テニスマガジン
1990年12月20日号?
本誌独占インタビュー ピート・サンプラス
インタビュー:Boze Hadleigh/Cosomos
写真:中嶋 常正


N.Y.でのセンセーションから約2カ月。史上最年少の全米王者が
熱く語る「今」と「これから」

「こういうこと(インタビュー)はとてもおもしろいし、興味があるね」
19歳の全米チャンピオン、ピート・サンプラスは非常によくしゃべる。
「だって誰もボクのことについて何も知らないからね」
確かにそうだった。彼が全米のタイトルを手にするまでは…。

横柄な言い方をしてしまったと思ったのか、彼はすぐにこうつけ加えた。「今、ボクのまわりで起こっていることは、これまでに体験したことがないことばかりなんだ。誰かがボクについて新しいことを知りたがってる。でも、これが最初で最後のチャンスじゃないかっていう気もするよ。だから、何を聞かれても十分な返答をしなければならないと思うんだ。だって、こんなビッグなチャンスはそうあるもんじゃないだろう?」

今、もっとも人々の熱い視線を集める史上最年少の全米チャンピオン、サンプラスにさまざまな質問をぶつけてみた。


全米で優勝したときは空から太陽が落ちてくるんじゃないかと思った。もう、最高の瞬間だったよ

これだけ多くの人たちに注目されると思ってた?

サンプラス(以下ピート) まさか! もう異常だよ。電話は鳴りっぱなしだし、あなたのように、みんな何でもいいからボクから聞きたがっている。テ二ス記者がほとんどだけど、新聞や雑誌がみんな電報まで打ってくるんだ。みんながボクのことを知りたがっている。それもたいてい同じことばかり質問するんだ。もうそのパターンがすっかり頭の中に入ってしまったよ。

聞かれてイヤな質問はある?

ピート ボク自身やボクの考え方について聞かれることがよくあるんだけれど、こんなに若いうちからそんなことを聞かれてもね。この先いろんなことが変わると思うし。

だから今、決定的な意見を求められたって答えようがないよ。1年後にはきっといろんなことに対して考え方が変わっていると思うんだ。

たとえば?

ピート ある特定のプレーヤーとボクを比較するにしても、だ。あるリポーターがボクのライバルのリストを作ってきたんだ。その人たちとボクを比べるなんて、すごく自分本位な気がしてイヤだったよ。レンドルやベッカーと自分を比べるなんて、ボクが自分のことを彼らと同等だと考えているみたいじゃない? 

でも、これからもこうした質問はきっと繰り返されるだろうね。プレー中は誰もがライバルなんだ。だから、特定のプレーヤーの名前だけを挙げて比較することなんてできないね。でも、そのリポーターはそれに固執していた。まったく彼にはまいったよ。

彼らは、ライバル関係とか競争といったものが好きなんだろうね。

ピート ある意味ではドラマチックだからね。大きく心を動かすものばかりを求めているんだ。いつものことだけれど。

全米で優勝したときにはキミ自身も感動したと思うけれど。

ピート もちろん! 空から太陽が落ちてくるんじゃないかと思ったぐらいだよ。人生でもっともすばらしい瞬間だった。そして、すべての人たちが初めてボクに目を向けてくれたんだ。みんなボクのことを、そのほかの人とは一線を置いて注目するようになった。

あの優勝でキミの人生は変わった?

ピート うん、今でもまだ変化し続けているし、まだしばらくは続くだろうね。ものすごくエキサイティングな体験だったけど、またそれによってプレッシャーも生じた。今までは誰もボクに対して期待を抱かなかったからね。でも今は、みんなこんなふうにささやき合っている。「サンプラスはこれからも勝つことができるか」「サンプラスは○○に勝つことができるか」ってね。

そうした自分の立場に恐怖感を抱いたりすることはない? あのタイトルはフロックだったんじゃないかとか、逆にあの1勝でものすごい自信を得たとか……。

ピート 自信はないよ。この大会には絶対勝ちたい、ということもない。ただ、今ボクの力はピークにあって、キャリアにおいても新しい局面を迎えている。大事な場面で決めることのできる最高のショットも持っている。

でも、これまでにも、ボクらが勝ち続けてほしいと願っているときに、勝つことができなくなってしまうチャンピオンを見たこともあるし、今のボクみたいに、それまでのチャンピオンを倒して成功したプレーヤーも見たことがある。ボクみたいなプレーヤーが誕生することは、人々にとっては確かにエキサイティングなことだよね。

人生についてあるかじめ計画を立てちゃうなんてヤダね。ボクは常に何かを追い求めていたいんだ

ところでキミ自身のことについて聞きたい。キミのルーツは…。

ピート サンプラスっていう名前はギリシャ系なんだ。ボク自身はアメリカ人で、南カリフォルニアの生まれだけど
(訳注:生まれはワシントンD.C.)

