ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2009年8月20日
プレイバック2001年USオープン:スリル満点なピート・サンプラスのアンドレ・
アガシ戦勝利
文:antiMatter (分析者)


伝統には敬意を表される事になっている。希少なサーフェスは有り難がられる筈だ。青々と豊かな緑のカーペットという起源は尊ばれる筈だ。イチゴ、そして雨の落下に関する空の黙想が生み出す壮麗さの、豊かで名状しがたい感覚は喜ばれる筈だ。

しかし抑えぎみの拍手、中立的立場の敬意、義務的な自制という専制的な拘束の下でテニスの祝祭を執り行う必要があるとは、少しばかり風変わりに見える。

祝う必要がある時、この場所ほどお祭り気分に適した所はない。見た目には不調和な観客の騒々しさの調和、一見は水と油のように混ざり合わない色の一致、そして自由。

照明の下での戦いは、他のいかなる場所でよりも人を感動させる、真の闘争である。声援は心からどころか、人生をかけたものなのだ。

「規則などくそくらえ! お気に入りの選手を大声で応援したい時には、そうできるべきだ!」

そして過去10年間に、2001年USオープン準々決勝でピート・サンプラスがアンドレ・アガシに攻勢をかけた時ほど、ざわめきと緊張のレベルを上げたと言える試合はさほどない。

両者はいろいろな意味で、対照的だ。

一方はキャリアを通して自身を世界から隔絶し、メディアに対して内向的な人間として広く知られている。他方は大衆の人気者で、メディアの扱いはお手の物だった。

一方はファッションセンスに独創性がないようだった。他方は明るい色をこれ見よがしに誇示した。

一方はポイント間に気だるげで、次の瞬間には倒れて死んでしまいそうだった。他方はせわしなく落ち着きのない動きで満ち満ちていた。

一方は史上最高とも言えるサーブの持ち主だった。他方は最高のリターナーだった。

テニスとは、ある事柄とその反対の事柄が結び合わさると、爆発的なものになり得る。

そしてあの夜がそうだったのだ。その時点でサンプラスのキャリアが深い谷間にあろうとも、彼が最大のライバルに対して身構える時、期待は常に存在した。それはグランドスラム大会だったのだ。そしてグランドスラムでのみ「ピストル」は本物の弾薬を取り出した。

サンプラスは規則的に爆弾を炸裂させ、略奪者のようにネットへと攻撃し、しばしばベースラインからもウィナーを放った。サービスをキープするというサンプラスの方策には迷いがなかった―――それは13のグランドスラム・タイトルについて試みられ、テストされたのだ。最高のリターナーがネットの向こう側にいると、どうなるだろう? どこへボールを配球するかを決めるのだ。

アガシはほぼ徹底してサンプラスの弱いサイド―――バックへサーブを放った。混乱させるため、時には(たいていはファーストサーブで)サンプラスのフォアにもサーブを打った。弱いリターンを引き出しては、フォア、バックとも強烈なウィナーを狙っていった。

多くの競り合ったサービスゲームがあった。そこではアガシがサーブに劣らぬスピードでリターンを放ち、続くラリーを圧倒し、最後にはウィナーを引き出し始めた。

また、サンプラスが深いスライスを打ってネットへと詰め、返ってきたボールをネットすれすれのボレーでさばくシーンもあった。

しかしながら、サンプラスはベースラインから勝負する選手ではない。彼はほぼ誰に対しても、ベースラインからでも太刀打ちできるが、アガシは最高のパッシングショットを持つ1人だ。このため、そしてもちろんエラーもあって、「競り合ったゲーム」はいずれかの選手にサービスブレークをもたらすには至らなかった。

この試合では、どのように選手がプレーし合うかに関しては、予想外の事は何もなかった。サンプラスはサーブ、攻撃的な本能、そして運動能力がよりどころだった。アガシはラリーで優位に立つハンド・アイ・コーディネーション(前に踏み出して、非常に、非常に早くショットを捕らえる)、パッシングショットを繰り出す能力、そしてサービスリターンがよりどころだった。

ショーの多様さは、驚くべきものだった! サンプラスからはエース、正確無比のボレー、ランニング・フォアハンド、そしてスラムダンク・スマッシュ。アガシからは両翼からの強烈なグラウンドストローク、破壊的なリターン、そして鮮やかなパッシングショット。

アガシがこの試合でやや用心深いプレーをした(ラインではなく、1フィートほど内側を狙った)のは、恐らくその当時アンフォースト・エラーを減らすために、プレースタイルが変化していた事を示しているのだろう(試合中、彼のエラーは極めて少なかったが、タイブレークでは増えた)。

