ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2009年12月2日
ピート・サンプラス:エース、スラムダンク、そしてランニング・フォアハンド
By antiMatter

ロンドン、2008年12月5日:ロイヤル・アルバート・ホールで開催されたブラックロック・マスターズテニスで、イギリスのジェレミー・ベイツにサーブを打つピート・サンプラス。

止められないエネルギーのうねりを感じる時、それがポジティブであれネガティブであれ、大いなる霊感とでも言うべき着想が浮かぶ瞬間が人生にはある。

精神は明敏になり、感覚は研ぎ澄まされ、思考は猛烈なスピードで回転する。そして手と脚は、頭脳が企てるどんな気まぐれや空想にも対応する。

そう、自分が文字どおり充電されている時には。

様々なものが、このような状態へと導く事ができる。ロックミュージックから、打ちごろのボールを見る事、愛国心………そう、多くの事が。

テニス界には、あらゆるプレーの背後にこのようなインスピレーションの存在がある事を、自分のゲームに語らせた1人の男がいる―――ピストルが。

彼が「オン」の時には、常に機関車のようなスピードで、エネルギーが枯れる事は決してないように見えた。例の遺伝的な疾患が、彼を一時的な休止状態へと向かわせた時以外は。もし途中に崩れた橋があったなら、それをも跳び越えただろう。

ピストルのラケットから放たれるショットの中には、注目を集めずにはおかない3つの独特なショットがある。それは完璧なテクニックと運動能力ゆえだけでなく、純然たるアドレナリンが込められているからである。

どこかのテニスコート

彼は15-40の状況にある。だが、その事について無関心そうに見える。気だるげなボディ・ランゲージは、試合を断念して家に帰ると言わんばかりだ。

それは、初見のおざなりな観客の見方だ。

他の者は何が起ころうとしているかを知っている。彼は持ち場に着き、対戦相手に対してラケットを大砲のように向け、それを巧みに振り回し、そして引き戻す。1つの単純なモーションで、センターへミサイルが放たれる―――スピード、パワー、プレースメント三拍子揃ったエースが。

ボールはビュッと音を立てて、反対側に立つ相手を通り過ぎていく。そして対戦相手は酔っぱらった父親に、深い眠りから乱暴に揺り起こされた子供のように見える。まず、見たものを信じられないという感覚が湧き上がる。それからゆっくりと、このすべてがいかにアンフェアかという認識に変わっていく。不可抗力という感覚が湧き上がってくるのだ。

ボールは空気を切り裂くように通過し、轟くような音を立てて背後の壁にぶつかる。そして2〜3秒の間、残響音が屋内スタジアムに響き渡る。メッセージが送られる。

対戦相手は弾薬の最初の味を知る。あまり良い味ではない。

30-40。まだブレークポイントが1本ある。ファーストサーブはフォールト。彼は少し遅めのセカンドサーブを放ち、ステイバックする事に決める。ラリーが続く。

ピートの苦手なサイドが繰り返し狙われる。対戦相手はストロークを打つたびに、得難いサービスブレークに近付いている気分になる。

まず、ピートはサイドラインから返球する。次にダブルスアレーから、そして今や、彼はさらに外側へと押し込まれてきた。

これは逆側にフォアハンドで攻め、ポイントを決めるべき時だ。彼のバックハンドは次第に弱くなり、狙いがコート中央に寄ってきているのだから。

力のこもったインサイド・インのドライブショットが、コーナーに向かって放たれた。しかし、適切な瞬間を探っていたプレデター(捕食動物)のように、ピストルは自身が発射する事もできた銃弾のごときスピードで、疾走を始める。

爆発的な大きいステップでスタートし、地面の上を跳ばんばかりに、彼はどうにかボールに追いつく。

それでもまだ、その走りに何らかの価値があるのか、誰も確信していない。彼はなお全力でボールを打たなければならない。そして、このようなポジションにいる時、通常はただボールを返すのみとなるのだ。

次に人々が覚えているのは、広角のクロスコートにボールが返球され、サービスボックスの最も角度のついたコーナーに突き刺さる光景である。

対戦相手は目をパチクリとするばかりだ。

観客は呼吸を止め、一瞬の間、沈黙が降りる。かすかな頷きだけが、それがすべて現実である事を群衆に請け合う。

デュース。さらなる難儀が追加される。始末に負えないファーストサーブ。しかし対戦相手は戦略を用意している。彼はピストルがネットへ突進してくる事を知っているのだ。ベースラインの15フィート後方でサーブを捕らえ、クロスコートにトップスピンロブを上げる。

一方、ピートは跳ぶようにネットの中央へと向かっていた。ボールが相手側のサービスボックスに達した時、彼はサービスラインの上にいた。

その男とボールの軌道は、ただ1つの結果を示唆しているように見えた―――ポイントを失う事。

軌道はまたたく間に変わり、彼は横向きに走り始める。そして的確な瞬間に、空中へと跳び上がる。後ろ足は曲げられ、体幹が後に続く。そして腕は残酷な一撃を加えるために挙げられ、ラケットは斧のように見える。

完璧なタイミングで、2つの発射体―――ボールとラケット―――が出会う。ラケットヘッドが下方へと振り下ろされる爆発的な動きの途中で、ミサイルは捕らえられる。ボールはサービスボックスの地面に向かって加速する。

超音速のボールが地面にぶつかる時、ボールボーイたちは何かが起きると予想して、少したじろぐ。ボールは雑音を立てるいとまもないように地面を打ち、そしてネットの向こう側で肩を落とす対戦相手の頭上をはるか越えて、ロケットのように空中へと急上昇するのだ。

アドバンテージ、ピストル。

このような場面は、輝かしいキャリアの中でピートが行ってきた多くの戦いから、容易に拾い上げる事ができる。Youtube を見てほしい。


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