ESPN.com
2009年2月11日
スイート・ピートはフェデラーの失意を理解できる
文:J. Drucker


ピート・サンプラスは現役の頃、称賛に値するひたむきさで自己を律していたが、先だっての日曜日の午後は、他のアメリカ人と何ら変わりなく、ロサンジェルスにある自宅の居間でビッグスクリーンとリモコンに集中していた。

その日はスーパーボウルだったのだ。ゲームは生放送だったが、サンプラスはオーストラリアン・オープン決勝戦のビデオを合間合間に再生していた。それは前日の深夜に放映された―――ロジャー・フェデラーがラファエル・ナダルと対戦し、サンプラスの持つ14のグランドスラム・シングルス・タイトル記録に並ぼうとした試合。

世界じゅうが承知するように、それは実現しなかった。しかし37歳のサンプラスは、いずれ近いうちに実現すると確信している。サンプラスは語った。「彼は僕の記録に肉薄している。その実現を経験できるよ。我々はみんな、彼がそれを成し遂げようとしていると承知している」

「彼らのハードコートでの試合が、どんな風になるのかに僕は興味があった」と、サンプラスは今週の月曜夜に語った。彼はサンノゼの SAP オープンでトミー・ハースとのエキシビションを終えたところで、あの夜メルボルンで何がフェデラーに起こったかを考えていた。フェデラーが敗北の後、非常に感情的になったのを見て驚いた、とサンプラスは認めた。

「敗戦の後、普通は平静を保つものだ。僕が考えていた以上に、敗戦は彼を傷つけたのだろう。彼は感情豊かなプレーヤーだからね。僕はちょっと不意を突かれた感じだったよ。彼がいかに勝利を欲していたかを示している」

フェデラーの治世には、サンプラスとの明白な相似性があった。2人は共にオイルのように滑らかで、一流のショットメーカーで、大勝負に生き、そして偉大さに身を存分に捧げてきたのだ。

サンプラスはフェデラーを「僕よりもずっと支配的だった」と認めるが、 ナダルをいかに攻略するかという話になると、サンプラスのアプローチは異なっていた。「もし僕がロジャーだったら、もう少し中へ詰めようとするだろう。僕はネットへ詰める。特に、相手がはるか後方でステイバックしている時には。たとえポイントを勝ち取らなくても、少なくとも相手の意識に何かを植え付ける。ナダルがラリーの主導権を握り、ロジャーのバックハンドに次から次へとボールを打っているのを見るのは辛いものがあるよ」

その言葉を裏付けるように、ハースとのエキシビションでは、サンプラスは頻繁に前方へ動いて鋭いボレーを披露し、試合の重要な局面で相手をお手上げ状態にした。フェデラーはどのポイントでも卓越さを見せてタイトルを獲得してきたが、サンプラスのテニスは至上の一撃必殺スタイルだった―――4-4となったところで素晴らしい6ポイントをプレーして、またたく間にセットをつかみ取る能力である。

サンプラスはまた、ナダルへも敬意を払う。「彼は驚異的なアスリートだ。メンタル面では最強だ―――彼と(ビョルン)ボルグは。彼はマラソンランナーの精神構造を持っている。あらゆるポイントを、最後のポイントであるかのようにプレーする。同時に、進歩も遂げている。そして今や、威圧感をも身につけている」

サンプラスの長きにわたるコーチだったポール・アナコーンは、かつて「私はピート・サンプラスほどパニックに陥らない者を知らない」と語った。フェデラーに言及する時も、サンプラスは平静だった。「彼は自分のしている事を承知している。思いがけず子供にやられた訳ではない。ナダルは彼の頭の中に入り込んでいて、ロジャーはそれを解決しなければならない」

それでもなお、 フェデラーに向けるサンプラスの共感ははっきりしている。フェデラーと同様に、彼もグランドスラム・タイトルの記録達成で苦しんだのだ。フェデラーと同様に、ツアーのつらい単調な仕事の中で意欲を保つ事は難しいと感じる時点もあったのだ。そしてフェデラーと同様に、世界の各都市で良いプレーをする事も重要だと承知しつつ、それらの地はメルボルン、パリ、ロンドン、ニューヨークに比べると見劣りがするようになっていったのだ。サンプラスは語った。「自分自身を駆り立てる情熱を見いださねばならないんだ」

コーチングを考慮した事があるかと尋ねられ、サンプラスは笑いながら答えた。「携帯電話からだけならね」間もなく、彼はサンノゼの市街に出て、帰宅の途に就くべく飛行場へと向かった。翌朝には息子たちと過ごすのを楽しみにして。


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