーニングしている。そしてこれまでのところ、彼はオーストラリアン・オープン男子サイドの話題となっている。

ひょろっとした世界ランク152位のラオニックは、マイケル・リョドラ、ミハエル・ユーズニーという2人のシード選手を破り、日曜日の夜(オーストラリア時間では月曜日)には第7シードのデビッド・フェレと対戦する。もしラオニックがフェレを破るような事があれば、準々決勝で待ち受けているのは恐らくナダルである。

それは20歳のラオニックが、2つの見事な勝利を生み出したというだけではない。見る者の心を捉えているのは、彼のプレーぶりである。彼のプレーレベルは、まさにサンプラスのようなのだ。

「僕は彼の試合をすべてビデオテープに録画していた」と、昨年ラオニックはサンプラスについて語っていた。

ラオニックが素速く学習したのは疑いない。ボディ・ランゲージ―――より背が高く、さらに猫背のバージョン―――とサービス・モーションは、薄気味悪いほどサンプラスに似ている。足は特に速くは見えないが、ラオニックは優れたコートカバー力を持ち、易々とネットに詰める。そして、サーブのパワーがある。恐ろしいほど効果的なパワーが。

もちろん、多くの選手が時速140マイル近いサーブを打つ事はできる。しかしラオニックのサーブには正確なプレースメントとともに、レーザー光線のような特質があり、それが彼のサーブに特別なレベルの脅威を与えているのだ。実際に目にすれば、それが分かる。

サンプラスはフェデラーとよく比較されてきた。スイスの達人は驚くべきペースでスラム・トロフィーを積み上げ、サンプラスを抜き去っていった。そしてフェデラーはサンプラス以来の、最も完成されたオールコート・プレーヤーである。

しかし彼らのゲームの類似性は、常に誇張されてきた。サンプラスならサーブだけで大会全部に勝つ事もできた。フェデラーのサーブも見事だが、サンプラスのサーブには及ばない。全盛期のサンプラスはエースを放つ、あるいはファーストサーブの後にはほぼ必ずネットへと詰めたが、フェデラーのサーブはポイントへの準備である。彼はサンプラスが持っていた攻撃性に欠ける―――公正を期すれば、フェデラーはクレーでも一貫して良いプレーをするといった、サンプラスにはできなかった事ができる。

ラオニックがその才能をどこまで伸ばすかは、未知数である。彼はフェレに完敗するかも知れない。フェレはあらゆる対戦相手に挫折感を与える、頑強なベースライン・プレーヤーだ。しかし、もし2年以内にラオニックが世界のトップ選手に関する話題に入っていなければ、それは軽いショック以上の驚きだろう。

サンプラスはカリフォルニアの自宅で息子たちと一緒に、ゴールデンアワーに放映のオーストラリアン・オープンを見ただろうか。もし彼がラオニックを多少なりとも目にしたら、その類似性はスクリーンから飛び込んでくるだろう。そして恐らく彼は息子たちに、このカナダ人の男はパパによく似たサーブを打っていると言うだろう。



SAP オープン
2011年2月8日
ミロス・ラオニックのブログ


カリフォルニア州サンノゼ――カナダの新進スター、ミロス・ラオニックは、1回戦で20本のエースを放ってハビエル・マリッセに6-3、6-4で勝利した。その直後に、彼は2回目の SAP オープン・ブログを更新した………。

皆さん、再びこんにちは。

僕は試合を終えたばかりだよ。素晴らしい勝利を挙げたんだ。今年ハビエルは良いプレーをしてきたが、僕も同じくそうだ。自分のサービスゲームでは最高の調子を保たねばならなかったし、彼のサーブでチャンスを得た時には、それを活かした。とても助かったよ。コートは僕に適している―――僕は室内で練習して育ってきたから、慣れているんだ。

今日は時速146マイルのサーブを打った、9マイル足りないだけだ! 実際は10マイルだけど………新記録を打ち立てるには156マイルが必要だね………。

昨日はピート・サンプラスに会う事ができたよ。本当に夢みたいだった。1人の男をずっと見て成長してきたのと、大会の場でその人と実際に会うのは、まったく別物なんだ。彼は本当に親切な人だった。そして僕に思慮深い助言をいくつか与えてくれた。僕には信じ難いほどの経験だった。特に新人の時に、自分のアイドルに会うところまで達するなんて。大きな意味があるよ。

成長途上で見てきた選手という事では、僕の次の試合はジェームズ・ブレイク戦だ。よくプレーを見てきた男たちとの対戦は嬉しいよ。僕には利点があると思う―――彼が僕を知っているよりも、僕の方がずっと彼のことを知っているんだからね! だから、できるだけその利点を生かすつもりだ。僕は彼が攻めのショットを打ってくると承知している。自分のサーブに気をつけて、リターンゲームではチャンスを得られるよう望むよ。対戦が楽しみだ。

昨夜はモートンズでステーキを食べた―――とてもおいしかった。大いにお勧めするよ!

また明日、お会いしましょう。

ミロス


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