オレゴン・ライブ.com
2010年2月24日
ピート・サンプラス、なり得なかったクレーコート・マスター
文:Douglas Perry


それでは、 クレーコート・ワールドに関するシリーズを続けて、今回は過去へとさまよい出る事にしよう。

昨日、私はテニスチャンネル「クラシック」を見た―――合衆国とロシアの間で戦われた1995年デビスカップ決勝ラウンドの、優勝を確定した試合である。結論:そう、ピート・サンプラスはクレーでプレーができた。

威圧的なパフォーマンスで、しかもロシアの愛国的(しかし敬意を表する)群衆を前にして、彼はストレートセットでエフゲニー・カフェルニコフ―――世界最高レベルのクレーコート・プレーヤーを打ち破ったのだ。
2002年、最後のフレンチ・オープンでのサンプラス。

最初の2セット間、サンプラスはカフェルニコフを圧倒した―――そして恐らく、驚かせもした―――真っ向勝負のパワフルなクレーコート・テニスで。彼はバックコートからロシア人とラリーをする事に何の問題もなく、しばしば打ち勝った。特にフォアハンド・サイドでは。彼の辛抱強さは強い印象を与え、夢のようだった。彼は大きく肩をすくめるようにボールへと近付き、見た目にはハーフスピードでスイングをしていた。結果としてボールは巨石と化し、カフェルニコフは押し返すために、相撲の力士のように身構えなければならなかった。サンプラスのバックハンド・サイドは特に興味深かった。トップスピンをかけてボールを深く保っていたが、さほど強烈さはなかった。しかし意外にも、カフェルニコフはそのボールに対して何もできないように見えた。一方がフォアハンドに回り込んでポイントの主導権を握ろうとするまで、2人はしばしば山なりのショットを交換していた。

一方、サンプラスのバックハンド・スライスは不確実だった。ロジャー・フェデラーのスライスに見られるような鋭さは、少しもなかった。その代わりに、奇妙なパチンコ玉のようなボールとなり、ふわりと浮き上がってから急激に下方へと向きを変えた。それは効果的なショットだった―――彼がスライスを打つ時にしばしば足を滑らせ、ボールが長くなってしまうという問題を除いては。その滑りやすい前足は、彼の動きが、優れてはいるが生来のものではないという証拠だった。彼は各ポイントを、赤ん坊が第一歩を踏み出すかのように始めた。自分の下から敷物を引き抜こうとする者はいないと気づき、少しリラックスするまでは。

全盛期のカフェルニコフ。
試合の最も興味深い局面は、サンプラスの精神状態だった。明らかに主導権を握っていてさえ、彼がそう感じていないのは明白だった―――焦りを感じているようだった。

2セットを先取してさらに1ブレークを果たしたところで、サンプラスは自分のサーブで勝利間違いなしというポイントを何本か逃した―――2本のオーバーヘッドをコート中央に打ち、カフェルニコフは跳び上がってそれを叩き込み、ウィナーにしたのだ(ハードコートでなら、それらのオーバーヘッドはロシア人の頭上を越えて、観客席の3列目に飛び込んでいただろう)。カフェルニコフはそのゲームでブレークバックした。

勝利への妨げではあったが、大した事ではない、そうですね? イーブンに戻っただけだった。しかしサンプラスのボディ・ランゲージは、運が尽きたかのようだった。肩を落とし、目からは生気が失われていた。彼がこう考えているのを見てとる事ができるだろう:僕はこの男に対して5セットを戦い抜かねばならない、と。

次の2ゲームは、アメリカ人にとって危険なものだった。ショートパンツはむずがゆく、サーブの時には照明が目に入った。カフェルニコフのバックハンドがぎりぎりでラインを掠めると、身の破滅を迎えたかのようだった。サンプラスはどうにか冷静さを保ち、ロシア人の攻撃を阻止し続けた。そしてタイブレークでは見事なプレーをして試合を終えた。それは不屈の精神を示す堂々たる試みだった。だが同時に、それは含蓄のある最終セットだった。テニスでは自信がカギとなる―――我々は皆、それを知っている。そしてサンプラスには、それが欠けているだけだったのだ。彼がデビスカップではクレーでも多くの成功を収めたのに、フレンチ・オープンではそうでなかった事は驚くにあたらない。クレーでの1〜2試合なら、彼は感情を持ちこたえ、相手を倒すために自分のフラストレーションを受け流す事ができた。しかし7回のベスト・オブ・5セットの試合を通して、あまり快適に感じないまま戦い続ける事は? 彼はただ、それをする事ができなかったのだ。精神的な犠牲が大きすぎたのだ。

1995年デビスカップ決勝戦の約6カ月後にフレンチ・オープンが巡ってくると、サンプラスは準決勝まで進出し、世界最高のクレーコート大会でベストの成績を挙げた。その準決勝で彼を倒した男は? そう、カフェルニコフだったのだ。スコアは7-6、6-0、6-2だった。


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