来年で20歳になるのはうれしいね。だってティーンエージャーじゃなくなるんだからね。成長過程ではなくなるってことだろう? でも、ボクはもうずっと前から自分が成熟していると思っていたけどね。自分の年齢にしてはね。

同年代の人たちとよく話はする方?

ピート 相手にもよるけど、どっちかといえば、年上の人と接してきたと思うよ。バカげたことをやった時期もあったけど、でも、あまりあさはかなことをする友だちとはつき合わなかったね。

ロマンチックな話はない?

ピート 女の子の話? ミーハーな子はキライだね。そういうことが聞きたいの?

特別なガールフレンドはいる?

ピート うん、まあね。でも、そんなにしょっちゅうデートできないから、本当にステディな関係になるのはまだ先の話だね。人生についてあらかじめ計画を立てるなんて、自滅的な行為だと思うよ。ボクは常に何かを追求していたいと思っているんだ。

ヒマなときは何をしてる?

ピート いろいろやるよ。子供の頃は、スケッチするのが好きだったんだ。得意っていうんじゃなくて、ただ好きだったんだ。人の顔とか動物、花、風景なんかを描いてた。人物は難しくて馬とかの方が描きやすかった。

画家になりたいと考えたことは?

ピート まさか! もしそんなことを考えていたら、有名になるには相当時間がかかったと思うよ。

早く有名になりたかったの?

ピート 誰だってそうだろう?

趣味は何?

ピート いくつかあったけど…。たとえば切手を集めたりもしたけどね。小さい頃って何だってやるけど、そんなに真剣にやるわけじゃないよね? あと、ポストカードを集めたりもしたな。遠い外国の物とか、どこか実際に自分が行った、たとえばディズニーランドで買ったりとかね。でも、全部の種類を集めちゃうともう興味がなくなって、どこかにしまい込んで、もう二度と引っ張り出したりもしなくなっちゃって……。

キミの話を聞いていると、キミは自分の人生を単純化しようとしているようにも思えるよ。

ピート そう? それはおもしろい考えだね。今、自分が置かれている状況はどんどん複雑になっていくと感じているっていうのに。

この1年間、自分のプレーが新しいレベルに到達したと感じていた。そして10代が終わろうとしている今が、重要な分岐点だと思う

キミは、たとえばお金といった物にこだわったりするような唯物論者じゃないんだろうね。

ピート うん、もちろん。ボクが何か買うとしても、それはその物を集めるためにじゃなくて、それが必要だから買うんだ。でも、お金の場合は話は別だと思うよ。お金を手に入れることができれば、何の心配もなしに明るい将来をつかむことができるからね。それに、金持ちは自分のやりたくないことをしなくてすむ。選択の幅がそれだけ広がるんだ。これは仕事に関してのことだけどね。

有名になったためにイヤな目にあったことは?

ピート 勝手にコメントを書き換えられてしまうということだね、いとも簡単に。でも、そのことには耐えていかなければならないことも知ってる。それに自分のプライバシーも守らなければならないしね。

最初はまったくの無防備で記者連中と接していて、やりたいようにやられたっていう感じだったからね。人々が何を欲しているのか、誰を信用していいのかということも知らなくてはならない、ということも学んだよ。

そうしたプレッシャーはキミのテニスにプラスになる?

ピート ボクはいつだってそう思ってるよ。プレッシャーがボクのゲームをよりシャープにするし、自分自身でもそのことを意識してる。でも、そのことは全米以前からちっとも変わってはいないんだ。この1年間、ボクは自分のプレーが新しいレベルに到達したと感じていた。自分自身にチャレンジしているような感じでずっとプレーをしていたんだ。

そして、10代が終わろうとしている今が、ボクにとってはまさに分岐点になった。20歳になるまでに自分がどれだけ成長できるかということをずっと考えてきたんだ。でも、あんなビッグ・タイトルを取るなんてことは少しも考えてはいなかったけどね。

5年後、テニスプレーヤーとして、また一個人としてどうなってると思う?

