ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2009年12月25日
チャンピオンの特性:勢いをそらし、嵐に負けない
文:Rajat Jain


メリー・クリスマス!

この時期、世間は賑わいに満ちている事だろう。オフィスは空席が目立ち始め、クリスマスツリーやサンタ衣装の売り上げは急騰し始める。そして祝日のパーティーが予定表を埋めていく。

祝日のパーティーは、この季節の大部分を形成している。友人と私はクリスマスを祝わないので、映画を続けざまに見たり、ポーカーや他のトランプ遊びに手を染めたり、くつろいで大半の時間を過ごしていた。新年の計画はもっと面白いものだろうが、のんびり過ごす事、そしてまったく何もしない事が、休暇の非常に重要な部分を形成しているのだ。

YouTube は暇つぶしの重要な部分を占めている。そして、何を見るかアイディアが尽きると、通常はテニスが優先される。ハイライト映像の質は一級品で、10分間のカットが、いかに4時間の試合全体を分析するために使われうるかは、驚くばかりである。

同じ事はタイブレークにも当てはまる。セットを評価する最も公正な方法とは言えないかも知れない―――少なくとも antiMatter 氏はそう考えている―――が、確かにプレーヤーのベストを引き出している。1980年と2008年のウィンブルドン決勝戦における第4セット・タイブレーク、 2000年オーストラリアン・オープンのピート・サンプラス対アンドレ・アガシ戦などは、その典型的な例である。

(YouTube 映像)

この映像で、タイブレークの序盤は、なぜリチャード・クライチェクがサンプラスに対して優位な勝敗記録を持っていたかを的確に示している―――実際に、彼はそれを誇りとするごく少ない1人であった。

サンプラスはしばしば、サーブは自分を守る保険だが、試合を勝ち取らせるものはリターンだと語っていた。目を見張るようなリターンゲームが1つあれば、彼がセットを取るには充分だった。それが3回あれば、彼は試合に勝つのだ。

このオランダ人に対しては、通常サンプラスのリターンゲームは失敗に終わっていた。クライチェクは同じボールトスでコートのどこへでもサーブする事ができ、彼のゲームを読みにくくしていた。そして6フィート5インチという体格は、凄まじいペースで鋭い角度をつける事を可能にしていた―――イボ・カルロビッチならさらに角度がつく。速いペースで高低差のあるサーブがサンプラスのバックハンドに向けられると、常に楽なポイントを勝ち取れる。クライチェクはまさにそれを行っていたのだ。

クライチェクのベースライン・ゲームは、必ずしもサーブを補完するものではなかった。しかしこの試合のようにバックハンドが冴えている日には、彼を止める事はできなかった。フルスウィングされる彼のバックハンドは、見応えのある美しいショットの1つである。

この頃には、サンプラスはもはやテニスマシンではなかった(彼はこの時までに、史上最多メジャー優勝を成し遂げていた)。以前よりもはるかに多く、そして激しく、感情を露わにしていた。

このタイブレークは、2人の対戦の概要を効率的に要約している。両者ともファースト・セカンド両サーブでネットに詰め、それゆえに、ラリーが4ショットより長くなる事はまれだった。

ラリーが少ないために、事は稲妻のようなペースで起こった。サンプラスは次々とバックハンド・エラーを犯し、クライチェクは強力なサーブで6-2リードとして、あっという間にセットポイントを迎えていた。

2セットダウンに繋がる4つのセットポイントで際立ったプレーを披露し、サンプラスは試合の流れを変えた。それは2009年ウィンブルドン決勝戦を思い出させるものだった。

2-6で、サンプラスは足元に打たれたボールを絶妙のボレーで決め、次にクライチェクのサーブで2連続ポイントを勝ち取った。ラインをかすめる強烈なバックハンド・ウィナーで、ゲームをイーブンに戻したのだ。その時点まで、バックハンドを至る所にふかしまくっていた時に、だ。

ロジャー・フェデラーもアンディ・ロディックに対して似通った事をした。試合の転機として、6-5におけるロディックのボレーミスが常に挙げられるが、等しく決め手となったのは、2-6ダウンでフェデラーが平然と放ったハーフボレー・ウィナーだった。ロディックはこれ以上はないというリターンを放った。それでもなお彼はポイントを失ったのだ。

偉大なチャンピオンとて、常に最高のプレーをする訳ではないだろう。しかし彼らは、窮地から抜け出す事に最も優れているのだ。サンプラスはこの試合でそれを行い、フェデラーはウィンブルドンで行った。

彼らは試合の流れをどうやって自分有利に変えるべきか知っている。どのように事を起こすべきか知っているのだ。

フェデラーは精神的強靭さに欠けると非難されている(今年、それを充分に示した後でさえ)。しかし「それが何か?」といったやり方で窮地を脱してみせたからには、もはや欠けているとは言えまい。

メディアは早とちりの、あるいは論争を生み出す………あるいは両方のチャンピオンなのである。ハイライト映像には、熱狂的にサンプラスを応援する妻のブリジット・ウィルソン(当時は婚約中)が見られる。彼女はテニスにほとんど興味がなかったにもかかわらず、だ。

キャリアの終わりに向かい、サンプラスのふるわない成績は妻の責任だと、メディアは荒々しく彼女を引き合いに出した。だがそれどころか、むしろ彼女はつらい時期の大いなる支えだったのだ。


良き休暇を!


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