ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2010年3月25日
ピート・サンプラス――彼のゲームに対する一考察:パート1
文:Tribal Tech


2週間前にインディアンウェルズで起こったアガシ - サンプラスのやり取りについて、たくさんの話やら記事があった。そろそろテニスの話題に戻るべき時だ! 私はサンプラスのゲームについて、詳細に検討してみたいと思う。記事は2つのパートに分かれる。パート1では youtube のクリップを添えて、テクニック面の詳細について論じる。そして次のパートでは、彼のキャリアを通じて最も重要だったライバル関係のいくつかを考察する予定だ。

ピートのサーブ

最も語られ、最も評価された部分である事は間違いない。そしてもちろん、それは並はずれたショットだった! 何が彼のサーブをそれほど優れたものにしたのか? 私は何年間もかけて、多くの理論を読んできた。彼の柔軟な肩そのものから、10セント硬貨にボールを命中できる能力まで。そのすべてが真実である。同じく、次のようにも言われた。彼は世界最高のセカンドサーブを持っていて、厳しい状況でも深いセカンドサーブ、あるいはエースを狙う事をも恐れなかった、そしてもし対戦相手がボールをリターンしてきたら、彼はボレー、フォアハンド、あるいはパッシングショットの準備ができていた、と。

スライスとキックを等しい技量で打つ能力に加えて、彼のサーブを際立たせたものを、過程を追って考察していく。デュースコートでは、ピートは次のショットのために、フォアハンド側を狙ってオープンコートをつくる事を好んだ。フォアハンドを狙うのは常に危険が伴うが、勝つためにはリスクを冒さなければならない。ピートは自叙伝で、対戦相手の強みを狙う事によって、その強みを打破する事ができる、例えばジム・クーリエに対してよく用いた戦術であると論じていた。

アドコートでのサーブ、これはサンプラスのサーブが際立ち、そして男女を問わず他の選手たちが彼から学び、自分のゲームに戦術として取り入れたものである。ご承知のように、アドコートはゲームの勝敗、そしてブレークポイントのセーブを決するコートである。

サンプラスはセンターラインのごく近くに立ち、そして同じボールトス―――だいたいは少し後方あるいは頭上に上げる―――で、バックハンド・ワイドにも、あるいはセンターにもサーブを打つ事ができた。センターを狙う時には、彼はよくスライスをかけつつ、トップスピンのサーブを放った。したがってボールは縦方向に上がってから直進し、バウンド後は対戦相手のフォアハンドから遠ざかっていった―――時速110〜135マイルのスピードで。

彼は時速120マイル以上でセカンドサーブを打つ事ができた。多くの選手のサーブは、リターナーのフォアハンドへと向かってしまう。センターラインから遠すぎる位置に立っているためだ。したがって彼らは、スライスよりもサイドスピンを加えなければならない。たとえボールは速くても、プレースメントが適切でないとリターンはより楽になるのだ。そのフォアハンドへのサーブで、サンプラスはまさにアンティー(ポーカーの賭金)をつり上げ、対戦相手に何か工夫するよう挑んだ。そして相手は何もできない事が多かった。

この戦術が持つ他の利点は、逆を衝く心理作戦だった。相手がフォアハンド側に少しずつ移動していると、サンプラスはバックハンドを狙い、そしてエースの本数は増加した。

センターライン近くに立ち、重要なポイントでフォアハンド側にサーブを打つという、このテクニックと戦術を使ってきた選手たちは? セレナ・ウィリアムズ、リンゼイ・ダベンポート、(肩を痛める以前の)マリア・シャラポワ等だった。アンディ・マレー、ノバク・ジョコビッチ、ホアン・マルティン・デル・ポトロ等もこの戦術を使おうと試みている。

サーブの例:

http://www.youtube.com/watch?v=rHLEzs3f_vE

ピートのサービス・リターン

これは明らかに、サーブほどには良くなかった。しかしツアーで1,000勝に近い勝利数を挙げるだけの十二分な優秀さを備えていた。初期には、ピートは強烈なフォアハンド・リターンを打つために、バックに回り込む事が多かった。後期、特に2000〜2002年の間には、いっそう多くチップ&チャージの戦術を用いた(ポール・アナコーンの影響)。

サンプラスが常に語ってきた事の1つは、ウィンブルドンで勝利を得るものはサーブのリターンだという事である。その事に、多くの人々やジャーナリストは注目しなかったが。ピートと同等か、 特にファーストサーブでは優っているかも知れない多くの選手たちは存在してきた。カルロビッチ、ケビン・カレン、フィリポウシス、イワニセビッチ、クライチェク、ロディック等である。これらの選手の多くは、一度もウィンブルドンで優勝した事がない。リターン力が劣り、そしてコートを動き回る運動能力が及ばないからである。

同じくピートは、リターンゲームの質をいつ上げるべきか知っていた。対戦相手を圧倒したい場合には、すべてのゲームで相手を追い回し、エネルギーを保ちたい場合には、特定のゲームに焦点を合わせてリターンのレベルを引き上げた。彼は頭の切れる選手だったのだ。

リターンゲームの例:

http://www.youtube.com/watch?v=REBLJwzdRH8

ピートのフォアハンド

ピートはそのショットを用いて、ベースライン・ラリーで多くのダメージを与えたという意味においては、シュテフィ・グラフと似ていなくもない。しかしピートはグラフよりもずっと、フォアハンドのお膳立てとして進んでトップスピン・バックハンドを用いた。