ピート 個人としてのことしか答えられないな。まず、何人かの子供の父親になっていたいね。少なくとも現在はそれを実現できると思っているんだ。普通、みんな、もう少し年をとってからそういうことを考えるのかもしれないけど。まあ、これはボクだけの力ではどうすることもできないことだから、まず人生の真のパートナーを見つけなきゃね。

テニスプレーヤーとしては、さらに上達し続けるだろうね。もっとパワフルになって、経験も積んで、全米のようなビッグなタイトルを手にすることによって自信もつく。でも、どこにも保証はないけど。そうだよね? 誰と対戦するか、そしてそれにどう立ち向かうかにかかっていると思う。それに、運ということもある。

キミがもっとも尊敬しているプレーヤーは?

ピート よく聞かれることだけど、誰にとってもそういうプレーヤーが存在するとは限らないと思うね。だいたいの人たちは、たいていトッププレーヤーの名前を期待してる。確かに多くの人が少なくとも技術面ということでは彼らを見習うべきだけど、でも、人間的な意味では別だと思うね。ボクが誰かを尊敬するとすれば、年をとりながらもエキサイティングなゲームを見せてくれる人たちを挙げるね。マッケンローとか、ヤニック・ノアとか、コナーズとか、それに女子のマルチナなんかだね。

最近、スポーツマンらしくプレーするということよりも勝つことばかりが強調されすぎているとは思わない?

ピート もしそうだとしても、それはファンやマスコミがそう願っているからじゃないのかな。

負ける、ということがそれほど美徳だとは考えられなくなったわけだ。

ピート その質問はボクより10歳年とった人にした方がいいんじゃない? 彼らがどんなふうに答えるか興味あるね。どうコート上で振る舞おうと、負けるのが好きな人はいないと思う。でも、怒リを爆発させて自滅すれば、まわりから尊敬されることはないね。

ファンが気まぐれだという意味?

ピート いや、そうじゃない。ただ映画俳優と変わりないと思うね。その人が注目されている間は、人々はどんどん彼を好きになっていく。でも、あるときパッタリとそれがとぎれてしまうんだ。マスコミは気まぐれだよ。勝ち続けている間だけはその人を追い続ける。

ボクはもっと洗練されたプレーヤーになりたい。そしてスタープレーヤーになってハイな気分を味わいたいんだ

没個性の時代だと思う?

ピート 「イエス」と言えるだろうね。リポーターはボクに質問し続ける。「あなたはシャイですか、どうですか」ってね。誰が「イエス」って答える? それは聞いている人に自分を誤解してくださいって頼んでいるだけで、そのことしか頭にないんだ。

たとえば、マッケンローやナブラチロワについて言われているような?

ピート そう、彼らの場合がいい例だね。でも、ボクは違うよ。それほどカッとくる性格じゃないし、ストレート(同性愛主義者ではない)だからね。ときにはシャイになることもあるけど、まあ、どちらにしてもおしゃべりではないよ。

今、キミはまさに輝いている感じだね。

ピート うーん、それはありがとう。でも、時間がたてばみんな飽きると思うよ。ボクは負けたときでもいい気分だよ。もちろん勝ちたいと思ってプレーしているけどね。それもボクの一面なんだ。ドラマチックにしゃべったり、振る舞ったりっていうガラじゃない。インタビューを受けるときのやり方は進歩したけど。

何をやるにしてもすべて進歩したいと考えているように聞こえるけど…。

ピート そうじゃないよ。何だってパーフェクトにこなせる人はいないだろう。でも、全米後にボクは悟ったことがあるんだ。それはインタビューに答えることもゲームの一部なんだ、っていうことなんだ。テニスプレーヤーであるということはそういうことだと…。テニスプレーヤーとして名声を得るということ、スタープレーヤーであるということ、そのためにはうまくやらなきゃね。

それじゃあ、プレーの上達とともに、キミがスタープレーヤーとして成長することを期待していいのかな。

ピート とにかくボクは、もっと洗練されたプレーヤーになりたいね。ボクは大きなチャンスを与えられ、まずはそれを手にすることができた。このまま進んでいけばいいと思う。時間はかかるだろうけど、とにかく勝ち続けなければならない。勝ち続けなければ忘れ去られてしまうからね。それは、お金を稼ぐということよりも重要なことだよ。テニス界でスターになるということは、本当にぜいたくで、すばらしく、そして心からハイな気分になれることなんだ!


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