プレーぶりは息を呑むようだった。両者とも同レベルで自分のゲームプランを遂行し、試合全体を通じて一度もサービスブレークがなかったのだ。両者ともブレークポイントにさえ直面しなかったゲームが多数あった。当然ながら、どのセットもタイブレークに突入した。

第1セットのタイブレークは、劇的な様相でサンプラスが失った。彼は3本のセットポイントを落としたのだった。

アガシのサーブでフォアハンド・ウィナー、再びアガシのサーブでサンプラスのフォアハンド・エラー、そして巻き毛のアメリカ人がボレーをミスして、アガシは3本のセットポイントをすべてセーブした。

アガシからの深いロブでサンプラスは体勢を崩し、フォアハンドを再びネットにかけた。それからアガシはダブルフォールトを犯し、チャンスを無駄にしたかに見えたが、次に怒りのサーブをセンターに放ち、サンプラスからのリターンはなかった。その後サンプラスは簡単なボレーをネットにかけ、アガシに第1セットを献上した。

その時点では、すべてがアガシの勝利へと向かっていた。恐らくあの時、彼はツアーで最もフィットしている選手だったのだろう。そして彼のテニスへのカムバックは、大いに成功を収めていたのだった。

サンプラスはスランプ状態で、ライバルとの過去3回の対戦ではすべて敗戦を喫していた。アガシは遠からず、サンプラスの意志とスタミナを崩壊させるかに思われた。

しかし、そうはならなかった。奮起したサンプラスは第2セットのタイブレークを圧倒したのだ。

彼はそのタイブレークを、恐らく試合最高のショットで幕開けした。アガシがサンプラスのフォア側ワイドにサーブを放ち、コート中央へ短いリターン が返ってきた。彼はそのボールをサンプラスのバック側コーナーへと叩き込み、返ってくる何をも―――返ってくるならば―――オープンコートへ簡単に片付けようと、ネットに進み出た。

しかしバック側へと全速力で走りながら、サンプラスはその強烈なストロークに対してなし得るただ1つの事をした:スライス―――何というスライス! ボールは滑るようにコートを斜めに横切り、ボール目がけてバック側サービスボックスへと突進してウィナーを決めようとするアガシを抜き、ラインを掠めていったのだ。

2本の痛烈なボレーと何本かのエラーの後に、スコアはサンプラスの5-2となっていた。アガシは再びサンプラスのバックハンドにサーブを打ち、弱いスライスを引き出して、ライバルにストロークを打ち込むという自分のすべき事をした。

サンプラスのフォア側を狙うのは、恐らくあまり良いアイディアではなかったかも知れない。サンプラスは走りながらクロスのランニング・フォアハンドを放ち、エラーを誘った。次のサーブで、再びサンプラスはアガシの短いショットに対して踏み込み、力強いフォアハンドを打ってネットへと詰めた。アガシはサンプラスの真正面を狙ったが、反射神経が大いに役立ち、サンプラスはボレーとセットをものにする事ができた。

第3セットのタイブレークは、最初の2セットほど波乱はなかった。アガシは多くのアンフォースト・エラーを犯して、事実上サンプラスにセットを献上したのだった。

第4セットのタイブレークは、またしてもスリル満点だったが、一方がより多くのエラーを犯した事でポイントが決まった。早い段階でミニブレークを交換した後に、サンプラスはバックハンド・ダウン・ザ・ラインのパスでもう1本ミニブレークを手にした。

それからアガシは簡単なボレーをミスヒットし、サンプラスにアドバンテージを与えた。サンプラスの方は、ダブルフォールトを犯し、さらにボレーをネットにかけてポイントを失った。アガシのサーブで、サンプラスにはなおセットポイントがあり、ライバルがフォアハンドをネットにかけた時に、それを得たのだった。

その後に選手たちは試合を査定したが、決着は何本かのビッグポイントでつき、その多くでサンプラスは自分のゲームレベルを上げ得たが、同じく何本かではいささかの幸運にも恵まれたのだった。

こんなにも対照的なプレースタイルの選手同士が、互いのベストを引き出し合い、互角の戦いを展開する事は、そうある事ではない。プレースタイルが対照的で、武器が明確なだけでなく、互いの正反対でもある場合、一方のショットがまさにもう一方に対抗するために必要である場合、この試合に関するあらゆる事が、巨大なジグソーパズルの小さなピースのようにうまく適合するという印象がある。

時代を超えた試合だったのだ!

最終スコア:ピート・サンプラスが6-7(7)、7-6(2)、7-6(2)、7-6(5)でアンドレ・アガシに勝利。


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