ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2009年5月26日
ピートサンプラス対ボリス・ベッカー戦、ハノーバー1996年: 信じがたいほどの攻撃
文:Rajat Jain


2009年ローラン・ギャロスの開幕からまだ3日であるが、テニス界には熱狂と集団ヒステリーが生み出されている。パリはあたかも、全世界のテニスファンが受け取る衝撃波の震央のようだ。驚くべき事に、その原因はテニスではなく、ここで披露されている衣装なのである。

今季の人気色はピンク、そしてブルーらしい。

ラファエル・ナダルが明るいピンクのウェアで世界に衝撃を与える一方で、ブルーの氾濫も見られる。フェデラー、ジョコビッチ、ツォンガ、ヤンコビッチ、 イワノビッチ、シャラポワといった選手たちは、赤いコートに映えるブルーのウェアを誇らしげに着用している。

ファッションセンスに関しては、私はこれまで最も口をつぐんできた者の一員かも知れない。しかし何かが欠けているという事は、まったくもって明白だった。

実際、これは90年代後半の時代を思い出させる。ファッション界は似たような下品さを呈していた。特に室内のカーペットシーズンでは。

当時、1年のこの時期は、ピート・サンプラスとボリス・ベッカー(イワン・レンドルを加え、史上最高のインドア・プレーヤーと見なされている)によって支配されていた。そしてヨーロッパのコートでプレーされる試合では、鬱陶しい外観が目立っていた―――ピンクと紫色。

ひと言で言えば、ダサい。それはもっぱらシングルスの大会用にデザインされた(パープル・コート)。それゆえにダブルス・アレーを省略した事は、ただ凡庸な外観を多少なりとも解決しただけだった。

サンプラスとベッカーのさえないウェアは、視聴経験をさらに悪くした。世界ナンバー1選手はストライプのブカブカしたバミューダショーツに退屈なTシャツを身につけ、ベッカーのウェアにしたところで、言わぬが花だった。

とにもかくにも、サンプラス- ベッカーのライバル関係は、1996年のインドアシーズンにピークに達した(その後、ベッカーはフェードアウトしていった)。彼らはシュツットガルト・マスターズ決勝で生涯最高の試合をし、死力を尽くした5セットの末にベッカーが勝利した。しかし2人はハノーバーの年末選手権で、このパフォーマンスをさらに高める事ができたのだ。


YouTube 映像

http://bleacherreport.com/articles/184376-sampras-and-becker-hannover-1996-unbelievable-attack

上のクリップは、彼らの圧倒性のいくらかを示している。カーペットコートは稲妻のように速く(もしかすると二度と見られない)、2人のビッグサーバーをサポートした。この速さはボリス・ベッカーの好みにより合っていた。なぜなら、室内のコンディションと一定したバウンドは、ドイツ人の最大の弱点3つ―――高いボールトス、非常に大きなバックスウィング、フィットネス―――を無効化したからだ。

これらの試合のスリルは、現在では典型となっている長いラリーではなく、2人の選手が稲妻のようなストロークの集中砲火をいかに捕らえるか、好奇心をもって見る事であった。

エースとサービスウィナーは当たり前だったが、彼らがいかに巧みにサーブを返球したかは驚くばかりである。彼らはサーブが着弾するサイドを知っているかのようで、サーブとリターンの間は瞬きよりも短かったのだ。

ベッカーのセカンドサーブでサンプラスがベースラインの内側深くへと入り込む、5分10秒のポイントに注目してほしい。これは本当に超高速のサーフェスだったのか?

アガシとコナーズは、史上最高のリターナーと呼ばれるかも知れない。しかしサンプラスとベッカーは、室内カーペットでのサービスリターンを実現不可能なレベルまでこなしたのだ。

彼らが圧倒的に攻撃的なプレーヤーと呼ばれるのに理由はいらない。彼らがこの超高速コートでラインを打ち抜く安定性と正確さは、この世のものとも思われない。サンプラスはごく普通に走りながらそれらのショットを打ち、一方ベッカーは高いバックスイングの影響を最小にするため、一貫して適確なポジションについていた。

さらに、ネットにおける彼らの予測力(ネットへと詰める自然な動きと容易さも)は見事この上ない様子で、彼らを他の選手たちから際立たせているのだ。2分22秒のポイントで、ベッカーが鮮やかにハーフボレーを拾い、サンプラスのダウン・ザ・ライン・パス(クロスコートに打つ事も容易にできた筈だ)に備える準備ができているのは、言及に値する。

彼らがネットで見せる偽装も追加しよう。3分のポイントで、サンプラスはバックハンドのクロスコートボレーを打つ構えを見せるが、最後の瞬間で角度を変えてダウン・ザ・ラインへと打つのだ……素晴らしい!

彼らはベースラインにおいても御しやすい相手ではなかった。ラリーの間、彼らがコート全体をカバーした様、ラケットの瞬間的なスイングで容易にオープンコートを作り……そして相手を愚か者に見せた様は、美しい。

もちろん、ナダルやジョコビッチはいつもそのようなプレーをするが、コートのスピード、リターンをする最小の時間が注目に値するのだ! 最少のトップスピンで、ぎりぎりでネットを越え、ポイントを通して猛攻撃をかける速いフラットのグラウンド・ストローク。完璧を目指す、 エラーを犯しがちなゲーム。

そして最後に、サーブ。

センターへエースを放つと、ネットへの突進を途中で止め、肩をすくめてサービスラインへと戻るベッカーとサンプラスの無頓着な様子。ベースラインに打ち込まれるボールの反響音、そして壁に当たった後に高く跳ねる美しいバウンド(2分38秒のポイント)もまた、エキサイティングだ。サンプラスはこの日、サーブに関しては必ずしも好調ではなかったが、第5セットでベッカーを6-4で下す事ができた。

同じく言及に値するのは、2人の選手が互いに抱く敬意のレベルである。ベッカーは敗戦に打ちのめされていた。それは彼がネット際でサンプラスを待つ間、肩を落としている様子で窺われる。しかし敬愛の念は失われていない。見事に戦われた、初めから最後まで徹底して見応えある試合の後に、彼らは親しげにお互いを抱きしめたのだ。

この試合はスティーブ・タイナー記者が指摘したように、たとえ史上最高の試合ではなかったとしても、最高のスコアを記録した試合だった。3-6、7-6(5)、7-6(4)、6-7(11)、6-4。

オーケイ、ルームメイトが私をつついたので、ヒートアップするフレンチ・オープンの現実世界へと戻る事にしよう。


追伸:この記事は部分的に、2009年ローラン・ギャロスのファッションセンスについて主に語られた、スティーブ・タイナーの投稿に刺激された。さらに、この記事で用いた映像クリップは、私のお気に入り YouTube のものである。


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