ピートとジム・クーリエはイワン・レンドルのゲームを手本にして、プレーの主導権を握るために、バックハンド側をカバーする事でインサイド・アウト・フォアハンド、インサイド・イン・フォアハンド(ダウン・ザ・ライン)が打てるようにしていた。サンプラスのグリップは伝統的なイースタン / セミ・ウェスタンで、選択するショットによって、しばしば握り変えて打った。すべてのショットを同じグリップで打ったエドバーグとは異なる(現在、誰がそれをするというのか?)。

サンプラスのフォアハンドは、歴史上でも最高の部類に入る。彼は信じがたいペースを生み出しながらも、コントロールのためにボールに多くのスピンをかけて、ネットの相応に高い位置を通す事ができたからだ。アガシが概してフラットに打っていたのとは異なる。私の意見では、サンプラスはイワン・レンドルと並んで、史上最高のランニング・フォアハンド、クロスコート、そしてダウン・ザ・ラインを持っている。

2つの例:

http://www.youtube.com/watch?v=SnUZtuOGKUA

http://www.youtube.com/watch?v=w5rxZhVjrVM

ピートのバックハンド

メディアにはしばしば弱点と描写されるショットで、フォアハンドほどには良くなかった。ツアーでの早期には、フォアハンドよりも信頼性が高いと見なされていた。間違いなく優れたショットであり、そしてもちろん、すべては相対的なのだ。

クレーでは、彼は高くバウンドするボールを苦手としていた。しかし多くの選手たちも然りである。キム・クライシュテルスのように、両手打ちの選手でさえ苦労しているのだ。サンプラスが得意だったのは、彼のフォアハンドを避けようとするアガシやクーリエといった相手と、トップスピン・バックハンドを打ち合う事だった。サンプラスは高い山なりのボールを深く打ち、攻撃を仕掛けられる短いボールを得ようとした。

彼はまた、ラリーの繋ぎとしてスライスを取り混ぜ、対戦相手の均衡を狂わせようとした。私の好きな戦術であり、アメリー・モレスモーがしばしば用いた戦術でもある。同じくサンプラスは、相手に無理をさせるため、あえてバックハンドをストレートに打つ事もした。

バックハンドの例:

http://www.youtube.com/watch?v=Sx5dDAILnyU

http://www.youtube.com/watch?v=BXacOtT0RBk

ピートのパッシングショット

これは明らかに、多数の攻撃的選手が存在する時代に、ピートがあれほど何回もウィンブルドンで優勝した理由の1つである。彼は芝のコートで、ベッカー、エドバーグ、シュティッヒ、クライチェク、ヘンマン、イワニセビッチ、フィリポウシス、ルゼツキーといったその時代の攻撃的プレーのライバル達よりも、優れたリターンとパッシングショットを打つ事ができた。ピートはバックハンドでもフォアハンドでも、ストレート、クロスコート、ロブ、あるいは次のショットに備えてボディショットを打つ技量を持っていた。

2つの例:

http://www.youtube.com/watch?v=YFiOslvMvXY

http://www.youtube.com/watch?v=vz8IH0SHMoQ&feature=related

ピートの動き

ピートはコート上で非常に滑らかな動きの選手だった。彼は自叙伝で、アガシの力量を見抜いているように感じた理由を論じ、自分はアガシより動きが良く、それゆえにベースライン・ラリーで自身のサービスゲームをキープし、勝利を収める事ができたと述べた。フレッド・ペリーの「サンプラスはオイルのように動く。誰も彼の足音を聞く事はできない。聞こえるのは相手の男の足音だけで、その男は負けつつあるのだ」という言葉が、最も適切にそれを要約している。

例:

http://www.youtube.com/watch?v=rF_cL1NbIKs

サンプラスのネットゲーム

あの時代においては、エドバーグとラフターの方が優れたボレーを持っていたと言えそうだが、ピートが彼らのレベルにほど遠かった訳ではない。フォアハンドボレーは、堅固な手首ゆえにピートが優れていたと考える。しかしエドバーグとラフターは、全体的により良いボレーを持っていた。

ピートはハーフボレーとストップボレーで本領を発揮した。彼はその運動能力をもって、意表をつく驚くべきボレーウィナーを生み出し、しばしば対戦相手を唖然とさせた。アメリー・モレスモーは、私がこの数年見てきた中で、対戦相手に対する類似の効果をもって類似の離れわざを行う1人の選手である。

オーバーヘッドに関しては、ピートのオーバーヘッドは恐らく史上最高だろう。彼の頭上にロブを上げる選手はあまりいなかった。その運動能力は信じがたいもので、スラムダンクは彼の代名詞的なショットである。解説者のビル・スレルフォールはかつて言ったものだった。サンプラスの脚はゴム製だ!と。

ボレーの例:

http://www.youtube.com/watch?v=5hvNrdXIrJE

オーバーヘッドの例

http://www.youtube.com/watch?v=OXTrby91BtY

次のパートでは、サンプラスがライバル達に対してどのように自分のゲームを変えたか、そしてティム・ガリクソン、さらにはポール・アナコーンの下で、どのように進化してきたかを見定める予定である。


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